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第十九部・マティアスと麻衣 編
東京に引っ越そうかなって思ったんです
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「なっ……、な!?」
「今は俺とデート中なんだから、俺の事を見てくれ」
そう言ってマティアスは微笑する。
「ご、ごめんなさい」
「で、何が食べたい? マイの好きな物を教えてほしい。肉料理は色々あるが、チキンか? ポークか?」
言いながらマティアスはメニューを手に持ち、麻衣に見せてくる。
「……じゃあ、鶏と豚両方食べる」
「もう一品はどうする?」
「じゃあ、海老とアボカドのタルタル。アボカド好きなんです」
「分かった。食べ終わって余裕があったら、デザートの事も考えよう」
そう言ってマティアスは向かいの席に戻り、オーダーするためにスタッフを呼ぶ。
マティアスがオーダーしている間、麻衣はチラッと女性スタッフを見た。
注文を聞いた彼女が、「よく食べるな」と思うかと被害妄想を抱いていたが、マティアスに対してデレッとする事もなく、普通に仕事をしている。
それを見て、麻衣は静かに息を吐いた。
(考えすぎなのは分かってる。私だってハンバーガーショップでバイトしていた時に、『この人全部食べるのか』とか思わなかったもん。一人で食べても私には関係ないし、家族や友達の分かもしれない)
今日はマティアスとデートだと思い、緊張しまくっていた。
こんなイケメンの隣にいるのだから、当然周りから「似合っていない」と思われると怯えていた。
だからいつもの自分と違った思考になり、メニュー一つ選ぶにも気を遣ってしまったのかもしれない。
少し落ち着くと、意識しすぎだし、見知らぬ他人の事も決めつけすぎていたと自覚した。
スタッフが去ったあと、麻衣は水を飲んで息をつく。
「公園で話していた事に戻るが、俺の仕事について反応が鈍かったのは、どういう理由からだろうか」
マティアスが話題を戻し、麻衣は「ああ」と頷いて打ち明けた。
「……私、東京に引っ越そうかなって思ったんです」
それを聞き、彼は微かに瞠目した。
「仮にマティアスさんと結婚するとして、今までの生活から一変するなら、住む場所や仕事も変わってもいいんじゃ……って思ったんです」
麻衣の言葉を聞き、マティアスは微笑んだ。
「マイは変化が苦手なように感じられた。だから立ち向かおうとする勇気を讃えたい」
勇気、と立派な事のように言われ、思わず笑う。
「ありがとうございます。まだ具体的な案を決めてる訳じゃないんです。でも今回東京に来て、やっぱり香澄といると落ち着くなって再認識しました。それにマティアスさんは能力のある人なのに、札幌に来る事で収入を下げてほしくないんです。だから私さえ東京に引っ越せば、マティアスさんはレベルの高いところで働けるし、私は香澄に会えるし、皆にとっていい案なんじゃないかな? と思いました」
そう言うと、彼は小さく頷いた。
「俺の事は気にしなくていい。金は持っているし、世界中どこに行っても不自由せず暮らせる自信はある。俺はマイがどうしたいかを優先したい。地元にいるのがいいかと思って先走ってしまったが、そう思っているなら、東京で暮らすのほうがいいのかもしれないな。生活する環境に友達がいるかいないかで、大分違うと思う」
言われて、彼が札幌に来たら誰も友達がいないのだと気づいた。
だから札幌より佑や香澄がいる東京のほうが、彼にとっても最適な場所だろう。
双子のフットワークが軽いとはいえ、羽田、成田に比べたら新千歳空港はアクセスが悪い。
「今後、どうしても香澄に相談したくなる事があると思います。ビデオ通話はできるけど、やっぱり直に会いたい。そう思うと、やっぱり東京に出てきたほうがいいですね」
今後何に困るかと考えると、東京での生活や、マティアスのようなハイクラスの男性とどう付き合うかという事になると思う。
ドイツ人の彼で悩むなら、やはりドイツ人に詳しい佑や香澄に相談に乗ってもらうのが、一番いいだろう。
「マイの気持ちや繋がりは大切にしたい」
「ありがとう。マティアスさんはどれぐらいの頻度で里帰りしたいですか?」
ドイツへの渡航費は、旅行会社のパンフレットで見た、ツアー価格しか知らない。
飛行機代や一度の帰省にどれぐらいの期間が必要かなども聞き、彼の家族にちゃんと会わせてあげたいと思った。
「それほど頻繁に帰らなくても大丈夫だ。友人は多くないし、アロクラなら好きな時に来るだろう。俺の友人たちはクラウザー家の影響もあり、日本好きだ。何かのついでに訪日する事があれば、声を掛けてくると思う。成人した身だし、父ともべったりした関係ではない。お互い元気にやっていると分かれば、それで十分だ。だから気遣わなくても大丈夫だ」
彼の父が話題に出て、教えてもらった事を思いだす。
「お父さんには新しいパートナーがいるんでしたっけ?」
「ああ。今は人生二度目の春を謳歌しているはずだ。義理の母は優しくていい人だから、二人で楽しく過ごしてほしいと思っている。いつか日本に来たら、皆に紹介して日本を案内したい」
「……いつか絶対お会いしたいです」
そう言うと、マティアスは頷いた。
「今は俺とデート中なんだから、俺の事を見てくれ」
そう言ってマティアスは微笑する。
「ご、ごめんなさい」
「で、何が食べたい? マイの好きな物を教えてほしい。肉料理は色々あるが、チキンか? ポークか?」
言いながらマティアスはメニューを手に持ち、麻衣に見せてくる。
「……じゃあ、鶏と豚両方食べる」
「もう一品はどうする?」
「じゃあ、海老とアボカドのタルタル。アボカド好きなんです」
「分かった。食べ終わって余裕があったら、デザートの事も考えよう」
そう言ってマティアスは向かいの席に戻り、オーダーするためにスタッフを呼ぶ。
マティアスがオーダーしている間、麻衣はチラッと女性スタッフを見た。
注文を聞いた彼女が、「よく食べるな」と思うかと被害妄想を抱いていたが、マティアスに対してデレッとする事もなく、普通に仕事をしている。
それを見て、麻衣は静かに息を吐いた。
(考えすぎなのは分かってる。私だってハンバーガーショップでバイトしていた時に、『この人全部食べるのか』とか思わなかったもん。一人で食べても私には関係ないし、家族や友達の分かもしれない)
今日はマティアスとデートだと思い、緊張しまくっていた。
こんなイケメンの隣にいるのだから、当然周りから「似合っていない」と思われると怯えていた。
だからいつもの自分と違った思考になり、メニュー一つ選ぶにも気を遣ってしまったのかもしれない。
少し落ち着くと、意識しすぎだし、見知らぬ他人の事も決めつけすぎていたと自覚した。
スタッフが去ったあと、麻衣は水を飲んで息をつく。
「公園で話していた事に戻るが、俺の仕事について反応が鈍かったのは、どういう理由からだろうか」
マティアスが話題を戻し、麻衣は「ああ」と頷いて打ち明けた。
「……私、東京に引っ越そうかなって思ったんです」
それを聞き、彼は微かに瞠目した。
「仮にマティアスさんと結婚するとして、今までの生活から一変するなら、住む場所や仕事も変わってもいいんじゃ……って思ったんです」
麻衣の言葉を聞き、マティアスは微笑んだ。
「マイは変化が苦手なように感じられた。だから立ち向かおうとする勇気を讃えたい」
勇気、と立派な事のように言われ、思わず笑う。
「ありがとうございます。まだ具体的な案を決めてる訳じゃないんです。でも今回東京に来て、やっぱり香澄といると落ち着くなって再認識しました。それにマティアスさんは能力のある人なのに、札幌に来る事で収入を下げてほしくないんです。だから私さえ東京に引っ越せば、マティアスさんはレベルの高いところで働けるし、私は香澄に会えるし、皆にとっていい案なんじゃないかな? と思いました」
そう言うと、彼は小さく頷いた。
「俺の事は気にしなくていい。金は持っているし、世界中どこに行っても不自由せず暮らせる自信はある。俺はマイがどうしたいかを優先したい。地元にいるのがいいかと思って先走ってしまったが、そう思っているなら、東京で暮らすのほうがいいのかもしれないな。生活する環境に友達がいるかいないかで、大分違うと思う」
言われて、彼が札幌に来たら誰も友達がいないのだと気づいた。
だから札幌より佑や香澄がいる東京のほうが、彼にとっても最適な場所だろう。
双子のフットワークが軽いとはいえ、羽田、成田に比べたら新千歳空港はアクセスが悪い。
「今後、どうしても香澄に相談したくなる事があると思います。ビデオ通話はできるけど、やっぱり直に会いたい。そう思うと、やっぱり東京に出てきたほうがいいですね」
今後何に困るかと考えると、東京での生活や、マティアスのようなハイクラスの男性とどう付き合うかという事になると思う。
ドイツ人の彼で悩むなら、やはりドイツ人に詳しい佑や香澄に相談に乗ってもらうのが、一番いいだろう。
「マイの気持ちや繋がりは大切にしたい」
「ありがとう。マティアスさんはどれぐらいの頻度で里帰りしたいですか?」
ドイツへの渡航費は、旅行会社のパンフレットで見た、ツアー価格しか知らない。
飛行機代や一度の帰省にどれぐらいの期間が必要かなども聞き、彼の家族にちゃんと会わせてあげたいと思った。
「それほど頻繁に帰らなくても大丈夫だ。友人は多くないし、アロクラなら好きな時に来るだろう。俺の友人たちはクラウザー家の影響もあり、日本好きだ。何かのついでに訪日する事があれば、声を掛けてくると思う。成人した身だし、父ともべったりした関係ではない。お互い元気にやっていると分かれば、それで十分だ。だから気遣わなくても大丈夫だ」
彼の父が話題に出て、教えてもらった事を思いだす。
「お父さんには新しいパートナーがいるんでしたっけ?」
「ああ。今は人生二度目の春を謳歌しているはずだ。義理の母は優しくていい人だから、二人で楽しく過ごしてほしいと思っている。いつか日本に来たら、皆に紹介して日本を案内したい」
「……いつか絶対お会いしたいです」
そう言うと、マティアスは頷いた。
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