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第二十部・同窓会 編

エミリアの歪んだ過去

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 脳裏に浮かんだのは、物心ついた時からずっと側にいてくれた、エミリアだけの王子様の顔だ。

 子供の頃にいじめらていたエミリアにとって、彼――兄、テオはヒーローだった。

 メイヤー家は遡れば貴族に連なる家で、彼女は『強く誇り高い淑女でなければいけない』と、いつも祖父に言い聞かせられていた。

 だからなのか、小さなエミリアは、兄にプリンセスの物語を読んでもらうのが大好きだった。

 昔から彼女の世界では〝兄、兄以外〟という図式が成り立っていた。

 エミリアの周囲を囲む人々は、明確なヒエラルキーに分けられていて、勿論、頂点にいるのは兄だ。

 その下は〝兄以外〟に属する〝身内〟や〝使える人〟〝その他〟……という構成になっている。

 彼女は兄に憧れ、兄が望む理想のプリンセスになろうと努力し続けた。

 自分は高貴なメイヤー家の娘だから、自分より〝下〟の子とは仲良くできないと思っていた。

 結果的にエミリアはいじめられるようになったのだが、それによって兄に同情してもらえる事になり、彼女は喜んで孤立するようになっていた。

 テオはエミリアがいじめられている事について、祖父に一言いったようだ。

 そのあと彼女を取り巻く環境はグッと良くなり、一気に過ごしやすくなった。

 だからエミリアは、テオの事を恩人だと思い、余計に慕った。

 学校では〝仲良し〟ができ、常に彼、彼女たちがエミリアを守ってくれた。

 プリンセスのように騎士たちに守られたのに気を良くした彼女は、自分を守る者には褒美を与えないと……と、何かと〝便宜〟を計らうようにした。

 世界はどんどんエミリアに優しくなり、彼女は『これが本来の世界』だと思うようになった。

 悪い呪いに掛けられていたプリンセスの自分を、兄という守護天使が助けてくれたのだと信じるようになったのだ。

 テオの兄としての親切心が、彼女の盲目さをさらに深めてしまった。

 やがて思春期になって性的な知識を得たエミリアは、絶対に兄にヴァージンを捧げたいと思うようになった。

 メイヤー家は毎年家族でバカンスを過ごしていて、その年はスイスのグリンデルヴァルトにある山小屋風のコテージに滞在する事になった。

 滞在中、祖父母と両親がベルンまで泊まりがけで赴く日があった。

 一緒に来るかと尋ねられたが、テオは大学の宿題があると言ってコテージに残った。

 当然エミリアもテオと残りたいと思い、二人きりになった。

 バカンス中、コテージに現地のスタッフが通い、衣食住の世話を焼いてくれる事になっていた。

 だが彼ら夜になると帰っていくので、夜は兄と二人きりになる。

 エミリアは勇気を出し、大人になるための儀式を兄に手伝ってもらおうと決意した。

『おやすみ』を言ってベッドに入って深夜二時を過ぎた頃、エミリアは兄の部屋に向かった。

 眠っている兄はとても美しく、本当に物語の王子様のようだと感じた。

 エミリアは友達から教えてもらった話や、ポルノサイトで学んだ知識をもとに、兄の屹立を愛撫し始めた。

 手と口で大きさを増すそれをとても愛しく思い、世の中の恋人たちが性行為を肉体だけでなく、心をも繋ぐ神聖な行為だと言うのが分かった気がした。

『お兄様に初めてを捧げて、妊娠させてもらうの』

 エミリアは少女のような純粋さを胸に、兄の腰に跨がり、破瓜の痛みを味わって歓喜の涙を流し、腰を動かし始めた。

 そのいっぽうで、彼女は実の兄妹が愛し合う事は禁忌だと知っていた。

 だから兄が寝ている間に事を済ませ、何事もなかったかのように過ごすと決めていた。

 そのために寝る前のお茶に、軽めの睡眠薬を入れさせてもらったが、風邪薬を飲ませるようなものだと思い、特に罪悪感を抱かなかった。

 愛しい人と繋がれて歓喜の涙を流したエミリアは、一心不乱に腰を動かした。

 やがて兄は悩ましい声を上げて、妹の体内で果てた。

『嬉しい……。これでお兄様の赤ちゃんを産める……』

 この上ない喜びを感じた時、テオが目を覚まし、――エミリアの世界が崩壊した。

 あれほど優しかったエミリアだけの王子様が、悪魔のように怖い顔をして彼女を叩き、罵倒してきた。

 エミリアは兄がなぜそこまで怒るのか分からず、泣きじゃくった。

 心から愛し合った人と結ばれ、子供を産みたいと思う事がなぜ悪いのか。

 物語のプリンセスは、プリンスと結婚したあとに幸せな家庭を築いているだろうに。

 兄は翌日には荷物を纏め、コテージから姿を消した。

 エミリアはベルンから帰ってきた祖父母、両親に『喧嘩をしてしまって、お兄様は先に帰ったの』と伝えたものの、家に帰ればすぐに仲直りできると信じていた。

 しかしドイツの実家に帰っても、兄の姿はなかった。

 兄はまだ夏休み中なのに、大学の寮に戻ってしまったらしい。

 その後、クリスマスになってもテオがメイヤー家に帰ってくる事はなかった。

 心配した両親が大学のあるミュンヘンを訪れても、テオは決してエミリアに会ってくれなかった。

 やがてテオは大学を卒業したあとに単身渡米し、NYに本社を置くコスモス・レイン社に入社した。

 長男である彼がメイヤー家を継ぐと誰もが思っていたのに、彼は家族に絶縁するとまで言ったのだ。
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