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第二十部・同窓会 編

飛行機飛ばしちゃった

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 佑に連絡をしたあと、香澄はしばらくぼんやりしていた。

 ここだけは安全なのだと思うと、動きたくなくなる。

 時差的に、今スペインは日中のはずだ。

 真夜中に部屋から出たというのに、長い間戻らなければ、不審に思われるかもしれない。

 スマホの充電が百パーセントになったあと、香澄はノロノロと立ちあがった。

 ゆっくり階段を上がったあと、ついでに一階のキッチンで水を飲み、二階の自室に戻る。

 フェルナンドにハッキングされているスマホに音を拾われないよう、静かに机の引き出しを開け、新しいスマホをしまう。

(何か言い訳をしたほうがいいのかな……)

 少し迷ったあと、「お腹痛い……」と言いながらベッドに潜った。

(明日は佑さんと札幌に行くけど、同窓会で友達に会う音声も全部拾われるのかな……。やだな。でも会いたい。不安だからこそ、皆に会いたい)

 今すぐにでも麻衣に抱きついて安心したい。

 マティアスとのその後だって聞きたいし、彼女が元気な姿を確認したい。

(同窓会に行く時、バタバタしてるどさくさでスマホを忘れちゃおうかな。それなら誤魔化せ……ないかな……)

 盗聴されていると知る前も、スマホを忘れて出掛けた事は時々あった。

 休日は気持ちがすっかり緩んでいるので、スマホなしにその辺をぷらっと歩いたり、佑と一緒にランチに行く事もある。

 だがそんな〝うっかり〟を、フェルナンドが許してくれるかどうかは謎だ。

 香澄は布団の中に入ってモソモソと体勢を整え、溜め息をつく。

 いつものスマホは、充電したまま睡眠アプリを起動してある。

「はぁ……」

 溜め息をついた香澄は、なるべく何も考えないようにして目を閉じた。





 いつの間にかぐっすり眠っていた香澄は、体がユラユラ揺れていると感じた。

 夢の中で香澄は佑に抱き上げられ、移動していた。

 佑は香澄をベッドに横たえると、頭を撫でてくれた。

(嬉しい……。佑さん大好き)

 香澄はふにゃ……と微笑んでまた寝入った。





「んぅ……」

 目を覚ました香澄は、身じろぎをして小さくうなる。

 すると逞しい腕に抱き締められ、無意識に〝彼〟の胸板に顔を擦りつけた。

(すき……)

 香澄は寝ぼけたまま〝彼〟に抱きつき、匂いを嗅ぐが、滑らかな肌を堪能した頃に「ん?」ともう少し覚醒した。

 サワサワと〝彼〟の胸板を撫でて顔を上げると、こちらを見て微笑んでいる佑と目が合った。

「すけべ」

 笑いながら言われ、香澄はパッと手を離した。

 だが佑は「すけべ」と言っておきながら、香澄の手首を掴んで自分の胸板を撫でさせる。

「そんなに男のおっぱいは気持ち良かったか?」

「うぅーっ、う、うぅ……」

 手を離そうとしても力では敵わないので、強制的に〝お触り〟させられている状態だ。

「セ、セクハラですけど!?」

 そう言うと、佑はようやく笑って手を離してくれた。

「ただいま」

 改めて抱き締められ、ちゅっちゅっと額や頬、鼻先、唇にキスをされる。

 嬉しいが、彼はまだ帰っていないはずだ。

「えっと……。大阪に一泊……だったよね?」

「香澄に会いたくて飛行機飛ばしちゃった」

 悪戯っぽく笑う佑を見てから、香澄はようやく自分が昨晩、彼に助けを求めた事を思いだした。

 ハッと昨晩の電話やフェルナンドを思いだすと、佑は小さく頷いて微笑む。

(気付いてない演技、しないと)

 すぐ理解した香澄は、いつものように佑に笑いかけた。

「飛ばしちゃったって……。そんなにお茶目に言われても……」

「本当はお菓子とか色々買うつもりだったけど、急遽買った豚まんで許してくれ。ふかしたら美味しく食べられると思う」

「食べる!」

 大阪の美味しい豚まんの話になり、香澄はカッと目を開いて完全覚醒した。

「……っふ、ふっふっふっふっ……」

 佑はその表情を見て笑いだし、顔を枕に埋めてプルプル肩を震わせた。

「もー……。……えっと、いま何時?」

「まだ六時前かな。もう少し人間湯たんぽさせて」

 そう言って、佑は香澄を抱き締め直す。
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