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第二十一部・フェルナンド 編

早く終わって、死んでやりたい ★

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『彼も男だから、ハメ撮りは好きなんじゃないか?』

 その言葉を聞き、フェルナンドは狂ったように笑う。

 そしてエイデンはまた香澄を慎重にうがち始めた。

「うぅーっ、うぅ、うう……あぁあああ……っ」

 香澄は滂沱の涙を流し、うつろな目で白い天井を見上げる。

 ――早く終わって。

 ――早く終わって、死んでやりたい。

 好きでもない男から犯される事のおぞましさに、香澄は心の底から拒絶反応を起こし、激しい頭痛と吐き気を覚える。

 香澄を最も苛立たせたのは、エイデンの抱き方だ。

 佑もろとも自分を憎んでいるなら、もっと激しく突き上げていっそ壊せばいい。

 それなのにエイデンは遠慮がちに腰を動かし、香澄の反応を窺っているような素振りすら見せる。

『っ~~~~!! 早く達ってよ! 私の事なんて物としか思っていないんでしょう!? 佑さんの鼻を明かすために抱いてるなら、もっと乱暴にしてさっさと終わらせたら!?』

 香澄は涙を流したまま、ギラギラとした目でエイデンを睨み、叫ぶ。

『……分かった』

 エイデンはまた溜め息をつき、香澄の体の両側に手をつくと腰を突き入れてきた。

 ズチュッズチュッグチュッと連続した水音が響き、嬉々としたフェルナンドが様々なアングルで二人を撮る。

 香澄は目を閉じて心を凍らせ、声を出さないように必死に唇を引き結んだ。

 気持ちが通じていない肉体の交わりは、なんと空しい行為なのか。

 そして、犯されている者の心をズタズタに引き裂く行為なのか――。

 それでも香澄は、まな裏に佑の顔を思い浮かべ、この地獄を乗り切ろうとしていた。





 やがてエイデンの腰の動きが速まり、彼は最奥まで香澄を突き上げ、低く唸って腰を震わせる。

 それから息を乱した彼は蜜壷から屹立を引き抜き、カメラに向かって精液の入った避妊具をプランと垂らしてみせた。

 フェルナンドはしっかりとその光景を撮影してから、カメラの電源を切った。

『ブラボー! 素晴らしいショーだった! これを編集して、タスク・ミツルギに送りつけておく。君はその女を好きにしてくれ』

 フェルナンドは、スイートルームに響き渡るほどの大きな音で拍手をする。

 エイデンはスラックスの前を整え、香澄の拘束を解いた。

『では私は彼女を連れて帰路につく。以降、君とは接触しない。いいな?』

 確認され、フェルナンドは頷く。

『ああ、好きにしてくれ』

 エイデンはぐったりとした香澄を見て、何度目になるか分からない溜め息をついた。

 そして彼女に下着を穿かせ、ブラジャーは諦めたのか、キャミソールとニットワンピースを被せる。

 放心しきっている香澄にケープを被せたエイデンは、彼女を軽々と抱き上げた。

 出入り口に向かうと、フェルナンドのボディガードがドアを開く。

 そこで一旦エイデンは立ち止まり、振り向いてフェルナンドに告げた。

『〝商品〟に傷を付けたのはいただけない。さっき電話をした時も、彼女を殴っていただろう』

『ああ、すまない。君のところでは優しく扱ってくれ』

 だがフェルナンドはそれどころではないらしく、ビデオカメラのUSBを取りだして、さっそくノートパソコンに接続していた。





 気力を使い切った香澄は、自分が運ばれているのを他人事のように感じていた。

 エイデンは廊下を進み、エレベーターホールにいた、サングラスを掛けた金髪の男と合流した。

 男がエレベーターのボタンを押し、香澄は二人とともに階下に向かう。

(逃げないと……)

 そう思うものの、知らない男にレイプされて心身共に疲弊しきっている。

 自分の足で立ち、エイデンに立ち向かって佑のもとに帰るには、香澄は傷つきすぎていた。

 加えて彼女の心の中では、「すべて私のせいだ」という自責が荒れ狂っている。

 大きすぎるショックを受けた彼女は、茫然自失として逃亡できる状況になかった。

 エイデンは男に言う。

「ポケットにルームキーが入っている。俺のカードで清算しておいてくれ。先に空港まで行っている。あとから追いかけてきてくれ」

 彼の声が少し変わったように感じたが、放心しきった香澄にとってはどうでもいい事だった。

「承知致しました」

 金髪サングラスの男は、エイデンのスーツのポケットからルームキーを撮りだし、フロントに向かう。

 香澄は彼らが交わした会話の内容を理解しても、言語が変わった事には気付けずにいた。
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