1,401 / 1,548
第二十一部・フェルナンド 編
おやすみなさい
しおりを挟む
「久しぶりに飲むと美味しいね」
「確かに。たまにジュースを飲むと『美味いな』って感じる」
佑がベッドに座ったあと、二人はたわいのない話をして笑い合う。
飲み物を飲んだあと、香澄はベッドサイドにあるドリンクホルダーにペットボトルを置き、体温計を腋に挟んだ。
待っている間、佑はシーツの上で香澄の手を握ってくる。
「大丈夫か?」
主語のない問いかけだったが、彼も明確に〝何か〟を指しているのではないだろう。
香澄を心配する理由は沢山あるし、一つ一つを言葉にすればキリがない。
「……だいじょ」
「違う。間違えた」
「大丈夫」と答える前に、佑は自分の言葉を打ち消す。
「こう尋ねたら香澄がどう答えるか分かっていたはずだ。香澄はどんな状況にあっても、俺を失望させないように頑張ってしまう」
彼は悲しげに笑い、香澄の頭を撫でると額にキスをした。
自分を理解してくれている言葉だが、彼に負担を与えているように感じてしまう。
(……駄目だ。何でもネガティブに捉えてしまっている。こういう時は寝ないと)
その時、ピピピッと電子音が鳴った。
「見せて」
「ん」
体温計を佑に渡す前、自分で見てみると三十八度六分あった。
(うわ……)
これだけ高熱だったのに、気づかなかったのは逆に凄い。
佑は体温計を見て目を細め、小さく息を吐くと香澄の背中を支えて寝かせた。
「関節は痛い? 咳やくしゃみは出る?」
「ううん。熱いだけ」
「……なら、いつかの俺みたいに、ストレスによる熱かな」
「そっか……」
「氷枕とか持ってくるから、少し待ってて。寝ててもいいから」
「うん」
佑はクローゼットからルームウェアのズボンを出し、「穿いておいて」と言う。
彼がまた寝室を出ていったあと、香澄はモソモソとルームウェアを着て、仰向けになると溜め息をついた。
色々な事を考えないといけないのに、考えが纏まらない。
(今は駄目。寝るの)
自分に言い聞かせ、なるべく何も考えないように努める。
やがて佑が戻ってきて、保冷剤をタオルで巻いて額に置き、腋にも挟んでくれた。
「よく眠れるように、アイマスクと耳栓もする?」
「ん……、耳栓だけしておく」
「分かった」
佑はベッドサイドの引き出しから新品の耳栓を出し、手渡してくる。
香澄はスポンジでできたそれを細くこより、耳に入れた。
耳栓の中には特殊な形をした物があるが、スポンジ型の物が一番耳にフィットするので香澄はそれを愛用していた。
「……佑さん、手繋いでて」
「ん」
ガウンを脱いだ彼は、Tシャツとスウェットズボンを穿いてベッドの中に潜り込む。
彼のぬくもりを側に感じ、手を握っていてもらうと、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
「おやすみなさい、佑さん」
呟いた声は飛行機のエンジン音の中に紛れる。
彼の返事は聞こえなかったが、繋いでいる手に微かに力が籠もった。
**
場所は札幌に移り、時は香澄が行方不明になったとマティアスに知らされたあと。
麻衣は自宅のキッチンに立って油淋鶏を作っていた。
先にネギやにんにくを刻み、タレを作って少ししんなりするまで浸けておく。
その間に副菜になる肉じゃがを作り、味を染みこませている間に鶏もも肉を観音開きにして、下味をつけておく。
麻衣自身モリモリ食べるし、マティアスも肉は好きらしいので、もも肉は二枚だ。
マティアスも手伝うと言ってくれて、彼はすり鉢で黒ごまをすっている。
麻衣はごま和えにするほうれん草を茹でながら、考え事をしていた。
(将来的にビザが必要とは言っていたけど、配偶者ビザ……?)
この間突然マティアスに「配偶者ビザを取得したい」と言われ、「とりあえず待って」と反射的に言ってしまった。
「確かに。たまにジュースを飲むと『美味いな』って感じる」
佑がベッドに座ったあと、二人はたわいのない話をして笑い合う。
飲み物を飲んだあと、香澄はベッドサイドにあるドリンクホルダーにペットボトルを置き、体温計を腋に挟んだ。
待っている間、佑はシーツの上で香澄の手を握ってくる。
「大丈夫か?」
主語のない問いかけだったが、彼も明確に〝何か〟を指しているのではないだろう。
香澄を心配する理由は沢山あるし、一つ一つを言葉にすればキリがない。
「……だいじょ」
「違う。間違えた」
「大丈夫」と答える前に、佑は自分の言葉を打ち消す。
「こう尋ねたら香澄がどう答えるか分かっていたはずだ。香澄はどんな状況にあっても、俺を失望させないように頑張ってしまう」
彼は悲しげに笑い、香澄の頭を撫でると額にキスをした。
自分を理解してくれている言葉だが、彼に負担を与えているように感じてしまう。
(……駄目だ。何でもネガティブに捉えてしまっている。こういう時は寝ないと)
その時、ピピピッと電子音が鳴った。
「見せて」
「ん」
体温計を佑に渡す前、自分で見てみると三十八度六分あった。
(うわ……)
これだけ高熱だったのに、気づかなかったのは逆に凄い。
佑は体温計を見て目を細め、小さく息を吐くと香澄の背中を支えて寝かせた。
「関節は痛い? 咳やくしゃみは出る?」
「ううん。熱いだけ」
「……なら、いつかの俺みたいに、ストレスによる熱かな」
「そっか……」
「氷枕とか持ってくるから、少し待ってて。寝ててもいいから」
「うん」
佑はクローゼットからルームウェアのズボンを出し、「穿いておいて」と言う。
彼がまた寝室を出ていったあと、香澄はモソモソとルームウェアを着て、仰向けになると溜め息をついた。
色々な事を考えないといけないのに、考えが纏まらない。
(今は駄目。寝るの)
自分に言い聞かせ、なるべく何も考えないように努める。
やがて佑が戻ってきて、保冷剤をタオルで巻いて額に置き、腋にも挟んでくれた。
「よく眠れるように、アイマスクと耳栓もする?」
「ん……、耳栓だけしておく」
「分かった」
佑はベッドサイドの引き出しから新品の耳栓を出し、手渡してくる。
香澄はスポンジでできたそれを細くこより、耳に入れた。
耳栓の中には特殊な形をした物があるが、スポンジ型の物が一番耳にフィットするので香澄はそれを愛用していた。
「……佑さん、手繋いでて」
「ん」
ガウンを脱いだ彼は、Tシャツとスウェットズボンを穿いてベッドの中に潜り込む。
彼のぬくもりを側に感じ、手を握っていてもらうと、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
「おやすみなさい、佑さん」
呟いた声は飛行機のエンジン音の中に紛れる。
彼の返事は聞こえなかったが、繋いでいる手に微かに力が籠もった。
**
場所は札幌に移り、時は香澄が行方不明になったとマティアスに知らされたあと。
麻衣は自宅のキッチンに立って油淋鶏を作っていた。
先にネギやにんにくを刻み、タレを作って少ししんなりするまで浸けておく。
その間に副菜になる肉じゃがを作り、味を染みこませている間に鶏もも肉を観音開きにして、下味をつけておく。
麻衣自身モリモリ食べるし、マティアスも肉は好きらしいので、もも肉は二枚だ。
マティアスも手伝うと言ってくれて、彼はすり鉢で黒ごまをすっている。
麻衣はごま和えにするほうれん草を茹でながら、考え事をしていた。
(将来的にビザが必要とは言っていたけど、配偶者ビザ……?)
この間突然マティアスに「配偶者ビザを取得したい」と言われ、「とりあえず待って」と反射的に言ってしまった。
12
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる