1,426 / 1,559
第二十一部・フェルナンド 編
美味しかったよ
しおりを挟む
そしてスタッフに籍を入れる日付と、『T to K』と刻印を入れる事を伝えた。
佑は指輪を買ったのがパリなので、『Je t'aime』と入れては……? と提案してきたが、恥ずかしいので却下した。
香澄も事前に刻印の例を調べたが、『最愛の人』『永遠の愛』と言われると、事実ではあるものの怖じ気づいてしまう。
結婚前でラブラブ度が高い今でさえ「ちょっと恥ずかしいかも……」と思っているので、結婚して落ち着いたあとなら後悔するかもしれない。
……いや、まったく気にしなくなる可能性もあるが。
もちろん否定している訳ではなく、佑が「世界で一番愛しているよ」と言ってくれるのをありがたく思っている。
けれどそういう感情は、自分たち二人だけの間で完結させたい気持ちがあり、うっかり誰かに見られるかもしれない事を考えると、「ちょっと……」となってしまうのだ。
自分でもシャイすぎると分かっているが、佑もその辺りは理解し譲歩してくれた。
店を出ると夕方になっていた。
「ショコラトリーに寄っていこうか」
「うん!」
「フランスにしかないブランドがいい?」
「ううん。なんでも美味しく食べる」
「ははっ、そう言うと思った」
ケロリとして言うと、佑は破顔した。
そのあとヴァンドーム広場の近くにある有名ショコラトリーに入り、佑がボンボンショコラをオーダーしてくれる。
中にはフランス限定のボンボンショコラもあり、日本のテレビ局の名前がついている物もあって驚いてしまった。
他にもアマンドショコラなど、香澄の好きなショコラをたんまりと買い、ホテルの部屋でおやつにする用のマカロン、焼き菓子も買ってもらった。
ヴァンドーム広場もホテルも一区にあるので、店を出たあとはパリの街並みを楽しみながら歩いて戻る事にした。
なお、荷物は河野が持ってあとをついて歩いている。
「はぁぁ……! 幸せ……! 食べる前から幸せ!」
香澄は周りをうっとりと見ながら、ショコラの事を考えて悶えている。
本場のショコラトリーで気になった物をすべて買ってもらえ、食いしん坊の香澄にとってこれ以上の幸せはない。
「……ちょっと複雑だな」
「ん?」
佑がそう呟いたので、香澄は目を瞬かせて彼を見上げる。
「指輪を決めた時、今ほど喜んでいなかったから」
「うっ……。ご、ごめんなさい。指輪も美味しかったよ?」
「ぶふっ!」
頭の中がショコラに満たされたまま、指輪を褒めようとしたので、うっかり「嬉しかったよ」を「美味しかったよ」に言い間違えてしまった。
香澄本人は気づいていないのだが、佑はそれを聞いた瞬間、横を向いて噴きだしていた。
「んっ?」
「指輪……っ、美味しかったって……っ、あははは!」
珍しく佑が声を上げて笑ったのを聞いた香澄は、ようやく自分の言い間違いを理解してカーッと赤面した。
ハッとして周囲を見ると、護衛たちも少し横を向いて口元をニヤつかせている。
「今の……、ナシ!」
バッ! と両腕でバツを作ったが、もう遅い。
結局、佑はホテルに戻るまで何回も思い出し笑いをしていた。
**
「はぁ、ただいまぁ」
見るも豪華な部屋に向かって、「ただいま」と言える贅沢に、香澄は溜め息をつく。
室内は落ち着いたオレンジ色の照明に包まれ、見るだけで気持ちが落ち着く。
一泊の値段を知れば震え上がってしまうホテルなのに、佑と一緒に行動している内に少し慣れてきている自分が恐い。
香澄はモダンなソファに腰かけると、ゴロンと仰向けになった。
「何か飲む?」
佑はコートを脱ぎ、ジャケットをハンガーに掛けながら尋ねてくる。
「んー、じゃあ、紅茶淹れようかな。外寒かったから」
コートを着たまま仰向けになっていた香澄は、ソファの背もたれに手を掛けて起き上がろうとする。
佑は指輪を買ったのがパリなので、『Je t'aime』と入れては……? と提案してきたが、恥ずかしいので却下した。
香澄も事前に刻印の例を調べたが、『最愛の人』『永遠の愛』と言われると、事実ではあるものの怖じ気づいてしまう。
結婚前でラブラブ度が高い今でさえ「ちょっと恥ずかしいかも……」と思っているので、結婚して落ち着いたあとなら後悔するかもしれない。
……いや、まったく気にしなくなる可能性もあるが。
もちろん否定している訳ではなく、佑が「世界で一番愛しているよ」と言ってくれるのをありがたく思っている。
けれどそういう感情は、自分たち二人だけの間で完結させたい気持ちがあり、うっかり誰かに見られるかもしれない事を考えると、「ちょっと……」となってしまうのだ。
自分でもシャイすぎると分かっているが、佑もその辺りは理解し譲歩してくれた。
店を出ると夕方になっていた。
「ショコラトリーに寄っていこうか」
「うん!」
「フランスにしかないブランドがいい?」
「ううん。なんでも美味しく食べる」
「ははっ、そう言うと思った」
ケロリとして言うと、佑は破顔した。
そのあとヴァンドーム広場の近くにある有名ショコラトリーに入り、佑がボンボンショコラをオーダーしてくれる。
中にはフランス限定のボンボンショコラもあり、日本のテレビ局の名前がついている物もあって驚いてしまった。
他にもアマンドショコラなど、香澄の好きなショコラをたんまりと買い、ホテルの部屋でおやつにする用のマカロン、焼き菓子も買ってもらった。
ヴァンドーム広場もホテルも一区にあるので、店を出たあとはパリの街並みを楽しみながら歩いて戻る事にした。
なお、荷物は河野が持ってあとをついて歩いている。
「はぁぁ……! 幸せ……! 食べる前から幸せ!」
香澄は周りをうっとりと見ながら、ショコラの事を考えて悶えている。
本場のショコラトリーで気になった物をすべて買ってもらえ、食いしん坊の香澄にとってこれ以上の幸せはない。
「……ちょっと複雑だな」
「ん?」
佑がそう呟いたので、香澄は目を瞬かせて彼を見上げる。
「指輪を決めた時、今ほど喜んでいなかったから」
「うっ……。ご、ごめんなさい。指輪も美味しかったよ?」
「ぶふっ!」
頭の中がショコラに満たされたまま、指輪を褒めようとしたので、うっかり「嬉しかったよ」を「美味しかったよ」に言い間違えてしまった。
香澄本人は気づいていないのだが、佑はそれを聞いた瞬間、横を向いて噴きだしていた。
「んっ?」
「指輪……っ、美味しかったって……っ、あははは!」
珍しく佑が声を上げて笑ったのを聞いた香澄は、ようやく自分の言い間違いを理解してカーッと赤面した。
ハッとして周囲を見ると、護衛たちも少し横を向いて口元をニヤつかせている。
「今の……、ナシ!」
バッ! と両腕でバツを作ったが、もう遅い。
結局、佑はホテルに戻るまで何回も思い出し笑いをしていた。
**
「はぁ、ただいまぁ」
見るも豪華な部屋に向かって、「ただいま」と言える贅沢に、香澄は溜め息をつく。
室内は落ち着いたオレンジ色の照明に包まれ、見るだけで気持ちが落ち着く。
一泊の値段を知れば震え上がってしまうホテルなのに、佑と一緒に行動している内に少し慣れてきている自分が恐い。
香澄はモダンなソファに腰かけると、ゴロンと仰向けになった。
「何か飲む?」
佑はコートを脱ぎ、ジャケットをハンガーに掛けながら尋ねてくる。
「んー、じゃあ、紅茶淹れようかな。外寒かったから」
コートを着たまま仰向けになっていた香澄は、ソファの背もたれに手を掛けて起き上がろうとする。
14
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる