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第二十一部・フェルナンド 編
パリデートしない?
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そして佑は香澄の太腿に顔を埋め、溜め息をついた。
佑はしばらく同じ体勢で何かを考えたあと、床の上に胡座をかいて切なく笑った。
「……俺、今、香澄に怒ってもらって、自分の罪をなかった事にしようとしていた」
言われて、先ほど彼が手を握って頬を叩かせた事を思いだす。
「俺はマティアスと同じ事を考えていた。怒られて、殴られて、自分一人だけ許されようとしていた」
今にも泣きそうな顔をしている佑を見て、香澄は首を左右に振り、ギュッと彼を抱き締めた。
「……いいの。もう、いいの。私は佑さんに贖罪なんて求めてない。佑さんに対して怒ってないもの。勝手に罪を感じなくていいんだよ」
顔を上げて潤んだ目で見つめると、佑はクシャリと表情を歪める。
怒鳴られ、打たれるよりも、こうやって優しく許される事のほうがつらい時もある。
意図的に佑を苦しめたい訳ではないけれど、どう考えても、香澄には佑を責めるなどできなかった。
だから、必死にこの流れを止めようとする。
「……ねぇ、佑さん。パリデートしない?」
「え?」
突如としてデートの提案をされ、彼は目を瞬かせる。
「ルームサービスもいいけど、パリの街中で美味しい物を食べたいな。色んなものを見て、気持ちを上げたい」
佑の目を見つめて微笑むと、彼は頷いて微笑み返した。
「そうしようか」
「うん! 前に行った……、カタコンブ近くの……」
香澄は必死に、以前行った地名を思い出そうとする。
「十四区のモンパルナス?」
「そう、それ。あの界隈、クレープリーが沢山あるんでしょう? あそこで悩みたいな」
「仰せのままに、お嬢様」
明るく話していると佑も合わせてくれ、暗かった雰囲気はいつも通りになり、二人はぎこちないながらも〝いつも〟を取り戻そうとしていた。
「支度をしている間に、車の準備をしてもらおう」
「え? 歩きでもいいよ」
「日本の飲食店の感覚でいると早めにクローズされてしまうから、行きは車にしよう」
「あ、そっか」
起きたばかりなので朝だと思っていたが、時計を見れば昼前だ。
着替えはスーツケースに入っているので寝室に向かうと、佑も一緒に歩きながら悪戯っぽく言った。
「今回はフランベしてくれる店なんてどうだ?」
「えっ? フランベ? あの、火が出るやつ?」
「そう。前回はジャフォ映えするタイプだったけど、見た目シンプルなタイプもとても美味しいんだ。大きなクレープを畳んで、ラム酒やグランマルニエなどの酒を掛けて、ボッとフランベ」
言いながら、佑は魔法を使うように手を振り、炎が燃え上がる様子を表す。
「アルコールのいい香りがするし、目の前でクレープに酒やバターをまぶしてくれるのが見られる」
「すごーい! 見てみたい! ねぇ、カフェでクレープシュゼットを頼んだら、時々フランベしてくれるお店があるでしょ? あんな感じ?」
以前、銀座にあるクレープ店に行った時、オレンジソースやバターで味を付けられたクレープシュゼットに、洋酒を注ぎながら火をつけてくれるサービスをしてもらった事がある。
「んー、フランベなのは同じだけど、タイプが違うと思うよ。まぁ、見てのお楽しみ」
「んふふ、分かった」
寝室に着くと、起きたあとに一応整えたものの、フットスローが少し乱れていたので直した。
香澄は寝室内に置いてあったスーツケースを開け、服を確認する。
荷物は香澄が持ってきたものではなく、何も持たず渡米してしまった彼女のために、佑が用意してくれたものだ。
「そうだ! パスポート!」
ハッとして顔を上げた時、同じくスーツケースを開けていた佑が微笑んだ。
「ご心配なく」
彼を見ると、香澄のパスポートを手に持って小さく振って示していた。
「……良かったぁ…………」
香澄は安堵しきって笑顔になると、佑からパスポートを受け取り、「ありがとう」とチュッとキスをした。
(服は……、と)
再びスーツケースをチェックし始めると、香澄のお気に入りの服が入っていて「さすが佑さん」と嬉しくなる。
香澄の服や物が入っているスーツケースは一つだけではなく、アウターや靴などかさばるアイテムも複数持ってきていて、再度佑のこだわりに感謝した。
佑はしばらく同じ体勢で何かを考えたあと、床の上に胡座をかいて切なく笑った。
「……俺、今、香澄に怒ってもらって、自分の罪をなかった事にしようとしていた」
言われて、先ほど彼が手を握って頬を叩かせた事を思いだす。
「俺はマティアスと同じ事を考えていた。怒られて、殴られて、自分一人だけ許されようとしていた」
今にも泣きそうな顔をしている佑を見て、香澄は首を左右に振り、ギュッと彼を抱き締めた。
「……いいの。もう、いいの。私は佑さんに贖罪なんて求めてない。佑さんに対して怒ってないもの。勝手に罪を感じなくていいんだよ」
顔を上げて潤んだ目で見つめると、佑はクシャリと表情を歪める。
怒鳴られ、打たれるよりも、こうやって優しく許される事のほうがつらい時もある。
意図的に佑を苦しめたい訳ではないけれど、どう考えても、香澄には佑を責めるなどできなかった。
だから、必死にこの流れを止めようとする。
「……ねぇ、佑さん。パリデートしない?」
「え?」
突如としてデートの提案をされ、彼は目を瞬かせる。
「ルームサービスもいいけど、パリの街中で美味しい物を食べたいな。色んなものを見て、気持ちを上げたい」
佑の目を見つめて微笑むと、彼は頷いて微笑み返した。
「そうしようか」
「うん! 前に行った……、カタコンブ近くの……」
香澄は必死に、以前行った地名を思い出そうとする。
「十四区のモンパルナス?」
「そう、それ。あの界隈、クレープリーが沢山あるんでしょう? あそこで悩みたいな」
「仰せのままに、お嬢様」
明るく話していると佑も合わせてくれ、暗かった雰囲気はいつも通りになり、二人はぎこちないながらも〝いつも〟を取り戻そうとしていた。
「支度をしている間に、車の準備をしてもらおう」
「え? 歩きでもいいよ」
「日本の飲食店の感覚でいると早めにクローズされてしまうから、行きは車にしよう」
「あ、そっか」
起きたばかりなので朝だと思っていたが、時計を見れば昼前だ。
着替えはスーツケースに入っているので寝室に向かうと、佑も一緒に歩きながら悪戯っぽく言った。
「今回はフランベしてくれる店なんてどうだ?」
「えっ? フランベ? あの、火が出るやつ?」
「そう。前回はジャフォ映えするタイプだったけど、見た目シンプルなタイプもとても美味しいんだ。大きなクレープを畳んで、ラム酒やグランマルニエなどの酒を掛けて、ボッとフランベ」
言いながら、佑は魔法を使うように手を振り、炎が燃え上がる様子を表す。
「アルコールのいい香りがするし、目の前でクレープに酒やバターをまぶしてくれるのが見られる」
「すごーい! 見てみたい! ねぇ、カフェでクレープシュゼットを頼んだら、時々フランベしてくれるお店があるでしょ? あんな感じ?」
以前、銀座にあるクレープ店に行った時、オレンジソースやバターで味を付けられたクレープシュゼットに、洋酒を注ぎながら火をつけてくれるサービスをしてもらった事がある。
「んー、フランベなのは同じだけど、タイプが違うと思うよ。まぁ、見てのお楽しみ」
「んふふ、分かった」
寝室に着くと、起きたあとに一応整えたものの、フットスローが少し乱れていたので直した。
香澄は寝室内に置いてあったスーツケースを開け、服を確認する。
荷物は香澄が持ってきたものではなく、何も持たず渡米してしまった彼女のために、佑が用意してくれたものだ。
「そうだ! パスポート!」
ハッとして顔を上げた時、同じくスーツケースを開けていた佑が微笑んだ。
「ご心配なく」
彼を見ると、香澄のパスポートを手に持って小さく振って示していた。
「……良かったぁ…………」
香澄は安堵しきって笑顔になると、佑からパスポートを受け取り、「ありがとう」とチュッとキスをした。
(服は……、と)
再びスーツケースをチェックし始めると、香澄のお気に入りの服が入っていて「さすが佑さん」と嬉しくなる。
香澄の服や物が入っているスーツケースは一つだけではなく、アウターや靴などかさばるアイテムも複数持ってきていて、再度佑のこだわりに感謝した。
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