1,409 / 1,508
第二十一部・フェルナンド 編
狂喜
しおりを挟む
警察署から解放されたフェルナンドは、ロサンゼルスのホテルのベッドで放心していた。
実際彼は〝何もしていなかった〟が、「騒いでいる」とホテルに通報した客がいるらしく、ホテルスタッフが〝注意したにも関わらず〟騒ぎ続けたので警察を呼ばれたという事になっている。
さらに〝白い粉の入った袋〟があったため、疑われて拘留されていた。
――結局、その白い粉はただの小麦粉で、彼は注意を受けただけで警察署から解放された訳なのだが。
『畜生……』
何者かのクラッキングによって、フェルナンドは所持している現金以外、無一文になった。
昨今電子マネー化が進んでいるなか、『現金を持っている奴は馬鹿だ』と豪語していた自分が、まさか現金に縋る羽目になるとは――。
(一度スペインに戻ったあと、友人に頭を下げて金を借りるしかない。『クラッキングされた』と言えば同情してくれるだろう)
サイバー攻撃を仕掛けてきた相手が誰かは分からないが、裏で手を引いているのは御劔佑に違いない。
(思ってみれば、エイデン・アーチボルドも奴の仲間かもしれない)
警察から解放されたあとに彼に連絡をしてみたが、すでに通信手段を断たれたあとだった。
香澄は正式に〝売った〟訳だし、これ以上エイデンに関わる理由はない。
だがどうしても、彼の事を考えるとモヤモヤして仕方がない。
(畜生……。最低限あの女さえいれば、切り札になったのに)
悔しさのあまり歯ぎしりをし、髪を掻きむしってもどうにもならない。
『アアアアァアァッ!!』
フェルナンドは血走った目を見開いて叫び、荒くなった呼吸を繰り返す。
そして起き上がると、スマホを手にしメッセージアプリを開く。
『くそ……っ! 〝まだ〟か!? どうして返事がない!?』
フェルナンドはある人物から新しいメッセージが入っていないか確認したあと、画面をスクロールして過去のやり取りを見る。
『必ず連絡をくれると言ったのに……っ! 半年もあればどうにかなっただろう!』
フェルナンドは画面の向こうの〝誰か〟に怒鳴り、スマホをベッドに投げつけると頭を掻きむしる。
彼は荒くなった呼吸を繰り返したあと、目を閉じて深呼吸し、少しずつ自分を落ち着かせていく。
『……落ち着け……。まだネタはあるはずだ。ここまでやらてただじゃ済まさない。俺の誇りを傷つけ、敵に回した事を後悔させてやる』
呟いたあと、フェルナンドは立ち上がるとリビングルームに向かい、クラッキングされたパソコンを開き、電源を入れた。
データはすべて初期化されていたが、基本的なアプリはそのままある。
彼は無表情でトントンと画面をタップし、インターネットのサーチエンジンに〝ファッションウィーク〟〝CEP〟と入力した。
やがてパリコレクションの日程を知った彼は、室内に控えていたボディーガードに声を掛けた。
『パリに向かうぞ。パリコレのパスがどうかならないか、あちこちに連絡を入れろ』
『承知いたしました』
ボディガードが返事をした時、フェルナンドのスマホが鳴った。
さして期待せずメッセージアプリを見た彼の目に、――生き生きとした光が宿る。
『……そうだよ、エミリア。あんたがいないと始まらない』
呆然としていた彼の表情が、ゆっくりと歓喜に彩られていく。
歓喜というよりも、狂喜だ。
彼女からのメッセージを受け取り、フェルナンドは残忍な笑みを浮かべる。
『……あぁ、分かった。あんたが正義だ』
呟いたフェルナンドは、ボディガードに付け加えた。
『……それから、俺の靴裏に仕込めるサイズのナイフを入手しろ』
『イエス、ボス』
そのあと、フェルナンドは何かが吹っ切れた表情になり、脚を組んで窓の外を見た。
『あとは、パリ行きのチケットを手配しておけ』
ボディガードが応えたあと、フェルナンドは目を閉じ、歌うように言う。
『ようやく、忌々しい奴を消せる』
**
目を開けると、知らない天井が視界に入る。
(どこだっけ……)
あちこちに移動していて、香澄は自分がどこにいるのかすぐ思い出せずにいた。
横を見ると佑がいて、安堵の溜め息をついた香澄はウトウトと目を瞬かせる。
頭の中は靄が掛かったように重たく真っ白で、何も考える事ができない。
あまりに疲れていて、自分が何をしていたのか、なぜここにいるのか思いだすのも億劫だ。
実際彼は〝何もしていなかった〟が、「騒いでいる」とホテルに通報した客がいるらしく、ホテルスタッフが〝注意したにも関わらず〟騒ぎ続けたので警察を呼ばれたという事になっている。
さらに〝白い粉の入った袋〟があったため、疑われて拘留されていた。
――結局、その白い粉はただの小麦粉で、彼は注意を受けただけで警察署から解放された訳なのだが。
『畜生……』
何者かのクラッキングによって、フェルナンドは所持している現金以外、無一文になった。
昨今電子マネー化が進んでいるなか、『現金を持っている奴は馬鹿だ』と豪語していた自分が、まさか現金に縋る羽目になるとは――。
(一度スペインに戻ったあと、友人に頭を下げて金を借りるしかない。『クラッキングされた』と言えば同情してくれるだろう)
サイバー攻撃を仕掛けてきた相手が誰かは分からないが、裏で手を引いているのは御劔佑に違いない。
(思ってみれば、エイデン・アーチボルドも奴の仲間かもしれない)
警察から解放されたあとに彼に連絡をしてみたが、すでに通信手段を断たれたあとだった。
香澄は正式に〝売った〟訳だし、これ以上エイデンに関わる理由はない。
だがどうしても、彼の事を考えるとモヤモヤして仕方がない。
(畜生……。最低限あの女さえいれば、切り札になったのに)
悔しさのあまり歯ぎしりをし、髪を掻きむしってもどうにもならない。
『アアアアァアァッ!!』
フェルナンドは血走った目を見開いて叫び、荒くなった呼吸を繰り返す。
そして起き上がると、スマホを手にしメッセージアプリを開く。
『くそ……っ! 〝まだ〟か!? どうして返事がない!?』
フェルナンドはある人物から新しいメッセージが入っていないか確認したあと、画面をスクロールして過去のやり取りを見る。
『必ず連絡をくれると言ったのに……っ! 半年もあればどうにかなっただろう!』
フェルナンドは画面の向こうの〝誰か〟に怒鳴り、スマホをベッドに投げつけると頭を掻きむしる。
彼は荒くなった呼吸を繰り返したあと、目を閉じて深呼吸し、少しずつ自分を落ち着かせていく。
『……落ち着け……。まだネタはあるはずだ。ここまでやらてただじゃ済まさない。俺の誇りを傷つけ、敵に回した事を後悔させてやる』
呟いたあと、フェルナンドは立ち上がるとリビングルームに向かい、クラッキングされたパソコンを開き、電源を入れた。
データはすべて初期化されていたが、基本的なアプリはそのままある。
彼は無表情でトントンと画面をタップし、インターネットのサーチエンジンに〝ファッションウィーク〟〝CEP〟と入力した。
やがてパリコレクションの日程を知った彼は、室内に控えていたボディーガードに声を掛けた。
『パリに向かうぞ。パリコレのパスがどうかならないか、あちこちに連絡を入れろ』
『承知いたしました』
ボディガードが返事をした時、フェルナンドのスマホが鳴った。
さして期待せずメッセージアプリを見た彼の目に、――生き生きとした光が宿る。
『……そうだよ、エミリア。あんたがいないと始まらない』
呆然としていた彼の表情が、ゆっくりと歓喜に彩られていく。
歓喜というよりも、狂喜だ。
彼女からのメッセージを受け取り、フェルナンドは残忍な笑みを浮かべる。
『……あぁ、分かった。あんたが正義だ』
呟いたフェルナンドは、ボディガードに付け加えた。
『……それから、俺の靴裏に仕込めるサイズのナイフを入手しろ』
『イエス、ボス』
そのあと、フェルナンドは何かが吹っ切れた表情になり、脚を組んで窓の外を見た。
『あとは、パリ行きのチケットを手配しておけ』
ボディガードが応えたあと、フェルナンドは目を閉じ、歌うように言う。
『ようやく、忌々しい奴を消せる』
**
目を開けると、知らない天井が視界に入る。
(どこだっけ……)
あちこちに移動していて、香澄は自分がどこにいるのかすぐ思い出せずにいた。
横を見ると佑がいて、安堵の溜め息をついた香澄はウトウトと目を瞬かせる。
頭の中は靄が掛かったように重たく真っ白で、何も考える事ができない。
あまりに疲れていて、自分が何をしていたのか、なぜここにいるのか思いだすのも億劫だ。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
2,461
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる