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第二十一部・フェルナンド 編
ファッションウィークに向けて
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月曜日から香澄はまた秘書として働き始め、松井と河野に札幌土産のお菓子を持って行った。
加えて成瀬たち三人組にもお土産をあげた。
それから佑に随行して、CEPの会議や、ファッションウィークに出す衣装の最終確認に立ち会う。
ファッションウィークはNYから始まり、ロンドン、ミラノ、パリで締めくくられる、一か月のお祭りだ。
最前列に座るのは有名ジャーナリストやセレブ、インフルエンサーなど、ファッション界に強い影響を与える人々だ。
彼らのファッションにも注目され、メディアはフラッシュを焚く。
CEPが契約しているのは世界最高峰のモデルたちだ。
人種を問わず、服のイメージに似合うモデルを起用している。
ファーストルック、ラストルックと呼ばれるトップバッターとトリのモデルは多くの注目を集め、そのモデルも重要だ。
CEPではファーストルックには必ず日本人の新人モデルを起用し、ラストルックには長く契約している、日本とインドのミックスのカーラというモデルを使っていた。
カーラは世界的に知名度があり、普段はNYを起点に活躍している。
海外のショーにも出るし、雑誌やCMにも使われている。
彼女を起用するのに何百万という出演料が掛かる上、少ない時で三十人、多くて五十人ものモデルを歩かせるので、相当な金が掛かる。
歴史の古いパリ、ミラノのコレクションに比べ、NYとロンドンは内容に差がある。
高い芸術性を求められるパリコレクションでは、テーマに合わせた特殊セットの設営だけでも数千万円が掛かる場合もある。
だから参加できるのは、資本力のあるブランドに限られる。
パリコレクションが女性の憧れのブランドが多く参加しているのに対し、ミラノコレクションは男性向けブランドが多いのが特徴だ。
その中でCEPは、有名デザイナーに声を掛けられたのがきっかけで、コレクションを披露できていた。
勿論、春夏と秋冬の年二回、四箇所すべての参加ではない。
CEPのみに資金を割く訳にはいかず、ここぞというアピールができるパリコレクションにのみ、年二回参加している。
コレクションに招待された理由を考えると、アドラーの影響が強いかもしれない。
だがどんな理由であろうとも、のし上がれるなら構わないと、佑は差し伸べられた手をしっかり握った。
東京コレクションもあるのだが、もちろん規模は四大コレクションに劣り、開催時期が遅い事もあり足を運ばないバイヤーも多い。
いつか日本のブランドをもっと元気にさせられたら、と思うものの、CEPを継続させるのがまず第一の課題だ。
香澄は去年入社し、ファッションウィークには関わらなかった。
松井に「急に海外出張の仕事は大変ですから」と言われ、言葉に甘えて日本で待機していたのだ。
けれど今回は三人で海外出張し、現場での仕事を体験する予定だ。
「ドキドキしますね」
香澄は昼休みに河野が買ってきてくれたコーヒーを飲み、お菓子を食べながら言う。
「いつものようにのんびりお菓子を食べながら言われても、緊張しているように見られないのですが」
河野に塩対応されるのも、もう慣れている。
「えぇー? そうですか? 社長に同行できるので凄く役得です。私はファッションの事は分かりませんが、当然緊張してますよ。有名人にも会えるかもしれないし……」
我ながら、言う事がミーハーだ。
「社長にセレブの友人がいるのは、珍しくありませんけどね。『アロクラ』のお二人もミラノコレクションで発表されます。赤松さんはあのお二人に可愛がられていますし、義理の祖父になる方はクラウザー社の会長ですし、もう少しご自身の環境を鑑みたほうがいい気がしますが」
「そ、それはそうですけど……」
(佑さんの隣にいると、色々麻痺しちゃうな……)
反省しつつ、香澄はカフェオレを啜った。
「同行する護衛、運転手も含め、ホテルの手配は終わっていますし、あとはスタッフたちとの打ち合わせですね」
佑が参加するショーは一つだが、四大コレクションそのものは、一人の客として可能な限り見たいらしい。
香澄たちも関係者として同行する事が許されていて、人生初めて見る本物のコレクションに胸が高鳴りっぱなしだ。
「赤松さんはチョロチョロしないように、大人用ハーネスをつけて社長にリードを持っていてもらったほうがいいかもしれませんね」
河野が冗談なのか何なのか分からない事を言った時、ちょうど佑がノックして社長秘書室に入ってきた。
「……赤松さんに大人用ハーネスとリード?」
彼は「何の話をしていたんだ」と怪訝な顔になり、目を瞬かせる。
加えて成瀬たち三人組にもお土産をあげた。
それから佑に随行して、CEPの会議や、ファッションウィークに出す衣装の最終確認に立ち会う。
ファッションウィークはNYから始まり、ロンドン、ミラノ、パリで締めくくられる、一か月のお祭りだ。
最前列に座るのは有名ジャーナリストやセレブ、インフルエンサーなど、ファッション界に強い影響を与える人々だ。
彼らのファッションにも注目され、メディアはフラッシュを焚く。
CEPが契約しているのは世界最高峰のモデルたちだ。
人種を問わず、服のイメージに似合うモデルを起用している。
ファーストルック、ラストルックと呼ばれるトップバッターとトリのモデルは多くの注目を集め、そのモデルも重要だ。
CEPではファーストルックには必ず日本人の新人モデルを起用し、ラストルックには長く契約している、日本とインドのミックスのカーラというモデルを使っていた。
カーラは世界的に知名度があり、普段はNYを起点に活躍している。
海外のショーにも出るし、雑誌やCMにも使われている。
彼女を起用するのに何百万という出演料が掛かる上、少ない時で三十人、多くて五十人ものモデルを歩かせるので、相当な金が掛かる。
歴史の古いパリ、ミラノのコレクションに比べ、NYとロンドンは内容に差がある。
高い芸術性を求められるパリコレクションでは、テーマに合わせた特殊セットの設営だけでも数千万円が掛かる場合もある。
だから参加できるのは、資本力のあるブランドに限られる。
パリコレクションが女性の憧れのブランドが多く参加しているのに対し、ミラノコレクションは男性向けブランドが多いのが特徴だ。
その中でCEPは、有名デザイナーに声を掛けられたのがきっかけで、コレクションを披露できていた。
勿論、春夏と秋冬の年二回、四箇所すべての参加ではない。
CEPのみに資金を割く訳にはいかず、ここぞというアピールができるパリコレクションにのみ、年二回参加している。
コレクションに招待された理由を考えると、アドラーの影響が強いかもしれない。
だがどんな理由であろうとも、のし上がれるなら構わないと、佑は差し伸べられた手をしっかり握った。
東京コレクションもあるのだが、もちろん規模は四大コレクションに劣り、開催時期が遅い事もあり足を運ばないバイヤーも多い。
いつか日本のブランドをもっと元気にさせられたら、と思うものの、CEPを継続させるのがまず第一の課題だ。
香澄は去年入社し、ファッションウィークには関わらなかった。
松井に「急に海外出張の仕事は大変ですから」と言われ、言葉に甘えて日本で待機していたのだ。
けれど今回は三人で海外出張し、現場での仕事を体験する予定だ。
「ドキドキしますね」
香澄は昼休みに河野が買ってきてくれたコーヒーを飲み、お菓子を食べながら言う。
「いつものようにのんびりお菓子を食べながら言われても、緊張しているように見られないのですが」
河野に塩対応されるのも、もう慣れている。
「えぇー? そうですか? 社長に同行できるので凄く役得です。私はファッションの事は分かりませんが、当然緊張してますよ。有名人にも会えるかもしれないし……」
我ながら、言う事がミーハーだ。
「社長にセレブの友人がいるのは、珍しくありませんけどね。『アロクラ』のお二人もミラノコレクションで発表されます。赤松さんはあのお二人に可愛がられていますし、義理の祖父になる方はクラウザー社の会長ですし、もう少しご自身の環境を鑑みたほうがいい気がしますが」
「そ、それはそうですけど……」
(佑さんの隣にいると、色々麻痺しちゃうな……)
反省しつつ、香澄はカフェオレを啜った。
「同行する護衛、運転手も含め、ホテルの手配は終わっていますし、あとはスタッフたちとの打ち合わせですね」
佑が参加するショーは一つだが、四大コレクションそのものは、一人の客として可能な限り見たいらしい。
香澄たちも関係者として同行する事が許されていて、人生初めて見る本物のコレクションに胸が高鳴りっぱなしだ。
「赤松さんはチョロチョロしないように、大人用ハーネスをつけて社長にリードを持っていてもらったほうがいいかもしれませんね」
河野が冗談なのか何なのか分からない事を言った時、ちょうど佑がノックして社長秘書室に入ってきた。
「……赤松さんに大人用ハーネスとリード?」
彼は「何の話をしていたんだ」と怪訝な顔になり、目を瞬かせる。
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