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第二十一部・フェルナンド 編

遠慮したら駄目だ

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「そう緊張しないで。リラックスしていこう」

 佑が笑って声かけしてくるが、無理がある。

 今香澄の手には、何十万、へたをすれば何百万の指輪が嵌まっているのだ。
 万が一の事があれば一生掛かっても払いきれない……。は大げさだが、そう思ってしまう。

 自分の口座に億単位の金が眠っているのは、すっかり記憶の彼方にある香澄だった。

「無理……。アアアア……」

 いつも高級な物は贈られているが、パリの店舗に来てグランサンクのハイジュエリーを実際につけた……、という時点でもうアウトだった。

 心臓がバクバク鳴り、変な汗が出てきて服にしみを作りそうだ。

 と、震えている香澄の手を佑がそっと握ってきた。

「落ち着いて。この三つの内からどれが一番好きか決められたら、次はマリッジリングを決めて終わるから」

 優しく言われ、香澄は深呼吸して自分を落ち着かせていく。

 そして指を揃えた自分の手を改めて見る。

(……綺麗だな)

 V字のリングにはペアシェイプカットの大きなダイヤモンドがあり、メレダイヤもついている。

 最初はギラギラしていてちょっと……と思ったが、実際につけてみると宝石の魔力に魅入られたように、その輝きに目が吸い寄せられる。

 ダイヤモンドは店内の明かりに照らされ、香澄の指で様々な色味を見せながら煌めいている。

 大きな宝石なんて……、とずっと敬遠していたつもりなのに、いざ自分の婚約指輪となると気持ちが違ってくる。

 香澄がそう思ったのを見透かしたように、佑が微笑みかけてきた。

「一生に一度の記念の指輪だから、一番好きだと思った物を選んで。そこに遠慮は必要ない。いいね?」

「うん」

 確かに、佑の言う通りだ。

 せっかく彼が記念にと言ってこんな素敵な店を予約してくれたのに、変な庶民意識で〝世界の御劔〟に安い指輪を買わせてはいけない。

 高ければいいという訳ではないが、「御劔佑の婚約者です」と婚約指輪を見せた時、世間の人が納得する物を選ぶ必要があるのではないだろうか。

(今まで佑さんは、私さえ満足すればいいと思ってくれていた。でも、結婚したら私は御劔香澄になり、クラウザー家とも縁ができる。アドラーさんや節子さん、アンネさんに『そんな指輪にしたの?』って言われたら、佑さんに申し訳ない。婚約指輪、結婚指輪だけは、遠慮したら駄目だ)

 覚悟を決めた香澄は、残り二つの候補を見る。

 そちらは少し遠慮した物で、ストレートタイプのリング部分がハニカム型が連なっているデザイン、同じくストレートタイプで、中央のダイヤの両脇に二つメレダイヤがついている物だ。

 どちらも十分豪華だが、シンプルすぎる……といえばすぎる。

(あんまり高い物をおねだりするのは気が引けるけど……)

「……こ、これ、いい?」

 指に嵌めている一番豪華な物を右手でちょんと指さすと、佑は破顔した。

「勿論!」

(……もしかしたら、初めて佑さんに高価な物のおねだりをしたかもしれない)

 改めてそう思うと、ニコニコしている佑を見て申し訳なさがこみ上げる。

(あまり我が儘を言ったら駄目だけど、今度からはもう少しおねだりをしたら、喜んでくれるのかな)

 考えながらチラッと佑を見ると、彼は嬉しそうな表情でスタッフを話をしていた。

 続いて結婚指輪を選ぶ事になり、こちらは佑もつけるので二人で相談する。

「男性用はやっぱりシンプルなのが多いね。あ、内側にダイヤモンドが入ってる」

「シークレットダイヤモンドって言うんだよ」

 佑が教えてくれ、感心した香澄はうんうんと頷く。

「色の好みはある?」

「うーん、ホワイトゴールドがいいかな。佑さんも着けやすいでしょ?」

 他にもピンクゴールド、イエローゴールドがあるが、佑が普段つけている時計はシルバー系なので、彼はゴールド系は選ばなさそうだ。

「じゃあ、そうしよう。ホワイトゴールドで気に入ったデザインは?」

 佑はそう尋ねたあと、女性スタッフに今までの話し合いをフランス語で伝えた。

『奥様はメレダイヤの指輪をおつけになられて、旦那様がシンプルなデザインを……という組み合わせも素敵ですよ。色が揃っているなら、こちらのVラインのメレダイヤの指輪と、シンプルな指輪でも、セットとして素敵ですし』

 女性スタッフは香澄にも分かりやすいように英語で言い、タブレットで指輪を見せていく。

「どう思う?」

 佑が尋ねてくる。

「うーん……。毎日ダイヤモンドつけるの、ちょっと気が引ける……のが、正直なところだけど……」

 そこまで言って、香澄は考え込む。

 佑は彼女の横顔を見ていたが、微笑んで肩をポンと叩いてきた。

「さっきは俺の事を考えて、普段は選ばない物を選んでくれただろう? 結婚指輪は本当に好きな物を選んでいいよ。俺は香澄との結婚指輪なら、何でもいいから」

 彼が気を遣ってくれたのを知り、香澄は小さく息を吐いて肩から力を抜く
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