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第二十一部・フェルナンド 編

Kの仕事

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 とはいえ、最高レベルの技術者への依頼は安くない。

 だが佑はKが大金を提示しても、支払う事をまったく躊躇わなかった。

 その思い切りの良さと決断力が、ますます気に入った。

 Kは佑との通信を終えたあと、〝仕事〟のためにひたすら手を動かした。

 佑からフェルナンドについて知っている大まかな情報を聞いたあと、Kはコネクターナウのアプリを作成した会社をクラッキングし、その中から〝F〟というハンドルネーム、そして特徴的なアイコンを持つユーザーを捜した。

 そこからコスモス・レイン社のeコミュニケーションを〝バラし〟、GPS、ブルートゥースなどを丸裸にした。

 そこまで複雑なクラッキングを素早くできるのは、彼が普段〝こういう事〟をスムーズに行えるよう、特殊なプログラムを作っているからだ。

 必要な時はお手製のプログラムに流し込み、作業を最速化する。

 そしてKは、フェルナンドを破滅に追い込むための芸術的なコードを、美しく書き上げていった。

 プログラミングのコードは、ドミノ作品に似ている。

 上手に作ればその分美しい、無駄のないコードができあがる。

 Kは正確なコードを素晴らしいスピードで書き上げ、短期間で納品する技術を持っている。

 彼はコードを書く傍ら、ダークウェブサイトに足のつかないアカウントを作り、佑に香澄を競り落とさせた。

 佑は愛する女性のためならと、金に糸目をつけずボンボンと落札金額を跳ね上げていくので、見ていて爽快なほどだった。

 現地のホテルで佑がフェルナンドに見せた偽造パスポートも、Kがアメリカ国内の知り合いに話をつけて作らせた物だ。

 佑はプライベートジェットを飛ばしてロサンゼルスに向かったあと、フィグウッドの特殊メイクアーティストの力を借り、エイデン・アーチボルドとなる準備をした。

 その用意はKには考えつかなかった事なので、『さすがタスク・ミツルギ』と感嘆したものだ。

 香澄がエイデン・アーチボルドに落札されたあとは、佑がホテルに先回りし、Kの指示通りに隠しカメラを仕掛けていく。

 フェルナンドのノートパソコンは、スマホからすでに乗っ取っり済みで、あとは香澄の身柄が無事に佑に引き渡されるまで泳がせておいた。

 ホテルの部屋から出て香澄の無事を確かめたあとは、佑から〝合図〟をもらいエンターを押すだけだ。

 ビールを用意したKは、ニヤニヤしながらカメラの向こうのフェルナンドを見守る。

 彼が焦って何か行動を起こせば、それを見越したプログラムを起動させる。

 BGMにエルガーの『威風堂々』を選んだのは、彼の好きなイギリススパイ映画で使用されていたからだ。

『あーあ、めっちゃ楽しかった』

 心の底から笑ったあと、Kは佑に別れの挨拶を送り、ビールの残りをグイッと呷った。



**



 空港には佑のプライベートジェットがあり、その前に松井と小金井、小山内が立っていた。

「赤松さん、生きていて何よりです」

 松井に言われ、香澄はクシャリと顔を歪めた。

 様々な感情、思いがこみ上げ、何一つ言葉にならない。

 その代わりに涙が溢れて頬を伝い、香澄は嗚咽し始めた。

「すっ……、すみません……っ。わた、わた、――し、……っ、何をやっても駄目で……っ」

 どれだけ迷惑を掛けたのか、考えるだけで胸が苦しくなる。

 土下座をして、迷惑料を払ってもまだ足りない。

 そういう問題ではないからだ。

 悲嘆に暮れる香澄に、松井はいつもと変わらず温厚に淡々と言い聞かせた。

「赤松さん、いいですか? この場に、誰一人としてあなたを責める人はいません。あなたは社長の唯一の弱点だという事を、誰もが分かっています。あなただけでなく、世界中にいる要人のパートナーや子供は、狙われやすいのです。あなたもその一人だっただけの話です。あなたは被害者で、何も落ち度はありません。誘拐された赤松さんは、長い間心理的負担を抱え、正常な判断を下せずにいたでしょう。その中で勇気を出して連絡をしてくださったからこそ、我々が動く事ができました」

 いつもと変わらない松井の言葉を聞いた香澄は、少し落ち着きを取り戻す。

「よく生き延びてくれました。とても怖い思いをしたでしょう」

 改めて言われ、香澄はグスッと鼻を啜って頷いた。

「これから我々は、どうしてもパリに向かわなくてはなりません。ですが社長には可能な限り赤松さんの側にいてもらうつもりです。どうかゆっくり心を癒やしてください」

 そこまで言い、松井は微笑んで香澄の肩をポンポンと叩いてきた。

「お疲れ様です。飛行機でゆっくり休んでください」

「はい……」

 また疲労感で一杯の香澄は、小さな声で返事をし頷いた。

 佑は彼女の肩を抱いて「中に入ろう」と促し、松井に「あとは任せます」と告げた。
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