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第二十一部・フェルナンド 編

ロサンゼルス港

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 だが仮に彼らを見つけられたとして、助けを求めればどうなるか分からない。

 あの中でボディガードに対抗できるのはテオしかいないが、彼はコスモスレイン社のエリートで父親だ。

 万が一何かあれば、申し訳ないだけでは済まされない。

 だが、助かりたい。逃げたい

 けれど――。

 誘拐され、これから酷い目に遭う者が、極限状態に置かれてどれだけ正常な判断が下せるだろうか。

 しかも香澄は、三度に渡って暴力をふるわれている。

「叩かれたくない」と萎縮するのは、当然の本能だ。

 同じ船に佑や双子、マティアスがいたら、もっと大胆な行動ができていたかもしれないが、テオたちには迷惑を掛けられない。

 本音は助かりたくて堪らないが、香澄は「自分が助かるなら、誰がどうなっても構わない」と思えないタチだ。

(それに、港に佑さんたちが来ているかもしれない)

 香澄は微かな期待を胸に、フェルナンドに手を握られたまま船内を進んでいった。





 桟橋を渡る途中、冬の外気が頬をかすった。

 香澄は必死に周囲を見回す。

 港には大勢の人がいて、豪華客船を見に来た人もいる。

 その中から、果たして佑を見つけられるのか――。

『キョロキョロするな』

 グイッとフェルナンドに手を引っ張られた時、日本語で「赤松さーん!」と香澄を呼ぶ声がした。

「!!」

 ハッとして周囲を見回したが、声を出した人がどこにいるか分からない。

 下船した乗客は桟橋を渡って地面に下り、パスポートチェックと手荷物検査を受ける事になっている。

 その後、ほとんどの人は徒歩で駐車場に行く。

 目の前には駐車場への通路があり、途中にある通路に人が大勢いるのだが――。

『チッ、どこの桟橋に着くか先回りして調べたか』

 フェルナンドが毒づいたかと思うと、二人を隠すように護衛が周囲に立つ。

「…………っ!」

 ――今しかない!

 香澄は渾身の力でフェルナンドの手を振りほどき、男たちの間をかいくぐって走りだした。

『っこのクソアマ!』

 が、すぐに手を掴まれ、軽々とボディガードに担がれた。

「離して! 離して!」

 手足を遮二無二動かして抵抗し、香澄は自分を呼んだ〝誰か〟を大声で呼んだ。

「ここにいます!!!! 佑さん!! 松井さん!! 河野さん!! 久住さん!! 佐野さん!! 呉代さん!! 小山内さん!! 小金井さん!! 瀬尾さん!!」

 香澄は声の限り、普段世話になっている人たちの名前を呼んだ。

「いた!!」

 ――と、遠くから香澄の叫びに応える声があり、遙か向こうから男性が二人全力で走ってくる。

 久住と佐野だ。

 その後ろには、現地の警察らしき人が五名ほど走ってきている。

「ここに!! います!! 久住さん!! 佐野さん!!」

 香澄は必死に叫び、ボディガードの肩の上で暴れ回る。

『暴れるな!!』

 だが香澄を抱えていたボディガードも走りだした。

 前方を見ると、フェルナンドともう一人も走っている。

 残る数名は久住たちを足止めしようと、彼らを迎え撃とうとしていた。

(佑さんは……っ!?)

 香澄は必死に佑の姿を見つけようとする。

 だがその後、駐車場にある黒いバンの後部座席に押し込まれ、車が発進した。

「…………っ!」

 右側にはボディガード、左側にはフェルナンド。

 また逃げ道を塞がれ、香澄は歯噛みする。

(どうする!? ……っ考えて、…………っ考えるの!!)

 必死に冷静になろうとするが、なれる訳もない。

 初めて訪れるロサンゼルスの走行している車の中。右と左には体格のいいボディガードがいて、力で敵わない。

 ホテルに着いた瞬間を狙っても、スマホがない状態でどう逃げて誰を頼ればいいか分からない。

 助けを求めた人が善人と限らない。

 ここに久住と佐野がいるとしても、どうやって連絡を取ればいいのか。

 考えれば考えるほどドツボに嵌まり、「佑さんが助けてくれる」という希望すらかすんでくる。
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