上 下
1,314 / 1,544
第二十部・同窓会 編

ドイツ組への協力要請

しおりを挟む
「またあとで連絡する。遅い時間に悪かった」

『いや、構わない』

 ひとまず電話を切ったあと、佑はドイツ時間を確認する。現在、あちらは十八時過ぎだ。

「この時間なら大丈夫か」

 そう思い、まずアドラー、双子それぞれに連絡をして、人払いをした状態でビデオ通話ができるかを尋ねた。

 佑からこのような提案をする事は滅多にないため、本能的に異変を感じた双方からすぐ返事がきた。

 佑はノートパソコンを開いてアプリを開く。

 やがて三つのウィンドウにアドラー、アロイス、クラウスのそれぞれが映った。

『どーした? タスク』

 佑は双子とアドラーの顔を見て、自然と安堵している自分がいるのに気付いた。

 悔しいが、自分一人では解決できないかもしれない。

 特に相手が狙撃手を雇っている場合、銃とは縁遠い自分より、荒波に揉まれた祖父の助言があると助かる。

 祖父も双子も、ヨーロッパやアメリカを中心として活躍している。

 フェルナンドの根城はスペインなので、彼らの人脈が必ず役立つと思っていた。

「手短に話す。俺もさっき情報を得たばかりで、すべてを知っている訳ではない。だが緊急事態だと判断したので、早い段階で協力を仰ぎたい」

 そう前置きをしてから、佑は香澄から聞いた情報、そしてマティアスと話した事をなるべく詳細に伝えた。

 しばらく三人は難しい顔をして黙り込み、やがてアドラーが口を開いた。

『スペインの海運会社の、代表取締役社長のファミリーネームがアベラルドだ。佑がバルセロナで見た彼は三十代半ばだな? それなら心当たりがある。しかしアベラルド家の彼はエミリオという名で、フェルナンドではない』

「それは俺も調べている。だがネットでエミリオ・アベラルドの顔を検索すると、奴にそっくりなんだ。別人に思えない」

『仮名っていう事は大いに考えられるよね』

 クラウスが髪を掻き上げて溜め息をつき、眉間に皺を寄せる。

「もしスペインにツテがあるなら、その辺りを調べてほしい。俺もスペインに知り合いはいるが、エミリオ・アベラルドと直接の知り合いではないし、海運関係はやや疎い」

『分かった。知り合いに当たってみよう』

 アドラーが頷く。

『俺たちも知り合いを当たってみる。勿論、向こうに勘づかせるような真似はしないから安心して』

 アロイスも協力を申し出た。

「頼む。香澄は誰かが命を落とすかもしれない事を恐れている。彼女にはもう『自分のせいで』と思わせたくない」

 自分たちの前に立ちはだかる障害は、エミリアだけで十分だ。

 自分が婚約者だから香澄が狙われたのだと思うと、申し訳なくて堪らない。

(何とかしなきゃ……)

 厳しい顔をする佑に、アドラーが画面の向こうから話し掛けてきた。

『香澄さんが心配なのは分かる。だが気負いすぎないように。きちんと寝て食べて、万全な状態で敵を迎え撃てるようにしなさい。私のほうから国際基準のボディガードを向かわせる。彼らが日本に着く頃になったらまた連絡をする。相手に気づかれないようにするから、安心しなさい』

「……分かった。ありがとう」

 祖父に言われ、佑は頷く。

「他の人には内密に頼む。俺も両親には言わない。ドイツ組で事情を知っているのは、この三人とマティアスだけだ」

『りょーかい』

『とりあえず、今すぐは何もできないから寝ろよ。そっち真夜中だろ?』

 アロイスに言われ、佑は現在の時刻を思いだす。

「今、大阪なんだ。香澄が一人で怖がっているから、これから秘書たちに事情を話して、すぐに東京に向かう」

『まぁ、自分の飛行機だし好きにしなよ。カスミに宜しく』

 クラウスに言われ、佑は頷く。

「香澄のスマホ以外、何に盗聴器、カメラが仕込まれているか判明していないから、自宅から電話、ビデオ通話はしない。連絡をくれても出られない可能性があるから、それは理解してくれ」

『分かった。早く香澄を抱き締めてあげなよ。俺たちもミサトが心配だから、札幌の護衛に連絡しとく』

 アロイスの言葉を聞いて、佑も「そうしたほうがいい」と頷いた。

 それから通信を切り、同じホテルに泊まっている河野と、小山内、呉代ペアに連絡をした。

 緊急の用事があるから、すぐ部屋に来てほしいと伝えると、間もなく三人が集まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...