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第二十一部・フェルナンド 編

左手の意味 ☆

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「どうしてほしい?」

 佑が香澄の顔を覗き込み、望みを尋ねる。

 香澄は一瞬考え、浮かんだ希望に頬を染めた。

 けれど震える声で、きちんと自分の意志を伝えた。

「……抱いて、ほしい。あんな、……あんなのじゃなくて、ちゃんと佑さんにいつもみたいに、『愛してるよ』って、『可愛い』って言われて、抱かれたい……っ」

 はしたない事を言っているのは分かっているし、セックスして解決するなんて短慮だ。

 だが今はどうしても、大好きな人に抱いてもらって「無事な所にいる」と理解し、圧倒的な熱に晒されて、愛する人で身も心も一杯になりたかった。

「分かった。たっぷり、とろけるぐらい愛してあげる」

 佑は切なく微笑み、香澄の唇をついばみ、丁寧にキスをしながら香澄の尻たぶを揉んだ。

「……ベッドでしよう。今は洗い流すだけ」

「うん」

「脚、開いて」

 佑に抱きついたまま、香澄は脚を少し開く。

「触るよ。怖かったら言って」

「ん」

 佑は香澄のお尻の割れ目に指を滑らせ、まだローションで濡れている場所をなぞる。

「怖い?」

「……だい、……じょぶ」

 少しドキドキしているのが、佑に愛される事への高揚感なのか恐怖なのか、今は分からない。

「……ローションとかゴムを用意してたのは、……私のため?」

 小さな声で尋ねると、「うん」と佑が肯定する。

「レイプされるっていうのに、濡れる訳がないと思った。あいつを騙すために完璧に変装していたし、香澄は恐怖でそれどころじゃない。まず俺だと気付かないと思った。無理に入れて傷つけたくなかったし、誘拐されていたからピルは飲んでいないから生でするのは避けたかった。……だから、あいつに気づかれないよう、趣向の一種だと思わせるために色々用意した」

「……ありがとう」

 佑は香澄の秘唇を指で何度も撫でていて、まるでその感触に慣れさせているようだった。

「……途中で胸に手を当てたのは何だったの?」

 あの時は動転していたけれど、今なら安心して振り返る事ができる。

「あまりに香澄が混乱して怯えて、可哀想だったから……。『俺の左手を見て』って伝えようと思った」

 言われて、香澄は佑の左手を見る。

 ペアリングは嵌まっていないが、今まで何度も見た、左手の薬指にあるほくろがあった。

「あぁ……」

 やっと彼の行動の意味を知り、香澄は溜め息交じりに笑う。

「そっ…………か。…………そっかぁ……」

 佑は安心して笑みを見せた香澄にキスをし、尋ねてくる。

「表面は洗ったけど、少し指を入れても大丈夫? 中にもローションが残ってるはずだから」

「うん……」

 香澄は佑にしがみつき、目を閉じる。

 佑は何度か花弁を撫でたあと、小さな蜜口にツプリと指を入れてきた。

「ん……っン……」

 指が入った瞬間、香澄は体を緊張させる。

「大丈夫だよ。俺はここにいる」

 佑の声を聞き、香澄は恥ずかしさを堪えて彼を見た。

 薄茶色の目の中には、緑、黄緑、黄色など様々な色が入っている。

 彼特有のヘーゼルの目を見つめ、いま自分の蜜壷を愛撫しているのは佑なのだと言い聞かせた。

 指がヌプッヌプッと前後する感触を得て、香澄は切なさとこみ上げる不安に歯を食いしばる。

 歯を食いしばっていたからか、佑は香澄の唇に指を這わせ、口を開けさせた。

「咥えて。怖かったら指を噛んでいいから」

「ん、ん……ぷ」

 口の中に佑の指が入り、歯を食いしばれない。

 歯を浮かせて彼の指を咥えようとしたが、蜜壷を探られて体に力が入ってしまう。

 佑の指を噛んでしまいそうなほど口に力が入り、結果的に顎がガクガクと震わせた。

「無理しなくていいよ。噛んでいい」





 むしろ、彼は噛んでほしいと思っていた。

 自分が香澄に与えた恐怖を思えば、指の一本ぐらい食い千切られてもいい。

 愛する女にレイプの恐怖を植え付けた罪を、自分は何らかの形で償わなければいけない。

 香澄が誰かを傷付ける事を望まないのは分かっている。

 彼女は今、たっぷりと甘やかされたいと望んでいるのも理解している。

 だが佑は、誰かにボコボコに殴ってほしいほどの罪悪感を抱いていた。
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