【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

文字の大きさ
上 下
1,354 / 1,559
第二十一部・フェルナンド 編

客室に現れたのは

しおりを挟む
(相談してほしいと強く伝えていたが、動転したか……)

 もう一度溜め息をついた佑は、背後に広がる夜景を見下ろし、息を吸い、ゆっくり吐く。

 香澄が空港に向かったなら、羽田か成田のどちらに行くか予想できないし、幾つもあるゲートのどれを利用したか分からない。

 まっすぐスペインに向かうなら絞れるだろうが、相手の行き先など見当もつかない。

 行く先があったとしても、経由地点を挟めば簡単に攪乱されるだろう。

「……当初の予定では、パリコレの仕事が終わったあとにそちらに寄って、香澄のピアノを聞かせるつもりだったが、すまない」

《気にする事はない。まず何より香澄さんの無事が一番だ》

「また連絡する。皆に宜しく」

 電話を切ってから、佑は無意識にまた溜め息をついた。

「御劔さん」

 その時、社長室の応接セットに座っていた刑事が声を掛けてきた

「はい」

 佑はすぐ刑事のほうに向かう。

「空港では今のところ収穫はありません。別途、東京湾に豪華客船……アフロディーテ号が来ているのですが、司法警察職員等指定応急措置法では、二十トン以上の船舶の船長は、船の上では王様より強いと言われています。船長が客のプライバシーを守り、立ち入りチェックを『ノー』と言えば、我々は引き下がるしかありません」

 佑も、現在東京湾にアフロディーテ号が停泊していたのは分かっていた。

 だがいま刑事が口にした、船舶の決まり事があるゆえに、幾ら御劔佑と言えども無理を言えない。

 船長、機長は船や飛行機では、市長、警察署長、裁判官の役割も兼ねている。

 それは日本も海外も同じだ。

 仮に船内で違法薬物を密輸したなどの明確な犯罪があったなら、船長から警察への連絡がある。

 だが香澄が〝自らついていった〟なら、同意の上での行動になる。

 幾らこちらが『脅されて誘拐された』と主張しても、まかり通らない場合がある。

 加えて佑がどれだけ金を積んでも、乗客の人数が決まっているクルーズ船には乗る事ができない。

「おつらいでしょうが、捜査官が結果を掴むまでお待ちください」

 同席している捜査官は、ノートパソコンを開いてインカムを装着し、情報を確認してはパソコンを操作していた。

「……分かりました」

 佑は溜め息をつき、窓辺に向かった。

 いつもこの時間になったら、香澄が『社長、そろそろ会社を出る時間です』と声を掛けてくれていた。

 ――今日も何の変哲もない、普通の平日のはずだった。

 佑は胸にこみ上げるどす黒い感情を必死に押し殺し、深く長く息を吐いた。


**



 香澄は窓の外の夜空と黒い海をぼんやり眺めていた。

 夕方になって遠くから銅鑼が鳴る音が聞こえると、ボォォォォッと大きな汽笛が二度鳴った。

 香澄は緊張したままリビングのソファに座っていた。

 部屋の中には男たちが立っていて、彼女を見張っている。

 船が動き始めてから三十分ほど経ってから、部屋のドアがノックされた。

 トン、トトトン。

 特徴的なリズムでノックされたのを聞いて、出入り口にいた男がドアを開けた。

 室内に入ってきたのは――、バルセロナのホテルで会ったフェルナンドだ。

「…………!」

 思わず立ち上がった香澄は、唇を引き結んでフェルナンドを睨む。

『ようこそ、カスミ。俺の城へ』

 フェルナンドは両腕を広げ、芝居がかった様子で笑った。

『どうしてこんな事するんですか!』

 香澄は声を荒げ、英語でまくしたてる。

『何回も言ったじゃないか。御劔佑の破滅を願っていると』

 グレーのスーツを着たフェルナンドは、コートを脱いで男の一人に預け、香澄の向かいに座る。

『君も旅行は好きだろう? このクルーズ船はこれから太平洋に出る。途中でハワイに一泊寄港して十五日かな。ゆっくり楽しむといい』

 ゆったりと言ってから、フェルナンドは男たちに『彼女にコーヒーも淹れていないのか』と呆れたように笑う。
しおりを挟む
感想 560

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...