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第二十一部・フェルナンド 編
心の軌道修正
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「いいよ、俺がやる。お嬢様はゆっくりお休みください」
最後は執事のように言われ、香澄は思わず照れ笑いする。
「きゅ、急にそうされると照れちゃうね。でもいつか執事さんの服を着て、自宅で執事カフェとかやってほしいなぁ」
「お安いご用だよ」
佑はクシャッと香澄の頭を撫でて微笑み、キッチンへ向かった。
彼が立ち去っていったあと、香澄はまたソファに仰向けになって小さく溜め息をつく。
リビングの天井にはシャンデリアが下がっているが、お城のような華美なデザインではなく、モダンな物だ。
(前にお城みたいなホテルに泊まった時、私が不安定になったから、きっと気を遣ってくれたんだろうな)
佑は何も言わないが、見えないところで彼の配慮が窺える。
フェルナンドの事だって、聞きたい事、確認したい事は沢山あるだろうに、あえて話題にしない。
パリで大きな仕事を控え、本当なら忙しく働かないといけないのに、彼は自分と一緒にいてくれる。
(私を優先していいのかな……)
佑が普通の彼氏なら、自分を一番に考えてくれて嬉しいと感じられるだろう。
だが香澄の婚約者は〝御劔佑〟だ。
パリにはコレクションを見るために世界中から要人が集まっていて、彼はセレブ達に求められているデザイナー兼経営者だ。
それなのに佑は自分に大切な時間を割いてくれていて……、と、思考がネガティブになっていく。
(駄目だ……)
香澄は両手で顔を覆い、ゆっくり深呼吸した。
心の中で麻衣に「どうしたらいい?」と尋ねると、親友が励ましてくれる。
『いーい? あんたは御劔さんがたった一人大切にする女性なんだから、もっと自分に自信を持ちなさい。仕事なら幾らでも代役を立てられるし、大失敗して倒産するような事にならなければ大丈夫。そうならないために、あのでかい会社には役員がいるし子会社もあるんでしょ? それに御劔さんがコケないように、優秀な秘書が他に二人もいる』
「うん……」
香澄は目を瞑ったまま、心の中の親友に頷く。
『香澄は御劔さんにとって、何にも代えがたい唯一無二の存在なんだよ。財力は桁違いだし、家柄も凄いから萎縮してしまう気持ちは分かる。でも結婚相手に〝申し訳ない〟って思ったら駄目だよ? そういう気持ちを抱くのは、本当に迷惑を掛けた時だけでいいの。簡単に謝っていたら〝ごめんなさい〟の価値が下がるからね。香澄はもっと、どんと構えて〝私愛されてるんですー〟って思ってりゃいいの!』
「……うん!」
香澄はもう一度、心の中の麻衣に向かって大きく頷く。
「よしっ」
脚を上げて勢いをつけて起き上がった時、佑がカップを両手に戻ってきた。
「どうした?」
微笑まれ、香澄は笑顔で首を横に振る。
「ううん。コート脱いでくるね」
佑に返事をしたあと、香澄は靴からスリッパに履き替え、ウォークインクローゼットに向かう。
心の中の麻衣に登場してもらったからか、落ち込んでいた気持ちは無事修正できていた。
(麻衣にお土産買っていかないと。チョコレートは買ったけど、なんか可愛いアクセサリーか雑貨か、あればいいな)
大好きな親友の事を考えると、気持ちが一気に明るくなる。
コートを脱いだついでに、香澄はリラックスするためにスウェット地のマキシワンピースに着替えた。
「おいで。ミルクは入れてあるよ」
リビングに戻ると佑はソファに座っていて、そう言うと自分の隣をポンポンと叩く。
「お邪魔します」
香澄は彼の隣に座り、ティーカップを持ってふうふうと息を吹きかける。
「猫舌なのは分かってるから、急いで飲まなくていいよ」
「うん」
香澄は何とか一口ミルクティーを飲んだあと、カップをテーブルに戻し佑にもたれかかる。
「疲れたか?」
「大丈夫」
微笑むと、佑も微笑み返しポンポンと頭を撫でてくる。
そのまま、佑はしばし見つめたあとに、顔を傾けて優しくキスをしてきた。
「ん……」
柔らかく唇を押しつけたあと、佑は一度顔を離して香澄の目を見つめてくる。
何も言わないが、キスをする事で彼が香澄の反応を確認しているのが分かった。
香澄は「いいよ」と応える代わりに、自ら佑の首に腕を回し、彼の唇を求めた。
ちゅ……、と小さな音が立ったあと、また少し顔を離した二人は微笑み合う。
佑は香澄の背中に手を回し、ゆっくり彼女をソファの上に押し倒した。
最後は執事のように言われ、香澄は思わず照れ笑いする。
「きゅ、急にそうされると照れちゃうね。でもいつか執事さんの服を着て、自宅で執事カフェとかやってほしいなぁ」
「お安いご用だよ」
佑はクシャッと香澄の頭を撫でて微笑み、キッチンへ向かった。
彼が立ち去っていったあと、香澄はまたソファに仰向けになって小さく溜め息をつく。
リビングの天井にはシャンデリアが下がっているが、お城のような華美なデザインではなく、モダンな物だ。
(前にお城みたいなホテルに泊まった時、私が不安定になったから、きっと気を遣ってくれたんだろうな)
佑は何も言わないが、見えないところで彼の配慮が窺える。
フェルナンドの事だって、聞きたい事、確認したい事は沢山あるだろうに、あえて話題にしない。
パリで大きな仕事を控え、本当なら忙しく働かないといけないのに、彼は自分と一緒にいてくれる。
(私を優先していいのかな……)
佑が普通の彼氏なら、自分を一番に考えてくれて嬉しいと感じられるだろう。
だが香澄の婚約者は〝御劔佑〟だ。
パリにはコレクションを見るために世界中から要人が集まっていて、彼はセレブ達に求められているデザイナー兼経営者だ。
それなのに佑は自分に大切な時間を割いてくれていて……、と、思考がネガティブになっていく。
(駄目だ……)
香澄は両手で顔を覆い、ゆっくり深呼吸した。
心の中で麻衣に「どうしたらいい?」と尋ねると、親友が励ましてくれる。
『いーい? あんたは御劔さんがたった一人大切にする女性なんだから、もっと自分に自信を持ちなさい。仕事なら幾らでも代役を立てられるし、大失敗して倒産するような事にならなければ大丈夫。そうならないために、あのでかい会社には役員がいるし子会社もあるんでしょ? それに御劔さんがコケないように、優秀な秘書が他に二人もいる』
「うん……」
香澄は目を瞑ったまま、心の中の親友に頷く。
『香澄は御劔さんにとって、何にも代えがたい唯一無二の存在なんだよ。財力は桁違いだし、家柄も凄いから萎縮してしまう気持ちは分かる。でも結婚相手に〝申し訳ない〟って思ったら駄目だよ? そういう気持ちを抱くのは、本当に迷惑を掛けた時だけでいいの。簡単に謝っていたら〝ごめんなさい〟の価値が下がるからね。香澄はもっと、どんと構えて〝私愛されてるんですー〟って思ってりゃいいの!』
「……うん!」
香澄はもう一度、心の中の麻衣に向かって大きく頷く。
「よしっ」
脚を上げて勢いをつけて起き上がった時、佑がカップを両手に戻ってきた。
「どうした?」
微笑まれ、香澄は笑顔で首を横に振る。
「ううん。コート脱いでくるね」
佑に返事をしたあと、香澄は靴からスリッパに履き替え、ウォークインクローゼットに向かう。
心の中の麻衣に登場してもらったからか、落ち込んでいた気持ちは無事修正できていた。
(麻衣にお土産買っていかないと。チョコレートは買ったけど、なんか可愛いアクセサリーか雑貨か、あればいいな)
大好きな親友の事を考えると、気持ちが一気に明るくなる。
コートを脱いだついでに、香澄はリラックスするためにスウェット地のマキシワンピースに着替えた。
「おいで。ミルクは入れてあるよ」
リビングに戻ると佑はソファに座っていて、そう言うと自分の隣をポンポンと叩く。
「お邪魔します」
香澄は彼の隣に座り、ティーカップを持ってふうふうと息を吹きかける。
「猫舌なのは分かってるから、急いで飲まなくていいよ」
「うん」
香澄は何とか一口ミルクティーを飲んだあと、カップをテーブルに戻し佑にもたれかかる。
「疲れたか?」
「大丈夫」
微笑むと、佑も微笑み返しポンポンと頭を撫でてくる。
そのまま、佑はしばし見つめたあとに、顔を傾けて優しくキスをしてきた。
「ん……」
柔らかく唇を押しつけたあと、佑は一度顔を離して香澄の目を見つめてくる。
何も言わないが、キスをする事で彼が香澄の反応を確認しているのが分かった。
香澄は「いいよ」と応える代わりに、自ら佑の首に腕を回し、彼の唇を求めた。
ちゅ……、と小さな音が立ったあと、また少し顔を離した二人は微笑み合う。
佑は香澄の背中に手を回し、ゆっくり彼女をソファの上に押し倒した。
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