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第二十一部・フェルナンド 編
渦中のChief Every
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『見違えたじゃないか』
フェルナンドに褒められてもまったく嬉しくなく、香澄は暗い表情のままだ。
『首元が寂しいから、これをつけるといい』
そう言ってフェルナンドは、香澄の首にルビーのついたネックレスをつけた。
『こちらも撮影の準備ができた。そこに立ってくれ』
護衛たちが黒い布を広げる。
シートの一枚は床に広げ、もう一枚は後ろで男たちが二人で広げた。
写した場所が分からない、簡易的なフォトスタジオを作ったのだろう。
『シートの上に立って、笑って』
(写真を撮られたら、闇サイトに顔が知られてしまう)
立ち尽くしたまま黙っていると、『カスミ、さっき言った事を忘れたか?』と脅される。
香澄は仕方なくノロノロと歩き、シートの上に立つ。
『少し斜めに立って……。そう。手はお腹の上で組んで、笑って』
笑いたくないのに、香澄はむりやり口角を上げる。
いつの間にか機材が用意され、ストロボが焚かれて写真を撮られる。
撮影は、フェルナンドが満足する写真が撮れるまで続いた。
ようやく撮影が終わったあと、フェルナンドは男たちに片付けを任せ、香澄を伴ってレストランに向かう。
護衛は部屋に残ったので、隙を突けば逃げられるかと思ったが、部屋の外にはさらに二人が待機していた。
(街中の囮もだけど、何人用意したの?)
今になってこの誘拐が用意周到に計画されていたものだと知り、香澄は唇を噛む。
フロアを移動してエレベーターに乗る時、外国人の一家と同乗した。
金髪の両親に、金髪の子供が二人。
両親は佑ほどの年齢で、美男美女だった。
気にしていると夫と一瞬目が合ったので、香澄は思わず曖昧に微笑んで会釈をする。
そのあとは不審な行動を取らないように、まっすぐ前を向いていた。
けれど、やけにその金髪男性が自分を見ている気がした。
**
終業時間になったのに、Chief Everyの総務部の電話は鳴りっぱなしだった。
顔を強張らせた社員が言うには、佑がどこかの店で若い女性の胸を揉み、酒浸りになっている写真が流出したらしい。
送られてきた画像を確認したが、拡大すればすぐに合成だと分かった。
(こんな時に……)
佑は思わず舌打ちする。
タイミング的に、フェルナンドが仕掛けたのだろう。
「これは合成写真で事実無根だと伝えろ。悪意を持った第三者が俺を嵌めようとしている。メディアが面白おかしく話題にするというなら、こちらも相応の対応をすると伝えておけ。脅しと取られても構わない」
目の前に立っている秘書課の女性に伝え、佑は乱暴な溜め息をつく。
彼女は会釈をして、慌てて退室していった。
総務部に電話が掛かったあと秘書課に確認があり、内線より直接赴いたほうが早いという事で、社長室に駆け込んできたのだ。
いわく、あらゆる問い合わせ先から、本当に佑が先述のような女遊びをしているのかと、確認を求められていると。
これだけならまだ可愛い部類だが、もう一つは二重帳簿のデータが流出しているとの事だ。
まったく身に覚えがなく、佑は胃を痛めていた。
顧問会計士の峰岸とは会社設立当初からの付き合いで、彼が適当な仕事をするはずがない。
佑は急いで峰岸に連絡する。
数コール鳴ってから、『はい、峰岸です』と男性の声がした。
「もしもし、御劔です。現在ちょっとした騒ぎが起こっているのですが、すぐに本社まで来られますか」
『はい、可能ですが……。何かありましたか?』
その口調から、峰岸がキョトンとしているのが窺える。
(峰岸さんは関与していないと思っていいだろう。流出している二重帳簿もデマと考えていい)
佑は冷静に判断し、峰岸に二重帳簿の話をした。
『そんな……! あり得ません! 私はChief Everyの担当をさせて頂いてから、誠実に働かせて頂いています。一円の過不足もなくきっちり計算し続け、Chief Everyと御劔さんのお力になれた事を誇りに思っています』
峰岸は動揺しつつもきっぱり言い放つ。
フェルナンドに褒められてもまったく嬉しくなく、香澄は暗い表情のままだ。
『首元が寂しいから、これをつけるといい』
そう言ってフェルナンドは、香澄の首にルビーのついたネックレスをつけた。
『こちらも撮影の準備ができた。そこに立ってくれ』
護衛たちが黒い布を広げる。
シートの一枚は床に広げ、もう一枚は後ろで男たちが二人で広げた。
写した場所が分からない、簡易的なフォトスタジオを作ったのだろう。
『シートの上に立って、笑って』
(写真を撮られたら、闇サイトに顔が知られてしまう)
立ち尽くしたまま黙っていると、『カスミ、さっき言った事を忘れたか?』と脅される。
香澄は仕方なくノロノロと歩き、シートの上に立つ。
『少し斜めに立って……。そう。手はお腹の上で組んで、笑って』
笑いたくないのに、香澄はむりやり口角を上げる。
いつの間にか機材が用意され、ストロボが焚かれて写真を撮られる。
撮影は、フェルナンドが満足する写真が撮れるまで続いた。
ようやく撮影が終わったあと、フェルナンドは男たちに片付けを任せ、香澄を伴ってレストランに向かう。
護衛は部屋に残ったので、隙を突けば逃げられるかと思ったが、部屋の外にはさらに二人が待機していた。
(街中の囮もだけど、何人用意したの?)
今になってこの誘拐が用意周到に計画されていたものだと知り、香澄は唇を噛む。
フロアを移動してエレベーターに乗る時、外国人の一家と同乗した。
金髪の両親に、金髪の子供が二人。
両親は佑ほどの年齢で、美男美女だった。
気にしていると夫と一瞬目が合ったので、香澄は思わず曖昧に微笑んで会釈をする。
そのあとは不審な行動を取らないように、まっすぐ前を向いていた。
けれど、やけにその金髪男性が自分を見ている気がした。
**
終業時間になったのに、Chief Everyの総務部の電話は鳴りっぱなしだった。
顔を強張らせた社員が言うには、佑がどこかの店で若い女性の胸を揉み、酒浸りになっている写真が流出したらしい。
送られてきた画像を確認したが、拡大すればすぐに合成だと分かった。
(こんな時に……)
佑は思わず舌打ちする。
タイミング的に、フェルナンドが仕掛けたのだろう。
「これは合成写真で事実無根だと伝えろ。悪意を持った第三者が俺を嵌めようとしている。メディアが面白おかしく話題にするというなら、こちらも相応の対応をすると伝えておけ。脅しと取られても構わない」
目の前に立っている秘書課の女性に伝え、佑は乱暴な溜め息をつく。
彼女は会釈をして、慌てて退室していった。
総務部に電話が掛かったあと秘書課に確認があり、内線より直接赴いたほうが早いという事で、社長室に駆け込んできたのだ。
いわく、あらゆる問い合わせ先から、本当に佑が先述のような女遊びをしているのかと、確認を求められていると。
これだけならまだ可愛い部類だが、もう一つは二重帳簿のデータが流出しているとの事だ。
まったく身に覚えがなく、佑は胃を痛めていた。
顧問会計士の峰岸とは会社設立当初からの付き合いで、彼が適当な仕事をするはずがない。
佑は急いで峰岸に連絡する。
数コール鳴ってから、『はい、峰岸です』と男性の声がした。
「もしもし、御劔です。現在ちょっとした騒ぎが起こっているのですが、すぐに本社まで来られますか」
『はい、可能ですが……。何かありましたか?』
その口調から、峰岸がキョトンとしているのが窺える。
(峰岸さんは関与していないと思っていいだろう。流出している二重帳簿もデマと考えていい)
佑は冷静に判断し、峰岸に二重帳簿の話をした。
『そんな……! あり得ません! 私はChief Everyの担当をさせて頂いてから、誠実に働かせて頂いています。一円の過不足もなくきっちり計算し続け、Chief Everyと御劔さんのお力になれた事を誇りに思っています』
峰岸は動揺しつつもきっぱり言い放つ。
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