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第二十部・同窓会 編
では先に婚姻届を出そう
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『少し待ってくれ』
そう言ったあと、間があった。
恐らくカーテンやドアスコープ等の確認をしたのだろう。
ややあって、マティアスが返事をした。
『続けてくれ』
「香澄が以前に誘拐されかけた時の事を、もう一度確認させてくれ。現在、彼女のスマホが乗っ取られて、情報が筒抜けになっているようだ。アプリを削除すれば命を狙うと脅され、護衛の頭にレーザーポインターを当てられた。……あの時、香澄のスマホを乗っ取る時間の余裕はあっただろうか」
佑はコーヒーショップ事件の詳細を尋ねる。
マティアスは少し沈黙してから、彼なりの返事をした。
『俺は奴らがカスミを抱えて、店を出てきたところからしか知らない。俺がカスミを助けてビルに着いたのが十三時十分すぎ。カスミがオフィスを出たのは十二時四十分だと聞いたから、長く見積もって三十分だ。スマホに何らかのウイルスを送ったり、アプリを入れるなら十分可能だと思う』
マティアスの答えを聞き、佑は溜め息をつく。
旅行者のふりをした女性はスーツケースを持っていたと聞いた。
その中に薄型ノートパソコンやタブレットを入れるのはたやすい。その上で性能のいいコードを使えば、速くデータを送れる。
データを移す先がパソコンなら、データ転送を高速化するアプリもある。
「……ちっ……」
佑は知らずと舌打ちをしていた。
あの時、香澄が誘拐されなくて良かった。ではなかったのだ。
相手の目的は香澄に近付き、スマホのデータを入手する事だった。
それを終えたついでに誘拐しようとしたのだろう。
誘拐を防げて安心していたが、あとから大きなツケがまわってきた。
――気分が悪い。
自分たちの生活、会話、香澄の生活音すべてを聞かれ、見られていたと思うと、この上なく不快だ。
彼女のスマホで拾える音、映像すべてがフェルナンドに筒抜けだったのだろう。
普段スマホを使って生活する時、いちいち電源をオフにする人はいないだろう。
映画館や劇場に行っても、マナーモード、機内モードにすればいいだけだ。
香澄もそのようにスマホを使っている。
だからアプリは、バックグラウンドで作動していた事になる。
考えている間、佑はきつく歯を食いしばっていた。
だが去年の夏に奥歯を割ってしまった事を思い出し、ハッとして歯を浮かせる。
また溜め息をつくと、マティアスが話しかけてきた。
『やられたな。あの時はスマホを弄られた可能性を考えられなかった』
「俺も気が回っていなかった」
佑は少し黙っていたが、今の自分がすべき事は香澄のもとに帰る事だと考え直した。
「この件の余波で、お前と麻衣さんにも危険が及ぶ可能性がある。理想的なのは麻衣さんが仕事を辞めるまで、お前が札幌に滞在し、二人で行動する事だが……」
そこまで言い、佑は言葉を途切れさせる。
マティアスは短期的な観光で日本を訪れているので、申請なしに長期滞在はできない。
『分かった。では先に婚姻届を出そう。そして配偶者ビザを申請しておけば、何かあった時も速やかに対処できる』
「……お前な……」
相変わらずすぐ行動しようとするマティアスに、佑は呆れた声をだす。
『マイの家族への挨拶は済んだ。いずれ俺の両親にも会わせるつもりだ。俺の父は柔軟な人だから、結婚についても日本人ほど形式にこだわらないだろう。いま必要なのはビザだ。そのために婚姻が必要なら、マイに説明して協力してもらう。マイもきっと分かってくれる』
佑は今度は別の意味で溜め息をついた。
マティアスと麻衣には、幸せになってもらいたいと思っている。
だがせっかくの結婚だというのに、このゴタゴタが理由で婚姻届を出す時期が早まったなど、ムードがなくなる。
いくら安全のためにビザが必要とはいえ、麻衣が気の毒だ。
「気持ちはありがたいが、結婚についての決断はよく考えてほしい」
『分かっている。心配しないでくれ』
マティアスの返事を聞いたあと、二人の問題は二人に任せる事にした。
麻衣は自分の意見をハッキリ言う女性だから、嫌だと思ったらきちんと断るだろう。
だが香澄思いの人でもあるので、事情を知れば即座に頷くかもしれないが。
そう言ったあと、間があった。
恐らくカーテンやドアスコープ等の確認をしたのだろう。
ややあって、マティアスが返事をした。
『続けてくれ』
「香澄が以前に誘拐されかけた時の事を、もう一度確認させてくれ。現在、彼女のスマホが乗っ取られて、情報が筒抜けになっているようだ。アプリを削除すれば命を狙うと脅され、護衛の頭にレーザーポインターを当てられた。……あの時、香澄のスマホを乗っ取る時間の余裕はあっただろうか」
佑はコーヒーショップ事件の詳細を尋ねる。
マティアスは少し沈黙してから、彼なりの返事をした。
『俺は奴らがカスミを抱えて、店を出てきたところからしか知らない。俺がカスミを助けてビルに着いたのが十三時十分すぎ。カスミがオフィスを出たのは十二時四十分だと聞いたから、長く見積もって三十分だ。スマホに何らかのウイルスを送ったり、アプリを入れるなら十分可能だと思う』
マティアスの答えを聞き、佑は溜め息をつく。
旅行者のふりをした女性はスーツケースを持っていたと聞いた。
その中に薄型ノートパソコンやタブレットを入れるのはたやすい。その上で性能のいいコードを使えば、速くデータを送れる。
データを移す先がパソコンなら、データ転送を高速化するアプリもある。
「……ちっ……」
佑は知らずと舌打ちをしていた。
あの時、香澄が誘拐されなくて良かった。ではなかったのだ。
相手の目的は香澄に近付き、スマホのデータを入手する事だった。
それを終えたついでに誘拐しようとしたのだろう。
誘拐を防げて安心していたが、あとから大きなツケがまわってきた。
――気分が悪い。
自分たちの生活、会話、香澄の生活音すべてを聞かれ、見られていたと思うと、この上なく不快だ。
彼女のスマホで拾える音、映像すべてがフェルナンドに筒抜けだったのだろう。
普段スマホを使って生活する時、いちいち電源をオフにする人はいないだろう。
映画館や劇場に行っても、マナーモード、機内モードにすればいいだけだ。
香澄もそのようにスマホを使っている。
だからアプリは、バックグラウンドで作動していた事になる。
考えている間、佑はきつく歯を食いしばっていた。
だが去年の夏に奥歯を割ってしまった事を思い出し、ハッとして歯を浮かせる。
また溜め息をつくと、マティアスが話しかけてきた。
『やられたな。あの時はスマホを弄られた可能性を考えられなかった』
「俺も気が回っていなかった」
佑は少し黙っていたが、今の自分がすべき事は香澄のもとに帰る事だと考え直した。
「この件の余波で、お前と麻衣さんにも危険が及ぶ可能性がある。理想的なのは麻衣さんが仕事を辞めるまで、お前が札幌に滞在し、二人で行動する事だが……」
そこまで言い、佑は言葉を途切れさせる。
マティアスは短期的な観光で日本を訪れているので、申請なしに長期滞在はできない。
『分かった。では先に婚姻届を出そう。そして配偶者ビザを申請しておけば、何かあった時も速やかに対処できる』
「……お前な……」
相変わらずすぐ行動しようとするマティアスに、佑は呆れた声をだす。
『マイの家族への挨拶は済んだ。いずれ俺の両親にも会わせるつもりだ。俺の父は柔軟な人だから、結婚についても日本人ほど形式にこだわらないだろう。いま必要なのはビザだ。そのために婚姻が必要なら、マイに説明して協力してもらう。マイもきっと分かってくれる』
佑は今度は別の意味で溜め息をついた。
マティアスと麻衣には、幸せになってもらいたいと思っている。
だがせっかくの結婚だというのに、このゴタゴタが理由で婚姻届を出す時期が早まったなど、ムードがなくなる。
いくら安全のためにビザが必要とはいえ、麻衣が気の毒だ。
「気持ちはありがたいが、結婚についての決断はよく考えてほしい」
『分かっている。心配しないでくれ』
マティアスの返事を聞いたあと、二人の問題は二人に任せる事にした。
麻衣は自分の意見をハッキリ言う女性だから、嫌だと思ったらきちんと断るだろう。
だが香澄思いの人でもあるので、事情を知れば即座に頷くかもしれないが。
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