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第二十一部・フェルナンド 編

城の隅で蠢く

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「俺の性格が分かっていたら想像がつくだろう? 誘われたら応じるが、大勢とワイワイ騒ぐタイプではない。確かにドイツ人は仲間や家族を大切にするし、大勢で過ごすのを好む。だが例外はいる。俺は必ず仲間や家族と一緒でなくては、というタイプではない」

「そう……だね」

 マティアスが友人といるところは見た事がないが、佑や双子と一緒にいる姿は見た。

 その上で、彼は大勢でワイワイするより、気の知れた者と心置きなく過ごす事を好んでいるように思える。

(もしマティアスさんが双子さんみたいな性格だったら、私は付き合ってなかっただろうな……)

 そう思い、麻衣は生ぬるく笑う。

「結婚式の準備はマイの考えを尊重したいから、あまりこちらの事は気にしなくていい」

「ん、分かった」

 こういうふうに説明をした以上、麻衣が何を言ってもマティアスは態度を変えないと察した。

 返事をしてからフライパンを見ると、肉の輪郭がなかなかいい色になっていてドキッとした。

「あっぶな!」

 肉をひっくり返した麻衣は、香澄の事やこれからの自分の事を考え、溜め息をついた。



**



『ん……っ、はぁ……っ』

 唇と唇が離れ、艶冶な声と二人分の吐息が漏れる。

 柔らかな女性の唇と、気持ちのいいキスを味わった男性はうっとりと目を細める。

 そして自身の屹立を食い締める、きつく柔らかな膣肉の感触に『あぁ……』と声を漏らした。

 フランス、ランスにあるガブリエルの城のあちこちには、監視カメラが設置されている。

 夫に従順になったエミリアは、一応の信頼を得て城の中を歩き回れるようになったあと、どこにカメラがあるか確認した。

 その後、城の外部から入る業者にも目を付け、監視カメラの死角で男性を籠絡するようになっていたのだ。

『気持ちいい?』

『奥様、いけません』

 中年の男性は絶世の美女にリードされ、快楽の声を漏らしながら言葉だけ抵抗する。

『そんな事言わないで。楽しみましょう?』

 妖艶に笑ったエミリアは腰をくねらせ、男性の屹立を絞り上げる。

『あぁ……っ』

 か細い声を上げた男性は、エミリアのお尻に指を食い込ませてガツガツと腰を振り立てる。
 立ったまま犯されるエミリアは、荒い息を漏らしながら昏く笑った。

『ねぇ、お願いがあるの……』



**



 ロサンゼルスを発ったあと、約十一時間のフライトでパリ・シャルル・ド・ゴール国際空港に、現地時間の朝七時近くに着陸らしい。

 香澄は一応寝られたものの、強いストレスと不安に晒されていたため、深い眠りは得られなかった。

 夜間、何度も目覚めては隣に佑がいる事を確認し、自分を落ち着かせてはまた浅い眠りに入る。一晩中そんな状態だったため、ろくに眠れた気がしなかった。

 だが安心できる場所で体を休められたので、起床時間になる頃には大分楽になっていた。

 食事をして佑の隣で眠り、朝を迎えると、かなり気力が満ちていた。

 あとはパリのホテルでバスタブに浸かる事ができたら、もっと回復するだろう。

 今までも不安定になるたびに、佑がこう尋ねてきた。

『腹減ってないか? 寝不足じゃない? 風呂に入って気分を変えてきたらどうだ? 体調が悪いとろくな事を考えないから、悩むより前にその三点をクリアしよう』

 気圧や、女性の場合はPMSなども関係するが、人間はどうしてもその三つが不足すると不安定になりやすいらしい。

 香澄がくよくよするたび、佑は『その三つをしっかり満たしてから、もう一度悩んでごらん』と言っていた。

(凄いな……。ご飯と睡眠の力)

 着替えるとさらに気持ちがシャッキリし、もっとエネルギーをとろうと、客室乗務員が運んできた朝食をしっかり食べた。

 食事は和食を選び、高級料亭にも引けを取らない味に香澄は舌鼓を打つ。

「パリは……、お仕事、だよね」

 ようやく思考が正常に戻りつつある香澄は、佑のスケジュールを思いだして尋ねる。

「ああ。香澄はホテルで休んでいてくれたら大丈夫だから」

「うん……、でも」

 あっさりさらわれて佑に負担を与え、何も働けていないのは、あまりに秘書として情けない。

 佑は視線を落とした香澄の肩を、ギュッと抱き寄せた。
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