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第二十部・同窓会 編
札幌に行く朝
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力で抵抗しても、もちろん敵わず、逆に〝お仕置き〟されてしまう。
やがてエミリアは大人しく言う事を聞くようになったが、従順になってガブリエルを油断させたあと、この城から脱出しようと思うようになった。
大人しくなった直後は『なんだ、もう諦めたのか』と半笑いで言われつつも、いつ逃げるのかと見張られていた。
だが最近はわざと隙を作ってもエミリアが逃げ出さないのを見てか、軟禁状態なのは変わらないものの、城の中では自由に過ごせるようになった。
それでも彼女の足首には、GPSつきの頑丈なアンクレットがついている。
(けど、こんな物、工具を使えばどうにかなるわ)
――あともう少し。
エミリアはガブリエルの信頼を完全に勝ち取るまで、引き続き機を窺い続ける事にした。
まるで狩りをする肉食獣のように――。
**
翌朝、香澄はビッグシルエットのベージュピンクのパーカーと、スキニーに着替える。
そのまま、わざとスマホを持たずにリビングに下りた。
佑が近所のパン屋で焼きたてパンを買ってきてくれ、その間に香澄は温野菜サラダを作った。
香澄が惣菜パンを好きなのを佑は熟知しているので、カレーパンの他にチキンパイも買ってきてくれた。
彼はシンプルなパンが好きらしく、バゲットに高級バターのエシルをつけて食べている。
テレビのニュースを見ながら、香澄はチキンパイを囓る。
佑はパン屋に行くと必ずクロワッサンも買ってくるので、香澄は次に何を食べるか迷っているところだ。
「今日、何時くらいに札幌に向かうの? いつでも出られるよう荷物の準備はしてあるけど、早いほうが麻衣と遊ぶ時間もできるかなって」
「飛行機の準備は済んでいるから、何時でもいいよ。朝飯が終わったら支度をしようか」
「うん」
「ところで、本当に同窓会に参加していいのか? 邪魔にならないか?」
「え? 皆すっごい楽しみにしてるよ?」
何を今更、と笑うと佑は安心したように微笑む。
「良かった。同級生の集まりに初対面の男が入って、気を悪くさせたら申し訳ないと思っていたから」
「私だって佑さんの同窓会に入れてもらったし」
「それは俺が望んだし、あいつらも香澄を見たいって言ったからだ」
「それと同じだよ。だから気にしないで」
にっこり笑うと、彼は頷いた。
「麻衣さんも一緒なら、マティアスも来るだろう。初めは水入らずで過ごしてほしいから、あいつと邪魔にならないところで飲んでいるよ。頃合いになったら召喚してくれ」
佑の言い方がおかしくて、香澄はクスクス笑いだす。
「んふふっ、召喚! 佑さんならすっごい強い召喚獣だなー。ゲーム終盤になって、特別なダンジョンでゲットできるような……」
〝召喚〟と聞いた香澄は、ついRPGゲームを想像してしまった。
「ん? 召喚……じゅう? ……ゲーム?」
だが佑は裁判で使用される単語を言ったつもりらしく、二人の間で意味の行き違いが生まれてしまう。
「んっ!? んーっ…………」
理解した香澄はボボッと赤面し、冷や汗を掻いて異様にニコニコする。
「あ、ゲームにもそういうシステムがあるんだっけ? 味方のモンスターを呼ぶような……?」
「いっ、いいよ! 寄せてくれなくて大丈夫!」
オタク知識を披露した香澄は恥ずかしくなり、羞恥を誤魔化すためにクロワッサンに齧り付く。
佑はそんな香澄を見て朗らかに笑った。
朝食を終えて二人は出掛ける準備を始め、小金井が運転する車で空港に向かった。
フェルナンドが聞いていると分かっていながら、いつも通りの演技をするのは緊張する。
意識しているのが言葉、態度に出ていないか気にしながらの道中となった。
プライベートジェットには機内Wi-Fiがあるが、香澄は飛行機に乗ったタイミングで電源を切ってしまった。
以前なら怯えて何もできなかっただろう。
だが佑に助けを求めて勇気が出たので、「空の上だし大丈夫」と電源を切る事ができた。
**
やがてエミリアは大人しく言う事を聞くようになったが、従順になってガブリエルを油断させたあと、この城から脱出しようと思うようになった。
大人しくなった直後は『なんだ、もう諦めたのか』と半笑いで言われつつも、いつ逃げるのかと見張られていた。
だが最近はわざと隙を作ってもエミリアが逃げ出さないのを見てか、軟禁状態なのは変わらないものの、城の中では自由に過ごせるようになった。
それでも彼女の足首には、GPSつきの頑丈なアンクレットがついている。
(けど、こんな物、工具を使えばどうにかなるわ)
――あともう少し。
エミリアはガブリエルの信頼を完全に勝ち取るまで、引き続き機を窺い続ける事にした。
まるで狩りをする肉食獣のように――。
**
翌朝、香澄はビッグシルエットのベージュピンクのパーカーと、スキニーに着替える。
そのまま、わざとスマホを持たずにリビングに下りた。
佑が近所のパン屋で焼きたてパンを買ってきてくれ、その間に香澄は温野菜サラダを作った。
香澄が惣菜パンを好きなのを佑は熟知しているので、カレーパンの他にチキンパイも買ってきてくれた。
彼はシンプルなパンが好きらしく、バゲットに高級バターのエシルをつけて食べている。
テレビのニュースを見ながら、香澄はチキンパイを囓る。
佑はパン屋に行くと必ずクロワッサンも買ってくるので、香澄は次に何を食べるか迷っているところだ。
「今日、何時くらいに札幌に向かうの? いつでも出られるよう荷物の準備はしてあるけど、早いほうが麻衣と遊ぶ時間もできるかなって」
「飛行機の準備は済んでいるから、何時でもいいよ。朝飯が終わったら支度をしようか」
「うん」
「ところで、本当に同窓会に参加していいのか? 邪魔にならないか?」
「え? 皆すっごい楽しみにしてるよ?」
何を今更、と笑うと佑は安心したように微笑む。
「良かった。同級生の集まりに初対面の男が入って、気を悪くさせたら申し訳ないと思っていたから」
「私だって佑さんの同窓会に入れてもらったし」
「それは俺が望んだし、あいつらも香澄を見たいって言ったからだ」
「それと同じだよ。だから気にしないで」
にっこり笑うと、彼は頷いた。
「麻衣さんも一緒なら、マティアスも来るだろう。初めは水入らずで過ごしてほしいから、あいつと邪魔にならないところで飲んでいるよ。頃合いになったら召喚してくれ」
佑の言い方がおかしくて、香澄はクスクス笑いだす。
「んふふっ、召喚! 佑さんならすっごい強い召喚獣だなー。ゲーム終盤になって、特別なダンジョンでゲットできるような……」
〝召喚〟と聞いた香澄は、ついRPGゲームを想像してしまった。
「ん? 召喚……じゅう? ……ゲーム?」
だが佑は裁判で使用される単語を言ったつもりらしく、二人の間で意味の行き違いが生まれてしまう。
「んっ!? んーっ…………」
理解した香澄はボボッと赤面し、冷や汗を掻いて異様にニコニコする。
「あ、ゲームにもそういうシステムがあるんだっけ? 味方のモンスターを呼ぶような……?」
「いっ、いいよ! 寄せてくれなくて大丈夫!」
オタク知識を披露した香澄は恥ずかしくなり、羞恥を誤魔化すためにクロワッサンに齧り付く。
佑はそんな香澄を見て朗らかに笑った。
朝食を終えて二人は出掛ける準備を始め、小金井が運転する車で空港に向かった。
フェルナンドが聞いていると分かっていながら、いつも通りの演技をするのは緊張する。
意識しているのが言葉、態度に出ていないか気にしながらの道中となった。
プライベートジェットには機内Wi-Fiがあるが、香澄は飛行機に乗ったタイミングで電源を切ってしまった。
以前なら怯えて何もできなかっただろう。
だが佑に助けを求めて勇気が出たので、「空の上だし大丈夫」と電源を切る事ができた。
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