【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第二十部・同窓会 編

では先に婚姻届を出そう

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『少し待ってくれ』

 そう言ったあと、間があった。

 恐らくカーテンやドアスコープ等の確認をしたのだろう。

 ややあって、マティアスが返事をした。

『続けてくれ』

「香澄が以前に誘拐されかけた時の事を、もう一度確認させてくれ。現在、彼女のスマホが乗っ取られて、情報が筒抜けになっているようだ。アプリを削除すれば命を狙うと脅され、護衛の頭にレーザーポインターを当てられた。……あの時、香澄のスマホを乗っ取る時間の余裕はあっただろうか」

 佑はコーヒーショップ事件の詳細を尋ねる。
 マティアスは少し沈黙してから、彼なりの返事をした。

『俺は奴らがカスミを抱えて、店を出てきたところからしか知らない。俺がカスミを助けてビルに着いたのが十三時十分すぎ。カスミがオフィスを出たのは十二時四十分だと聞いたから、長く見積もって三十分だ。スマホに何らかのウイルスを送ったり、アプリを入れるなら十分可能だと思う』

 マティアスの答えを聞き、佑は溜め息をつく。

 旅行者のふりをした女性はスーツケースを持っていたと聞いた。

 その中に薄型ノートパソコンやタブレットを入れるのはたやすい。その上で性能のいいコードを使えば、速くデータを送れる。

 データを移す先がパソコンなら、データ転送を高速化するアプリもある。

「……ちっ……」

 佑は知らずと舌打ちをしていた。

 あの時、香澄が誘拐されなくて良かった。ではなかったのだ。

 相手の目的は香澄に近付き、スマホのデータを入手する事だった。

 それを終えたついでに誘拐しようとしたのだろう。

 誘拐を防げて安心していたが、あとから大きなツケがまわってきた。

 ――気分が悪い。

 自分たちの生活、会話、香澄の生活音すべてを聞かれ、見られていたと思うと、この上なく不快だ。

 彼女のスマホで拾える音、映像すべてがフェルナンドに筒抜けだったのだろう。

 普段スマホを使って生活する時、いちいち電源をオフにする人はいないだろう。

 映画館や劇場に行っても、マナーモード、機内モードにすればいいだけだ。

 香澄もそのようにスマホを使っている。

 だからアプリは、バックグラウンドで作動していた事になる。

 考えている間、佑はきつく歯を食いしばっていた。

 だが去年の夏に奥歯を割ってしまった事を思い出し、ハッとして歯を浮かせる。

 また溜め息をつくと、マティアスが話しかけてきた。

『やられたな。あの時はスマホを弄られた可能性を考えられなかった』

「俺も気が回っていなかった」

 佑は少し黙っていたが、今の自分がすべき事は香澄のもとに帰る事だと考え直した。

「この件の余波で、お前と麻衣さんにも危険が及ぶ可能性がある。理想的なのは麻衣さんが仕事を辞めるまで、お前が札幌に滞在し、二人で行動する事だが……」

 そこまで言い、佑は言葉を途切れさせる。

 マティアスは短期的な観光で日本を訪れているので、申請なしに長期滞在はできない。

『分かった。では先に婚姻届を出そう。そして配偶者ビザを申請しておけば、何かあった時も速やかに対処できる』

「……お前な……」

 相変わらずすぐ行動しようとするマティアスに、佑は呆れた声をだす。

『マイの家族への挨拶は済んだ。いずれ俺の両親にも会わせるつもりだ。俺の父は柔軟な人だから、結婚についても日本人ほど形式にこだわらないだろう。いま必要なのはビザだ。そのために婚姻が必要なら、マイに説明して協力してもらう。マイもきっと分かってくれる』

 佑は今度は別の意味で溜め息をついた。

 マティアスと麻衣には、幸せになってもらいたいと思っている。

 だがせっかくの結婚だというのに、このゴタゴタが理由で婚姻届を出す時期が早まったなど、ムードがなくなる。

 いくら安全のためにビザが必要とはいえ、麻衣が気の毒だ。

「気持ちはありがたいが、結婚についての決断はよく考えてほしい」

『分かっている。心配しないでくれ』

 マティアスの返事を聞いたあと、二人の問題は二人に任せる事にした。

 麻衣は自分の意見をハッキリ言う女性だから、嫌だと思ったらきちんと断るだろう。

 だが香澄思いの人でもあるので、事情を知れば即座に頷くかもしれないが。
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