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第二十一部・フェルナンド 編

拉致

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「護衛が動きました。警察と連携を取っていくとの事です」

 河野が戻って告げ、佑はすぐ判断をくだす。

「共有しているアプリで香澄のGPSをオンにし、河野がブレインになって警察に対応してくれ。基本的に判断は警察に任せ、護衛に指示を与えてほしい」

「承知致しました」

 河野は薄型のノートパソコンを取りだし、地図アプリを立ち上げる。

 そして机の引き出しからインカムを取りだして装着した。

 万が一の事を考え、佑は秘書や護衛、運転手に香澄の位置情報を共有するアプリをダウンロードさせていた。

 普段はオフにしてもらっていたが、有事となった今、それが生きる事になる。

「香澄の事に本腰を入れるため、役員と話してくる。警察が到着したら河野が対応してくれ。なるべくすぐ戻る」

「はい」

 指示を出しながら、佑の鼓動は速まっていた。

(大丈夫だ。警察にも協力を仰いでいる。以前のようにはならない)

 今すぐ走って追いかけたい気持ちを抑え、佑は歯を食いしばって思考を巡らせた。



**



 品川駅に向かって歩いている途中、一人の女性が香澄たちに近付いて合流した。

(なんで……?)

 その女性をひとめ見て、「私に似ている」と感じた。

 彼女は香澄と似たグレーのパンツスーツに、黒のタートルネックニット、そして香澄と同じ黒いコートを羽織っている。

 近くで見れば顔はまったく別人だが、何百、何千人に聞けば「似た系統」と答えるだろう。

 加えて背丈や体型も似ていて、髪型や髪の色もほぼ同じだ。

(佑さんたちを攪乱させるため?)

 両側にいる男性に何か言おうとした時、ポケットに入れていた新しいスマホをスッと取られてしまった。

「あっ! か、返してください!」

 取り戻そうとするが、男性は香澄のふりをした女性にスマホを渡し、彼女は香澄と同じウォレットポシェットにそれをしまった。

(まずい……)

 歯噛みしている間、左側にいた男性が香澄のウォレットポシェットを取り上げた。

「ちょ……っ!」

 さすがに発信器を取られては死活問題だ。
 だが男性のさらに左側から、また香澄に似た女性が現れた。

(え……っ)

 男性は二人目の偽物からウォレットポシェットを受け取り、それを香澄の肩に掛けさせた。

(これじゃあ……っ)

 焦った香澄をさらに驚かせたのは、さらに偽物が出てきて、品川駅に入る頃には少なくとも五人の〝香澄〟がいた事だ。

 そして偽物の両側には、似たような男性が二人並んで歩いている。

 彼女たちは駅の中に入っていって、香澄と男性二人は目立たない場所で車に乗り込んだ。

「待って……! んっ」

 抵抗しようにも頭を押さえられ、車に押し込まれてしまった。

(どうしよう……)

 自分の偽物を見た香澄は、混乱しきっていた。

 混乱しているからこそ、車が発進してもすぐ対応できず、呆けたまま現状を打破する方法を必死に考えていた。

 乗っている車もありふれた国産車なので、周囲の車と紛れてしまっている。

(まずい……。やばい……)

 母の命を逆手に取られて判断能力を奪われたあと、カウントダウンを見て恐怖を覚え、つい命令に従ってしまった。

 TMタワーに出たあとは、体の大きな外国人男性に挟まれた事により、「逃げよう」「抵抗しよう」と考える前に体が竦んでしまっていた。

「どう…………しよう…………」

 やっと香澄は〝現実〟を知る。

 左右に座っている男性の香水の匂い、知らない車の内装、車窓の外で流れる品川の景色、車の走行音。

 それらを感じる事によって現在進行形で佑から引き離されているのだと知り、頭が真っ白になった。

「お……、下ろしてくださいっ!!」

 今になって事の重大さに気づいた香澄は、ドアに向けて手を伸ばした。
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