上 下
1,383 / 1,549
第二十一部・フェルナンド 編

鉄槌

しおりを挟む
《ダークウェブサイトで日本人の女の子をオークションに掛けていた〝F〟とは、お前だな?》

 どこから調べたのか、あのオークションに参加していた何者かがフェルナンドに電話を掛けてきたのだ。

『何の事だ?』

 フェルナンドはとっさに誤魔化す。

《嘘をつこうとしても無駄だ。匿名のタレコミがあって、あれはお前だという情報が出回っている。その匿名はお前の連絡先も教えてくれたぞ》

『!!』

 自分の個人情報がネットに出回っていると知り、フェルナンドは思わず罵りの言葉を口にした。

《オークションの閲覧履歴や〝商品〟のデータが消えた上、今までコレクションしたデータのすべてが破壊された! 匿名が言うにはお前が原因だという事じゃないか! クラッキングプログラムを仕込んだのか!? この犯罪者め! このままタダで済むと思うなよ!》

 相手は一方的にまくし立てたあと、電話を切った。

 残された彼はただ、――呆然とするしかできなかった。

 その時、部屋のチャイムが鳴った。

『……なんだ、畜生……』

 ボディガードに出るよう促すと、部屋の出入り口に警察が立っていた。

『あなたが薬物を使って騒いでいると匿名の通報があり、ホテルから連絡を受けました。捜査のご協力をお願いします』

『な……っ、薬物など持っていない!』

 ギョッとしたフェルナンドは立ち上がったが、警官に見張られたままスイートルーム内を捜索される羽目になる。

 薬物など持っていないため、フェルナンドはこれも佑の差し金かとイライラしながら無駄な捜索を見守った。

(ありもしない物を探して馬鹿な警察め!)

 ――が、警官がベッドマットの下から小さな袋を取りだした。

 その中には、白い粉が入っている。

『これに見覚えはありますか?』

 目を剥いたフェルナンドは、今日何度目になるか分からない悪態をついた。

『畜生!! あいつ、ぶっ殺してやる!!』



**



 香澄は佑に抱きつきながら、スマホの画面の中でフェルナンドが絶叫しているのを見ていた。

〝処刑〟が終わったあと、スマホの通知が鳴る。

 佑がトンとアプリを開くと、Kという人物からメッセージが入っていた。

【あんたがオークションで払った金は、ワンクッション置いたあと、そっくりあんたの口座に戻した。残りは適当に寄付しておくよ。足がつかないようにやったから、安心しな】

 彼と一緒にスマホを見ていた香澄は、佑が誰かと取り引きしたのだと察した。

 佑はKに【ありがとう】と返信する。

【久しぶりに楽しいクラックができたよ。依頼の分はきっちり働いた。あとはあんたが約束を守るだけだ。関係者にもしっかり黙らせておきなよ。あとは関わらない。前に言った通り、何かあれば連絡していいよ。じゃあね!】

 そのメッセージを見たあと、佑はスマホをポケットにしまった。

「……返事、……しなくていいの?」

 ポツンと呟いた香澄の頭を、佑はポンポンと撫でる。

「もうすべて終わったんだ。彼も〝終わり〟と言っている」

「……そう……」

 香澄は呟いて頷き、ぼんやりとしたまま佑にしがみつく。

 そのまま車がロサンゼルス空港に着くまで、二人は何も言わず抱き合っていた。



**



 某所、モニターが沢山並んだ部屋で、ジーンズにパーカーを着てキャップを被ったKは『あー、楽しかった』と伸びをし、ビールの瓶を開けた。

『仕事は楽しかったし、気前よく支払ってくれるし、いい仕事だったな』

 知り合いのAから連絡があったと思えば、K自身も株を所有しているChief Everyの社長から依頼があって驚いた。

 Kは表向き凄腕プログラマーとしてフリーランスで働いているが、その一方で〝裏〟の仕事をしていた。

〝K〟という通称は、誰かがネット上で【キングのKだ】と言っていたり、【本名の一部だ】とも言っていたが、まったく違う。

 相棒とも言える、今は亡き愛犬の名前がケヴィンだったからだ。

 この仕事をしていて、裏の依頼を受ける時は、大体【気に食わない奴がいるから、痛い目を見せてほしい】というものがほとんどだった。

 それに引き換え、今回依頼をしてきた御劔佑は【誘拐された婚約者を救いたい】と、何ともピュアな事を言う。

 彼を応援しているKとしては、ぜひとも協力してあげたいと思った。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...