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第二十部・同窓会 編
ふざけるな
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『大丈夫。佑さんに話せて安心した。まだ頑張れる』
『香澄はもう十分頑張ったから、今度は俺が喧嘩を買う番だ』
佑の言葉に、我慢したはずの涙が零れ落ちる。
『先日香澄は〝夫婦になるのにこんな事も話せないの?〟って言った。それを俺からも言いたい。一人で抱え込まないでほしい。俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど、俺は香澄が思っているほどヤワじゃない。だから安心して』
――そうか……。
自分が彼に向けた言葉を返され、香澄は深く納得する。
(私、佑さんを信じて頼ろうとしていなかった。まだ〝他人〟のつもりで、心配掛けたくなくて自分一人で解決しようとしていた)
自分の未熟さを思い知り、香澄は静かに息を吐く。
『これから急いで帰る。向こうが聞いている事を踏まえて、香澄は俺に合わせて演技してほしい。俺も奴に気付かせないようにするから、安心してくれ』
『うん、分かった。でも出張で疲れていると思うから無理しないで』
『ああ、大丈夫だ。あと、秘書、運転手、護衛にも情報を共有しておく。祖父と双子、マティアスにも教えておく。全員、口外無用と言ったら守ってくれるから心配するな』
挙げられた名前に、その人たちなら……と納得する。
『分かりました、任せます。マティアスさんなら麻衣を守ってくれそうだし』
彼なら自分の愛する女性をしっかり守ってくれるだろう。
『一人じゃないからな。香澄が声を上げたら皆助けてくれる。それを忘れないでくれ』
「うん……っ」
佑のメッセージを見て、香澄は声を出して頷いた。
『一旦離れる。ちゃんと眠って』
『分かった。ありがとう』
最後に香澄はポン、といつものうさぎスタンプを送った。
それに佑も、キャラクターが力こぶを作っているスタンプを送ってくれ、思わずクスッと笑みが漏れる。
しばらく香澄は床に座り込んだまま、熱を持ったスマホを手に放心していた。
「……信じよう」
呟いて目を閉じ、まな裏に浮かび上がった佑の笑顔に勇気をもらった。
**
「……ふざけるな」
香澄とのメッセージを終えた佑は、低いうなり声を上げた。
今までだって喧嘩を売られた事はある。
SNSのアンチみたいな小物ではなく、経営者としての御劔佑を脅威と感じる者たちに、社交界的な嫌がらせを受け、企業的損失を受けかねない攻撃をされた。
だが佑は敵を作る以上に味方にも恵まれた。
企業の成長と共に、どのようなアクシデントが起こるかを教えてもらっていた。
だから事前に対策を練り、大抵の事に対応してきた。
佑自身、親友から「心臓に毛が生えている」と言われるほどメンタルが強い自覚はある。
だが香澄は違う。
彼女は一年前まで、地方都市に住むごく普通の女性だった。
香澄の住む世界を変えたのは自分だ。
だから彼女に何があっても、最後まで責任を持つのが自分の役目だと思っていた。
香澄に害なす者がいないように、細心の注意を払っていたのに……。
「どこでスマホを乗っ取られたんだ」
ヨーロッパ旅行期間も帰国したあとも、香澄とは常に一緒だった。
エミリアの一件があってから警備をさらに強化したし、何者かが彼女に近付いて、スマホを弄る隙はなかったはずだ。
――が、一つ思い当たって舌打ちし、すぐに電話を掛けた。
『Hallo』
「マティアスか、俺だ。まだ札幌にいるか?」
『ああ。だがそろそろ東京に戻って、以前カイが紹介してくれた物件をチェックするつもりだ。そのあと一旦ドイツに戻る』
「ビザにはまだ余裕があるな?」
『どうかしたか?』
「端的に言うと、俺たちの命を狙っている者がいる。勿論、麻衣さんとお前もターゲットだ」
電話の向こうで、マティアスが緊張したのが分かった。
『香澄はもう十分頑張ったから、今度は俺が喧嘩を買う番だ』
佑の言葉に、我慢したはずの涙が零れ落ちる。
『先日香澄は〝夫婦になるのにこんな事も話せないの?〟って言った。それを俺からも言いたい。一人で抱え込まないでほしい。俺の事を心配してくれるのは嬉しいけど、俺は香澄が思っているほどヤワじゃない。だから安心して』
――そうか……。
自分が彼に向けた言葉を返され、香澄は深く納得する。
(私、佑さんを信じて頼ろうとしていなかった。まだ〝他人〟のつもりで、心配掛けたくなくて自分一人で解決しようとしていた)
自分の未熟さを思い知り、香澄は静かに息を吐く。
『これから急いで帰る。向こうが聞いている事を踏まえて、香澄は俺に合わせて演技してほしい。俺も奴に気付かせないようにするから、安心してくれ』
『うん、分かった。でも出張で疲れていると思うから無理しないで』
『ああ、大丈夫だ。あと、秘書、運転手、護衛にも情報を共有しておく。祖父と双子、マティアスにも教えておく。全員、口外無用と言ったら守ってくれるから心配するな』
挙げられた名前に、その人たちなら……と納得する。
『分かりました、任せます。マティアスさんなら麻衣を守ってくれそうだし』
彼なら自分の愛する女性をしっかり守ってくれるだろう。
『一人じゃないからな。香澄が声を上げたら皆助けてくれる。それを忘れないでくれ』
「うん……っ」
佑のメッセージを見て、香澄は声を出して頷いた。
『一旦離れる。ちゃんと眠って』
『分かった。ありがとう』
最後に香澄はポン、といつものうさぎスタンプを送った。
それに佑も、キャラクターが力こぶを作っているスタンプを送ってくれ、思わずクスッと笑みが漏れる。
しばらく香澄は床に座り込んだまま、熱を持ったスマホを手に放心していた。
「……信じよう」
呟いて目を閉じ、まな裏に浮かび上がった佑の笑顔に勇気をもらった。
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「……ふざけるな」
香澄とのメッセージを終えた佑は、低いうなり声を上げた。
今までだって喧嘩を売られた事はある。
SNSのアンチみたいな小物ではなく、経営者としての御劔佑を脅威と感じる者たちに、社交界的な嫌がらせを受け、企業的損失を受けかねない攻撃をされた。
だが佑は敵を作る以上に味方にも恵まれた。
企業の成長と共に、どのようなアクシデントが起こるかを教えてもらっていた。
だから事前に対策を練り、大抵の事に対応してきた。
佑自身、親友から「心臓に毛が生えている」と言われるほどメンタルが強い自覚はある。
だが香澄は違う。
彼女は一年前まで、地方都市に住むごく普通の女性だった。
香澄の住む世界を変えたのは自分だ。
だから彼女に何があっても、最後まで責任を持つのが自分の役目だと思っていた。
香澄に害なす者がいないように、細心の注意を払っていたのに……。
「どこでスマホを乗っ取られたんだ」
ヨーロッパ旅行期間も帰国したあとも、香澄とは常に一緒だった。
エミリアの一件があってから警備をさらに強化したし、何者かが彼女に近付いて、スマホを弄る隙はなかったはずだ。
――が、一つ思い当たって舌打ちし、すぐに電話を掛けた。
『Hallo』
「マティアスか、俺だ。まだ札幌にいるか?」
『ああ。だがそろそろ東京に戻って、以前カイが紹介してくれた物件をチェックするつもりだ。そのあと一旦ドイツに戻る』
「ビザにはまだ余裕があるな?」
『どうかしたか?』
「端的に言うと、俺たちの命を狙っている者がいる。勿論、麻衣さんとお前もターゲットだ」
電話の向こうで、マティアスが緊張したのが分かった。
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