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第二十一部・フェルナンド 編
撹乱
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「……っ誰だよ」
〝彼女〟の顔を見て、呉代はついそう言った。
一瞬「赤松さんに似てる」と思ったが、全然違う。
顔立ちや雰囲気は似ているが、彼女より目が細く鼻筋が高すぎる。唇の形も違うし、とにかく違う。
「呉代さん! あれ!」
その時、佐野が左側を指差した。
北改札口を〝香澄〟に見える女性が、二人の大柄な男に挟まれて通ろうとしているのが見える。
「呉代、あっちも!」
久住が通り過ぎた中央改札を指し、そちらを見るとまたしても三人組がいる。
「……おい、改札の向こうにもいる」
血の気を引かせた佐野が言い、呉代も改札の先を見て、すぐに三人を目視した。
「~~~~っ」
呉代はチッと舌打ちをし、インカムに向かって声を上げる。
「河野さん、小山内さん、どうなってますか!? 指示をください!」
すぐにイヤフォンから河野の声が聞こえた。
『河野です。今パソコンで赤松さんのチャームについたGPSを確認していますが、マークはすでに北品川駅方面に移動しています。……だがおかしい。彼女が所持している二つのスマホのGPSが、バラバラの方角に動いています。……おそらく、こちらの手を読んで複数の替え玉が用意されていたのかもしれません』
呉代は歯ぎしりをし、舌打ちをする。
その時、彼らに声を掛けてくる者がいた。
「呉代さんですね?」
振り向くと、一般人に扮しているが、以前に打ち合わせをした刑事がいる。
「パトロールしている者から『それらしい女性が、男二人に挟まれて移動しているのを見た』と報告があり、そのまま追わせています」
対応に安堵したものの、ターゲットは複数いる。
それを説明すると、刑事は難しい顔をしてから、懐から出したトランシーバーで指示を出した。
「駅構内にいる一人は東口に向かえ。相手は複数の囮を使っている。黒いコートにまとめ髪の女性を、大柄な男二人が挟んでいる。その三人組を見つけたら、ただちに追って確認しろ」
指示を出したあと、彼は隣にいる私服の女性警官が持っているタブレット端末を覗き込んだ。
「近くにいる数組には追いつくでしょう。ですが囮を作ったなら、それに紛れて本物がどこかに向かっているはずです。すでに部下が一組目を確認したあと、本部に応援を呼んでいます。誘拐事件として付近でも検問をして、都心から出さないように対処します」
警察の手際の良さに安堵しつつも、呉代は悔しげに顔を歪める。
(遠くに連れて行かれる前に見つかってくれ)
祈りながら、呉代は警察の対応を河野に伝える。
呉代が刑事と話している間、佐野は切符を買っていた。
そのあと、佐野と久住はホームに向かい、呉代は品川駅構内をくまなく探す事にした。
**
スケジュールを調整した佑は、社長室でモニターを睨んでいた。
追跡は警察と呉代たちに任せ、彼らへの指示は河野がしてくれている。
こんな時だというのに、松井がいつもと変わらない様子で仕事のデータを送ってきて、さすがに恨みそうになった。
だが松井も心得たもので、「現在、社長ができる事はございません」ときっぱり言い切る。
結局佑は、報告書に目を通しては香澄を思い出して心を乱され、溜め息をつく……という事を繰り返していた。
気が付けば夕方が迫っていて、あと五分で終業だ。
終業後は警察署に向かい、捜査を見守らせてもらう事になっていた。
(香澄……)
また彼女がエミリアの時のような目に遭っていたら……と思うと、心配のあまり胃が痛くなる。
呉代は警察の力を借りて品川駅の駅長や商業施設に話を通し、香澄らしき人物を見かけたら教えてくれるよう伝えたそうだ。
勿論、防犯カメラも現在進行形で解析されている。
ただ、とても粗い画像を鮮明な画像に修正しているので、それなりの時間が掛かってしまう。
駅構内の人の流れから香澄らしき人陰を見つけ、それが彼女本人であるかを確認するのを、囮の数だけ繰り返すのだ。
特別な技術を持つ科学捜査研究所――科捜研の職員は、大勢ではない。
〝彼女〟の顔を見て、呉代はついそう言った。
一瞬「赤松さんに似てる」と思ったが、全然違う。
顔立ちや雰囲気は似ているが、彼女より目が細く鼻筋が高すぎる。唇の形も違うし、とにかく違う。
「呉代さん! あれ!」
その時、佐野が左側を指差した。
北改札口を〝香澄〟に見える女性が、二人の大柄な男に挟まれて通ろうとしているのが見える。
「呉代、あっちも!」
久住が通り過ぎた中央改札を指し、そちらを見るとまたしても三人組がいる。
「……おい、改札の向こうにもいる」
血の気を引かせた佐野が言い、呉代も改札の先を見て、すぐに三人を目視した。
「~~~~っ」
呉代はチッと舌打ちをし、インカムに向かって声を上げる。
「河野さん、小山内さん、どうなってますか!? 指示をください!」
すぐにイヤフォンから河野の声が聞こえた。
『河野です。今パソコンで赤松さんのチャームについたGPSを確認していますが、マークはすでに北品川駅方面に移動しています。……だがおかしい。彼女が所持している二つのスマホのGPSが、バラバラの方角に動いています。……おそらく、こちらの手を読んで複数の替え玉が用意されていたのかもしれません』
呉代は歯ぎしりをし、舌打ちをする。
その時、彼らに声を掛けてくる者がいた。
「呉代さんですね?」
振り向くと、一般人に扮しているが、以前に打ち合わせをした刑事がいる。
「パトロールしている者から『それらしい女性が、男二人に挟まれて移動しているのを見た』と報告があり、そのまま追わせています」
対応に安堵したものの、ターゲットは複数いる。
それを説明すると、刑事は難しい顔をしてから、懐から出したトランシーバーで指示を出した。
「駅構内にいる一人は東口に向かえ。相手は複数の囮を使っている。黒いコートにまとめ髪の女性を、大柄な男二人が挟んでいる。その三人組を見つけたら、ただちに追って確認しろ」
指示を出したあと、彼は隣にいる私服の女性警官が持っているタブレット端末を覗き込んだ。
「近くにいる数組には追いつくでしょう。ですが囮を作ったなら、それに紛れて本物がどこかに向かっているはずです。すでに部下が一組目を確認したあと、本部に応援を呼んでいます。誘拐事件として付近でも検問をして、都心から出さないように対処します」
警察の手際の良さに安堵しつつも、呉代は悔しげに顔を歪める。
(遠くに連れて行かれる前に見つかってくれ)
祈りながら、呉代は警察の対応を河野に伝える。
呉代が刑事と話している間、佐野は切符を買っていた。
そのあと、佐野と久住はホームに向かい、呉代は品川駅構内をくまなく探す事にした。
**
スケジュールを調整した佑は、社長室でモニターを睨んでいた。
追跡は警察と呉代たちに任せ、彼らへの指示は河野がしてくれている。
こんな時だというのに、松井がいつもと変わらない様子で仕事のデータを送ってきて、さすがに恨みそうになった。
だが松井も心得たもので、「現在、社長ができる事はございません」ときっぱり言い切る。
結局佑は、報告書に目を通しては香澄を思い出して心を乱され、溜め息をつく……という事を繰り返していた。
気が付けば夕方が迫っていて、あと五分で終業だ。
終業後は警察署に向かい、捜査を見守らせてもらう事になっていた。
(香澄……)
また彼女がエミリアの時のような目に遭っていたら……と思うと、心配のあまり胃が痛くなる。
呉代は警察の力を借りて品川駅の駅長や商業施設に話を通し、香澄らしき人物を見かけたら教えてくれるよう伝えたそうだ。
勿論、防犯カメラも現在進行形で解析されている。
ただ、とても粗い画像を鮮明な画像に修正しているので、それなりの時間が掛かってしまう。
駅構内の人の流れから香澄らしき人陰を見つけ、それが彼女本人であるかを確認するのを、囮の数だけ繰り返すのだ。
特別な技術を持つ科学捜査研究所――科捜研の職員は、大勢ではない。
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