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第二十一部・フェルナンド 編
佑がとってきた行動
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食べている途中、ベッドルームに誰かが来てドアをノックをした。
佑がベッドから下りて応対したあと、彼は温かいココアとお茶をテーブルの上に置いた。
「飲み物、一杯だね」
「水分が必要だと思ったし、体を内側から温かくしないと」
「うん」
頷いた香澄はちびちびとカップに入ったココアを飲み、温かく甘い味にホッと息を吐いた。
(甘い物、正義……)
お腹が一杯になってポワ……と放心した香澄は、しばしクラシック曲を聴いて浸った。
そのあと状況を整理するために、日本にいたはずの佑がどういう行動を取ったのか尋ねた。
「……佑さんが今までどうしていたのか、聞いてもいい?」
「ん……」
佑は香澄の手を握り、ポツリポツリと語り始めた。
会見を終え、プライベートジェットをすぐ飛ばせるよう手配した佑は、テオから連絡を受けたあと、ハワイで香澄を奪還すべきか考えた。
だがハワイには一日しか寄港しない上、自分は乗船できないのでは意味がないので、ハワイで行動するのは諦めた。
そのあと行き先をロサンゼルスに決め、アフロディーテ号がどこに寄港するかを確認した。
そして仙台に向かって佐伯にKへの依頼を頼んだあとに飛行機に乗り、知り合いのフィグウッド俳優に頼み、特殊メイクのアーティストを紹介してもらった。
その頃には双子たちもドイツからロサンゼルスに着いていて、現地で最高のコンディションでメイクを施せるよう、協力してくれていた。
日本にいた佑がロサンゼルスに着くにはどうしても時間がかかるため、先に双子が現地について動いてくれていたのはありがたかった。
飛行時間で言えば羽田からロサンゼルスのほうが若干早いが、その前に佑には野暮用があったので、双子にも動くよう頼んだのだ。
現地に着いた佑は、双子が手配してくれていたホテルでメイクを施され、〝どこかにいそう〟な男の顔を超特急で作ってもらった。
別人になれるならどんな顔でも良かったが、香澄を少しでも怯えさせないために、ある程度整った顔にしてもらった。
佑の顔をベースにして直接特殊メイクをするなら割とすぐにできるが、骨格からまるっきり違う人物になるには、人工皮膚から作らなければいけない。
それを作るには、佑の顔から型を取った石膏のライフマスクを作り、専用の粘度で造形していかなければならない。
さらに人工皮膚の材料を流し込むのだが、そこに至るまで一週間ほどが掛かる。
アーティストが仕事を進める間、佑はKと連携を取ってフェルナンドがどこのホテルを使うか教えてもらい、双子と相談して彼を嵌めるための手はずを整えていく。
アフロディーテ号が港に着く頃には、佑は五時間に及ぶ特殊メイクを完璧に施し、着替えも済ませてエイデン・アーチボルドになりきっていた。
その前に、港に向かわせた護衛が香澄を奪還できれば、それに超した事はない。
港での奪還をプランAとし、その後、警察の検問で見つけてもらい、保護してもらうのをプランB、失敗した場合佑が香澄をホテルに迎えに行くプランをCとした。
変装にあたってボイスチェンジャーを使う事も検討したが、至近距離で電子音に気付かれると不審がられてしまう。
様々な人がいるなか、体の大きさに問わず声が高い男性もいるので、佑が地声を変えて話す事にした。
ファントの法則では、身長が高く体が大きい人は声帯も大きく声が低いと言われている。
だが必ずしもそうとは限らないので、エイデン・アーチボルドは声の高い男性という事にした。
プランCで佑が香澄をしっかり保護したあとは、Kにすべてを任せる事になっている。
だが佑は自分でも何かしなければ気が収まらず、スイートルームに小麦粉を少量入れた小袋を忍ばせてやった。
小麦粉を仕込むのと同時にKのためにカメラも複数台設置したが、協力した護衛も全員ゴム手袋をし、指紋が残らないようにした。
〝白い粉〟は小麦粉だし、それを用意した佑は何の罪にも問われない。
ただ、疑われたフェルナンドはきっちり調べられ、時間稼ぎができる。
あらかじめホテルには、御劔佑として『犯罪者に婚約者を誘拐されたので、奪還するために変装して部屋を取らせてもらう』と説明しておいた。
また在ロサンゼルス日本総領事館にもフェルナンドによる被害を話し、スムーズに解決するために協力を要請した。
その後、ロビーには変装した河野を待機させて連絡係にし、すべてを終えた佑が彼に連絡したあと、河野が一般客を装ってフェルナンドを警察に通報する手はずになっていた。
『スイートルームの客が馬鹿騒ぎをしていて迷惑だ。悲鳴を上げる女の子の声も聞こえたし、事件性を感じられる。至急来てほしい』
そして警察がホテルに来た以上、旅舎検を拒否する事は基本的にないので、警察がフェルナンドが宿泊している部屋を調べる流れになる。
本来なら被害者である香澄を警察に保護させ、きちんと事情聴取をした上でフェルナンドの罪を問う事が必要だったろう。
使用するホテルが決まっていたなら、事前にフェルナンドと香澄がチェックインする時点で取り押さえる事もできた。
だがどうしても佑は自分の手で香澄を奪い返し、警察に関わらせて負担を掛けるより、そのまま二人で遠い所へ逃げてしまいたかったのだ。
だから佑はKにフェルナンドへの制裁を頼んだのだ。
佑がベッドから下りて応対したあと、彼は温かいココアとお茶をテーブルの上に置いた。
「飲み物、一杯だね」
「水分が必要だと思ったし、体を内側から温かくしないと」
「うん」
頷いた香澄はちびちびとカップに入ったココアを飲み、温かく甘い味にホッと息を吐いた。
(甘い物、正義……)
お腹が一杯になってポワ……と放心した香澄は、しばしクラシック曲を聴いて浸った。
そのあと状況を整理するために、日本にいたはずの佑がどういう行動を取ったのか尋ねた。
「……佑さんが今までどうしていたのか、聞いてもいい?」
「ん……」
佑は香澄の手を握り、ポツリポツリと語り始めた。
会見を終え、プライベートジェットをすぐ飛ばせるよう手配した佑は、テオから連絡を受けたあと、ハワイで香澄を奪還すべきか考えた。
だがハワイには一日しか寄港しない上、自分は乗船できないのでは意味がないので、ハワイで行動するのは諦めた。
そのあと行き先をロサンゼルスに決め、アフロディーテ号がどこに寄港するかを確認した。
そして仙台に向かって佐伯にKへの依頼を頼んだあとに飛行機に乗り、知り合いのフィグウッド俳優に頼み、特殊メイクのアーティストを紹介してもらった。
その頃には双子たちもドイツからロサンゼルスに着いていて、現地で最高のコンディションでメイクを施せるよう、協力してくれていた。
日本にいた佑がロサンゼルスに着くにはどうしても時間がかかるため、先に双子が現地について動いてくれていたのはありがたかった。
飛行時間で言えば羽田からロサンゼルスのほうが若干早いが、その前に佑には野暮用があったので、双子にも動くよう頼んだのだ。
現地に着いた佑は、双子が手配してくれていたホテルでメイクを施され、〝どこかにいそう〟な男の顔を超特急で作ってもらった。
別人になれるならどんな顔でも良かったが、香澄を少しでも怯えさせないために、ある程度整った顔にしてもらった。
佑の顔をベースにして直接特殊メイクをするなら割とすぐにできるが、骨格からまるっきり違う人物になるには、人工皮膚から作らなければいけない。
それを作るには、佑の顔から型を取った石膏のライフマスクを作り、専用の粘度で造形していかなければならない。
さらに人工皮膚の材料を流し込むのだが、そこに至るまで一週間ほどが掛かる。
アーティストが仕事を進める間、佑はKと連携を取ってフェルナンドがどこのホテルを使うか教えてもらい、双子と相談して彼を嵌めるための手はずを整えていく。
アフロディーテ号が港に着く頃には、佑は五時間に及ぶ特殊メイクを完璧に施し、着替えも済ませてエイデン・アーチボルドになりきっていた。
その前に、港に向かわせた護衛が香澄を奪還できれば、それに超した事はない。
港での奪還をプランAとし、その後、警察の検問で見つけてもらい、保護してもらうのをプランB、失敗した場合佑が香澄をホテルに迎えに行くプランをCとした。
変装にあたってボイスチェンジャーを使う事も検討したが、至近距離で電子音に気付かれると不審がられてしまう。
様々な人がいるなか、体の大きさに問わず声が高い男性もいるので、佑が地声を変えて話す事にした。
ファントの法則では、身長が高く体が大きい人は声帯も大きく声が低いと言われている。
だが必ずしもそうとは限らないので、エイデン・アーチボルドは声の高い男性という事にした。
プランCで佑が香澄をしっかり保護したあとは、Kにすべてを任せる事になっている。
だが佑は自分でも何かしなければ気が収まらず、スイートルームに小麦粉を少量入れた小袋を忍ばせてやった。
小麦粉を仕込むのと同時にKのためにカメラも複数台設置したが、協力した護衛も全員ゴム手袋をし、指紋が残らないようにした。
〝白い粉〟は小麦粉だし、それを用意した佑は何の罪にも問われない。
ただ、疑われたフェルナンドはきっちり調べられ、時間稼ぎができる。
あらかじめホテルには、御劔佑として『犯罪者に婚約者を誘拐されたので、奪還するために変装して部屋を取らせてもらう』と説明しておいた。
また在ロサンゼルス日本総領事館にもフェルナンドによる被害を話し、スムーズに解決するために協力を要請した。
その後、ロビーには変装した河野を待機させて連絡係にし、すべてを終えた佑が彼に連絡したあと、河野が一般客を装ってフェルナンドを警察に通報する手はずになっていた。
『スイートルームの客が馬鹿騒ぎをしていて迷惑だ。悲鳴を上げる女の子の声も聞こえたし、事件性を感じられる。至急来てほしい』
そして警察がホテルに来た以上、旅舎検を拒否する事は基本的にないので、警察がフェルナンドが宿泊している部屋を調べる流れになる。
本来なら被害者である香澄を警察に保護させ、きちんと事情聴取をした上でフェルナンドの罪を問う事が必要だったろう。
使用するホテルが決まっていたなら、事前にフェルナンドと香澄がチェックインする時点で取り押さえる事もできた。
だがどうしても佑は自分の手で香澄を奪い返し、警察に関わらせて負担を掛けるより、そのまま二人で遠い所へ逃げてしまいたかったのだ。
だから佑はKにフェルナンドへの制裁を頼んだのだ。
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