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第二十一部・フェルナンド 編

佑さんが甘やかして愛してくれるんでしょう?

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「……佑さん、……だぁ……」

 彼と離れていたのは十五日間なのに、一年以上会えていなかった気がした。

「……もう離れたくない……」

 安全な所にいて何も怖くないはずなのに、心の奥底から不安がこみ上げ、知らないうちに両手に力が籠もっていた。

「大丈夫だよ」

 佑はもう一度繰り返し、香澄に優しいキスをする。

 柔らかな唇を感じた香澄は、悲しくもないのに涙を零す。

 そのまま、彼女はしばらく佑の胸板に顔を押しつけて嗚咽を堪える。

 やがて涙が収まった頃、彼に微笑みかけた。

「……ごめんね。もう大丈夫。してもいいよ」

 挿入したままだというのに我慢させてしまい、しかも泣いてムードをぶち壊しにして申し訳ない。

 そんな気持ちで謝ったのだが、彼は穏やかに微笑んだ。

「俺の快楽なんてどうでもいいんだ。香澄はどうしたい?」

「……くっついてたい」

 ポソッと呟くと、優しく頭を撫でられた。

「ん、じゃあそうしよう」

 飛行機のエンジン音が聞こえるなか、二人は体を密着させてぬくもりを分かち合う。

(ここが白金台の家だったらいいのに)

 そう考えると、あの豪邸がとても懐かしく思えた。

(一生慣れないと思ってた豪邸なのに、いつの間にか私は『帰りたい』って思うぐらいあの家に馴染んでいたんだな)

 一人で微笑んだあと、香澄は静かに息を吐いて思考を整理していく。

(佑さんとイチャイチャできるのは嬉しいけど、そろそろ現実に戻らないと

 そう思い、そもそもの疑問を口にした。

「……フェルナンドさんって、どうして佑さんを恨んでいたのかな?」

 それを聞いて、佑は溜め息をついた。

「フェルナンドという男については、自分でも調べた上で、オーパたちにもヨーロッパのツテを使って調べてもらった。すぐに分かったのは、スペインにはエミリオ・アベラルドという名前の、フェルナンドそっくりの海運会社の社長がいる事だ。俺は彼と面識はなく、恨まれる筋合いもない。だがどこで何があるか分からないから、一概に無問題とは言えない。今、エミリオとフェルナンドにどんな関係があるか探ってもらっている。現時点、まだハッキリとした答えは出ていないから、少し待ってほしい」

「うん」

 頷くと、佑は悲しげに言って香澄の髪を撫でる。

「……また、巻き込んでしまってすまない」

「ううん、覚悟はできてた」

 そう言って微笑む香澄を見て、佑は泣きそうな表情になる。

「結婚するのに、そんな覚悟を持ってほしくなかった。……持たせたくなかった」

 佑が苦しげに呟くのを聞いて、香澄は悲しく微笑んで彼に抱きつく。

「大丈夫だよ。私、佑さんのためなら、どれだけだって我慢できるもの。一番悲しいのは、佑さんといられなくなる事。それ以上につらい事はない」

 香澄の言葉を聞き、彼女の背に回った佑の手に、グッ……と力がこもる。

「ごめんな」

 佑は叩かれて赤くなった香澄の頬を見て呟く。

 彼が歯を食いしばったのを見て、香澄は彼に優しくキスをした。

「……あのね、怖かった」

「うん」

「死ぬかと思ったし、二度と佑さんに会えないかと思った。つらくて、悲しくて、怖くて、全部諦めるべきなのかと思った」

「ん……」

 佑の目は潤んでいて、今にも泣いてしまいそうだ。

 そんな彼の表情を見て、香澄はポロッと涙を零し笑った。

「その分、佑さんが甘やかして愛してくれるんでしょう?」

「……っ、――そう、だな」

 彼は、ふっ……と震える息を吐き、ぎこちなく笑う。

「香澄の願いを、何でも叶えてあげるよ」

「じゃあ、パリで美味しい物を食べたい」

「ふ……っ、ふふ……っ」

 ブレない食いしん坊に、佑は笑いだす。

 そして愛しげな目で香澄を見ると、チュッとキスをしてきた。

「崩された日常をまた整えていこう。二人で笑い合っていけば、きっともとの生活に戻れる」

「うん」

 様々な事が立て続けに起こり、めまぐるしく日々が過ぎ、休みたいのに〝世界の御劔〟はのんびりと休暇などとれない。

『そんな彼を秘書として支えたい』と決めたのは自分だ。

(でも……、ちょっとだけ……)

 香澄は自分に向かって呟き、ふう、と息を吐く。

 先ほど彼に達かされたからか、頭がボーッとして体が熱い。

 その時、佑が香澄の額に手を押し当ててきた。
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