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第二十部・同窓会 編

まだ婚約指輪を贈ってないのか?

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 佑のプライベートジェットは約一時間半のフライトを経て、十時すぎに新千歳空港に降り立った。

「さすが北海道だな。寒い」

「だね。この冷たい空気を吸うと、なんだかシャッキリする」

 飛行機から降りた二人は、護衛たちが荷物を下ろしている間、そんな会話をしている。

 空港のある周りは畑で、空の上から見ると一面雪で真っ白だった。

 やがて一同は車で札幌に向かった。

 香澄は故郷の風景に胸を躍らせ、窓に貼り付いて景色を見る。

「泊まるのはいつものホテル?」

「ああ。連絡しておいた」

 香澄は初めて佑と食事をしたホテルを思い出し、じんわりと頬を赤くする。

 佑も同じように出会いを思い出したのか、チラッとこちらを見して微笑んでいた。

 ニヤニヤした香澄は、シートの上で二本の指をトコトコと歩かせる。

 そして辿り着いた佑の手の上で、さらに手を歩かせた。

「んっ……、ふふっ」

 佑は小さく笑ったかと思うと、ギュッと香澄の手を握った。

 そのままたわいのない話をしながら、二人は北海道の広大な景色を楽しんだ。





 ホテルロイヤルグランに着くと、いつものコンシェルジュが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。御劔さま、赤松さま」

「いつもありがとうございます」

 スイートルームまで案内されると、佑はすぐルームサービスの紅茶をオーダーしてくれた。

「麻衣さん、呼ぶんだろう?」

「うん」

 ホテルに着いたあと麻衣にメッセージを送り、彼女とマティアスがきたら一緒にランチをとり、そのまま同窓会に行く予定だ。

「地下鉄に乗ってすぐだから、三十分以内には来るかも」

 そう言ったあと、香澄は少し迷ったあとにスマホを手にした。

 麻衣に会えるのはとても嬉しいが、〝このスマホ〟で彼女に連絡すると思うと気が重たかった。

 香澄は溜め息をついてからコネクターナウを開き、トントンとメッセージを打つ。

『札幌のホテルに着きました! フロントに言ったら案内してくれると思うので、部屋に来てね~!』

 メッセージを送ると、間もなく既読がつき返事がくる。

『了解! マのつく人も連れていきます』

「んふふっ」

 麻衣の言い方に笑った香澄は、『待ってます!』とうさぎのスタンプを送った。





 三十分ほどして、部屋のチャイムが鳴った。

 それを聞き、荷物の整頓を終えた香澄は「はーい!」とドアに向かった。

「友よ!」

 ドアを開けるなり麻衣が抱きついてきて、香澄は「あはは!」と声を上げて笑う。

 その後ろにはマティアスが立っていて、「こんにちは」と挨拶をした。

「一週間ぐらいだけど、久しぶりな気がする。元気だった?」

 麻衣に尋ねられ、香澄はフェルナンドの事や様々な事を思いだし、苦笑いする。

「うん、元気元気。……いやぁ、色々あって疲れたけど……」

 そう言いながら香澄は麻衣の左手を握り、バッと手袋を取った。

「なっ、何!?」

 意味不明の事をされ、麻衣が動揺する。

「……ない」

 麻衣が驚くのを無視して、香澄は彼女の薬指を見てガッカリしたあと、物言いたげな目でマティアスを見る。

 それを佑が通訳した。

「マティアス、まだ婚約指輪を贈ってないのか?」

「ああ、まだだ。マイが非協力的で、なかなか進んでいない」

「えぇ?」

 マティアスが麻衣を非難するのは意外で、香澄は少し驚く。

「とりあえず、お茶を飲みながら話をしよう」

 佑に言われて、客人二人はコートをハンガーに掛けてソファに座る。

 そのタイミングでルームサービスが届き、テーブルの上に紅茶や焼き菓子が並んだ。

「麻衣、マティアスさんに反抗してるの? 一生に一度の婚約指輪なんだから、好きなの作ってもらったら?」

 麻衣が遠慮していそうなのは想像したが、まずそう言ってみる。

 すると彼女は腕を組んで難しい顔をした。

「うぅーん……。結婚指輪なら欲しいのがあるんだけど、婚約指輪ってダイヤモンドとかキラキラした奴でしょ? 無くしちゃったら怖いし、見せびらかすのもやだし、結婚指輪だけでもいいかな? って」

「あぁ~……、なるほど」

 思わず納得した香澄を、今度はマティアスが物言いたげな目で見る。
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