1,392 / 1,559
第二十一部・フェルナンド 編
佑がとってきた行動
しおりを挟む
食べている途中、ベッドルームに誰かが来てドアをノックをした。
佑がベッドから下りて応対したあと、彼は温かいココアとお茶をテーブルの上に置いた。
「飲み物、一杯だね」
「水分が必要だと思ったし、体を内側から温かくしないと」
「うん」
頷いた香澄はちびちびとカップに入ったココアを飲み、温かく甘い味にホッと息を吐いた。
(甘い物、正義……)
お腹が一杯になってポワ……と放心した香澄は、しばしクラシック曲を聴いて浸った。
そのあと状況を整理するために、日本にいたはずの佑がどういう行動を取ったのか尋ねた。
「……佑さんが今までどうしていたのか、聞いてもいい?」
「ん……」
佑は香澄の手を握り、ポツリポツリと語り始めた。
会見を終え、プライベートジェットをすぐ飛ばせるよう手配した佑は、テオから連絡を受けたあと、ハワイで香澄を奪還すべきか考えた。
だがハワイには一日しか寄港しない上、自分は乗船できないのでは意味がないので、ハワイで行動するのは諦めた。
そのあと行き先をロサンゼルスに決め、アフロディーテ号がどこに寄港するかを確認した。
そして仙台に向かって佐伯にKへの依頼を頼んだあとに飛行機に乗り、知り合いのフィグウッド俳優に頼み、特殊メイクのアーティストを紹介してもらった。
その頃には双子たちもドイツからロサンゼルスに着いていて、現地で最高のコンディションでメイクを施せるよう、協力してくれていた。
日本にいた佑がロサンゼルスに着くにはどうしても時間がかかるため、先に双子が現地について動いてくれていたのはありがたかった。
飛行時間で言えば羽田からロサンゼルスのほうが若干早いが、その前に佑には野暮用があったので、双子にも動くよう頼んだのだ。
現地に着いた佑は、双子が手配してくれていたホテルでメイクを施され、〝どこかにいそう〟な男の顔を超特急で作ってもらった。
別人になれるならどんな顔でも良かったが、香澄を少しでも怯えさせないために、ある程度整った顔にしてもらった。
佑の顔をベースにして直接特殊メイクをするなら割とすぐにできるが、骨格からまるっきり違う人物になるには、人工皮膚から作らなければいけない。
それを作るには、佑の顔から型を取った石膏のライフマスクを作り、専用の粘度で造形していかなければならない。
さらに人工皮膚の材料を流し込むのだが、そこに至るまで一週間ほどが掛かる。
アーティストが仕事を進める間、佑はKと連携を取ってフェルナンドがどこのホテルを使うか教えてもらい、双子と相談して彼を嵌めるための手はずを整えていく。
アフロディーテ号が港に着く頃には、佑は五時間に及ぶ特殊メイクを完璧に施し、着替えも済ませてエイデン・アーチボルドになりきっていた。
その前に、港に向かわせた護衛が香澄を奪還できれば、それに超した事はない。
港での奪還をプランAとし、その後、警察の検問で見つけてもらい、保護してもらうのをプランB、失敗した場合佑が香澄をホテルに迎えに行くプランをCとした。
変装にあたってボイスチェンジャーを使う事も検討したが、至近距離で電子音に気付かれると不審がられてしまう。
様々な人がいるなか、体の大きさに問わず声が高い男性もいるので、佑が地声を変えて話す事にした。
ファントの法則では、身長が高く体が大きい人は声帯も大きく声が低いと言われている。
だが必ずしもそうとは限らないので、エイデン・アーチボルドは声の高い男性という事にした。
プランCで佑が香澄をしっかり保護したあとは、Kにすべてを任せる事になっている。
だが佑は自分でも何かしなければ気が収まらず、スイートルームに小麦粉を少量入れた小袋を忍ばせてやった。
小麦粉を仕込むのと同時にKのためにカメラも複数台設置したが、協力した護衛も全員ゴム手袋をし、指紋が残らないようにした。
〝白い粉〟は小麦粉だし、それを用意した佑は何の罪にも問われない。
ただ、疑われたフェルナンドはきっちり調べられ、時間稼ぎができる。
あらかじめホテルには、御劔佑として『犯罪者に婚約者を誘拐されたので、奪還するために変装して部屋を取らせてもらう』と説明しておいた。
また在ロサンゼルス日本総領事館にもフェルナンドによる被害を話し、スムーズに解決するために協力を要請した。
その後、ロビーには変装した河野を待機させて連絡係にし、すべてを終えた佑が彼に連絡したあと、河野が一般客を装ってフェルナンドを警察に通報する手はずになっていた。
『スイートルームの客が馬鹿騒ぎをしていて迷惑だ。悲鳴を上げる女の子の声も聞こえたし、事件性を感じられる。至急来てほしい』
そして警察がホテルに来た以上、旅舎検を拒否する事は基本的にないので、警察がフェルナンドが宿泊している部屋を調べる流れになる。
本来なら被害者である香澄を警察に保護させ、きちんと事情聴取をした上でフェルナンドの罪を問う事が必要だったろう。
使用するホテルが決まっていたなら、事前にフェルナンドと香澄がチェックインする時点で取り押さえる事もできた。
だがどうしても佑は自分の手で香澄を奪い返し、警察に関わらせて負担を掛けるより、そのまま二人で遠い所へ逃げてしまいたかったのだ。
だから佑はKにフェルナンドへの制裁を頼んだのだ。
佑がベッドから下りて応対したあと、彼は温かいココアとお茶をテーブルの上に置いた。
「飲み物、一杯だね」
「水分が必要だと思ったし、体を内側から温かくしないと」
「うん」
頷いた香澄はちびちびとカップに入ったココアを飲み、温かく甘い味にホッと息を吐いた。
(甘い物、正義……)
お腹が一杯になってポワ……と放心した香澄は、しばしクラシック曲を聴いて浸った。
そのあと状況を整理するために、日本にいたはずの佑がどういう行動を取ったのか尋ねた。
「……佑さんが今までどうしていたのか、聞いてもいい?」
「ん……」
佑は香澄の手を握り、ポツリポツリと語り始めた。
会見を終え、プライベートジェットをすぐ飛ばせるよう手配した佑は、テオから連絡を受けたあと、ハワイで香澄を奪還すべきか考えた。
だがハワイには一日しか寄港しない上、自分は乗船できないのでは意味がないので、ハワイで行動するのは諦めた。
そのあと行き先をロサンゼルスに決め、アフロディーテ号がどこに寄港するかを確認した。
そして仙台に向かって佐伯にKへの依頼を頼んだあとに飛行機に乗り、知り合いのフィグウッド俳優に頼み、特殊メイクのアーティストを紹介してもらった。
その頃には双子たちもドイツからロサンゼルスに着いていて、現地で最高のコンディションでメイクを施せるよう、協力してくれていた。
日本にいた佑がロサンゼルスに着くにはどうしても時間がかかるため、先に双子が現地について動いてくれていたのはありがたかった。
飛行時間で言えば羽田からロサンゼルスのほうが若干早いが、その前に佑には野暮用があったので、双子にも動くよう頼んだのだ。
現地に着いた佑は、双子が手配してくれていたホテルでメイクを施され、〝どこかにいそう〟な男の顔を超特急で作ってもらった。
別人になれるならどんな顔でも良かったが、香澄を少しでも怯えさせないために、ある程度整った顔にしてもらった。
佑の顔をベースにして直接特殊メイクをするなら割とすぐにできるが、骨格からまるっきり違う人物になるには、人工皮膚から作らなければいけない。
それを作るには、佑の顔から型を取った石膏のライフマスクを作り、専用の粘度で造形していかなければならない。
さらに人工皮膚の材料を流し込むのだが、そこに至るまで一週間ほどが掛かる。
アーティストが仕事を進める間、佑はKと連携を取ってフェルナンドがどこのホテルを使うか教えてもらい、双子と相談して彼を嵌めるための手はずを整えていく。
アフロディーテ号が港に着く頃には、佑は五時間に及ぶ特殊メイクを完璧に施し、着替えも済ませてエイデン・アーチボルドになりきっていた。
その前に、港に向かわせた護衛が香澄を奪還できれば、それに超した事はない。
港での奪還をプランAとし、その後、警察の検問で見つけてもらい、保護してもらうのをプランB、失敗した場合佑が香澄をホテルに迎えに行くプランをCとした。
変装にあたってボイスチェンジャーを使う事も検討したが、至近距離で電子音に気付かれると不審がられてしまう。
様々な人がいるなか、体の大きさに問わず声が高い男性もいるので、佑が地声を変えて話す事にした。
ファントの法則では、身長が高く体が大きい人は声帯も大きく声が低いと言われている。
だが必ずしもそうとは限らないので、エイデン・アーチボルドは声の高い男性という事にした。
プランCで佑が香澄をしっかり保護したあとは、Kにすべてを任せる事になっている。
だが佑は自分でも何かしなければ気が収まらず、スイートルームに小麦粉を少量入れた小袋を忍ばせてやった。
小麦粉を仕込むのと同時にKのためにカメラも複数台設置したが、協力した護衛も全員ゴム手袋をし、指紋が残らないようにした。
〝白い粉〟は小麦粉だし、それを用意した佑は何の罪にも問われない。
ただ、疑われたフェルナンドはきっちり調べられ、時間稼ぎができる。
あらかじめホテルには、御劔佑として『犯罪者に婚約者を誘拐されたので、奪還するために変装して部屋を取らせてもらう』と説明しておいた。
また在ロサンゼルス日本総領事館にもフェルナンドによる被害を話し、スムーズに解決するために協力を要請した。
その後、ロビーには変装した河野を待機させて連絡係にし、すべてを終えた佑が彼に連絡したあと、河野が一般客を装ってフェルナンドを警察に通報する手はずになっていた。
『スイートルームの客が馬鹿騒ぎをしていて迷惑だ。悲鳴を上げる女の子の声も聞こえたし、事件性を感じられる。至急来てほしい』
そして警察がホテルに来た以上、旅舎検を拒否する事は基本的にないので、警察がフェルナンドが宿泊している部屋を調べる流れになる。
本来なら被害者である香澄を警察に保護させ、きちんと事情聴取をした上でフェルナンドの罪を問う事が必要だったろう。
使用するホテルが決まっていたなら、事前にフェルナンドと香澄がチェックインする時点で取り押さえる事もできた。
だがどうしても佑は自分の手で香澄を奪い返し、警察に関わらせて負担を掛けるより、そのまま二人で遠い所へ逃げてしまいたかったのだ。
だから佑はKにフェルナンドへの制裁を頼んだのだ。
23
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる