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第二十一部・フェルナンド 編

とこしえの花

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「……いいんじゃないか?」

 マティアスはしばし麻衣の指を見たあとにそう言い、彼女は目を瞬かせる。

「俺はアクセサリーにこだわりはない。普段から何もつけないから興味を持たなかった」

「ああ、うん。……そうだね」

 彼は本当にシンプルな人で、アクセサリーを着けないし、覚えている限りタトゥもなかった。

「初めてのアクセサリーが麻衣とおそろいで、とても嬉しい」

(うっ)

 相変わらずこの男のドストレートな言葉は、心臓に悪い。

(店員さんが聞いてるからーっ!)

 心の中で叫び、焦ってスタッフを見たけれど、彼女はニコニコしたままだ。

(きっと色んなカップルを見てきたから、慣れている……んだと思おう。そうしよう)

「俺も桜は好きだし、青と紫のグラデーションなら男でもつけやすいと思う。だがピンクの指輪でも、麻衣とおそろいなら喜んでつけていただろう」

「え? そ、そう?」

(いや、個人の自由だ)

『ピンクは女の子の色』的な認識を少し引きずっている麻衣は彼の言葉に一瞬驚いたが、それだけ自分を大切に想ってくれているのだと思うと、感謝の思いが湧いた。

「俺にとって一番大切なのは、マイが気に入ったデザインである事だ。俺は特に『こういうアクセサリーをつけたい』という希望がないから、マイの好みの物を身につけたい」

「……ん、分かった。じゃあ、これにしよう」

 決断を出すと、スタッフが刻印をどうするかという提案をしてきた。

 事前にネットで調べたが、互いのイニシャルや籍を入れる日付、愛の言葉を英語でなど、色々バリエーションがあるそうだ。

「この○○to××ってシンプルでいいかもだけど、私たちどっちもMだからちょっと紛らわしいね」

「名字の頭文字は違うが、確かにM同士だな。…………ふふっ」

 嬉しかったのか、マティアスが小さく笑う。

 そんな彼の笑いのツボが相変わらず分からないなと思いつつ、麻衣は刻印について提案する。

「入籍の日付は入れたいな。万が一忘れたとしても役に立ちそう」

「確かに。それは絶対入れよう」

 指輪の裏側にはブランドの刻印も入るらしく、刻印の文字数にも限りがあるそうだ。
 長くても二十文字ぐらいとして、それほど欲張れない。

「入籍日に加えて、M&Mってどうだろうか」

「…………」

 マティアスの提案を聞き、麻衣は彼を改めて見る。

(やっぱりこの人、感覚が普通の人とちょっとズレてるよな……)

「それがマティアスさんの希望なら、私の日付案と合体させようか。それでいいよ」

「よし、決まりだ」

 刻印には入籍日とM&Mと入れる事になり、麻衣は「自分たちらしいな」と感じる。

(……チーム名だと思おう。結婚したら色々大変だし、チームM&Mで)

「……ふふっ」

 マティアスのペースに慣れてきた麻衣は、だんだん彼と同じポイントで笑うようになってきた。

 結婚指輪のデザインについてあらかた決まったあと、マティアスがさらに提案してきた。

「じゃあ、婚約指輪も買っておこうか」

「えっ? いらないって言ったじゃん!」

 驚いて声を上げるが、彼は首を小さく横に振る。

「一生に一度しかないから、記念の指輪はきちんと贈りたい。なんなら別の店の物も含め、考え直してもいい」

 そう言われた麻衣は、マティアスなら超高級なハイジュエリーブランドも候補に入れかねないと思い、慌ててカタログを捲った。

(そう言われても、ジュエリーの善し悪しなんて分からないもんなぁ)

 カタログを捲っていくうちに、いかにも女性らしいデザインの指輪は、あまり自分に似合わない気がしてした。

 こう口にすれば、マティアスは「好きな物を身につければいい」と言うに決まっている。

 だが一生の思い出になる物だからこそ、心理的に抵抗がある物は身につけないほうがいい気がした。

「あ」

 不意に目に留まったのは、Vラインのリングだ。

 メインとなる大きめのダイヤモンドは五つの爪で留められていて、まるで花のようだ。

 その隣についている小さめのダイヤも、同じように花のようにあしらわれている。

(可愛いな……)

 気がつけば麻衣は〝とこしえの花〟と名付けられたその指輪の写真を、ジッと見ていた。

「気に入ったか?」

 彼女の様子を見たマティアスに尋ねられ、麻衣はハッとして顔を上げた。
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