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第二十部・同窓会 編

もう心配しなくていい

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『問題ない。全員元気だ』

「はぁ……っ」

 その返事を見て、香澄は止めていた息を一気に吐いた。

(大丈夫なんだ。地下とこのスマホは無事だ)

 一人で出口の見えない迷路で彷徨っていたように思えたが、ようやく迷宮の地図を手に入れ、佑という心強い仲間と出会えた気持ちになった。

『ありがとう』

 その言葉の中に、ありったけの気持ちを込めた。

 つい泣いてしまいそうになったが、まだ油断はできないと気を引き締める。

『一人で抱え込ませてしまってすまない。説明してくれるか? きっと今、一人でつらい思いをしているだろうから、落ち着いてゆっくりでいい』

 佑の言葉を見ると、まるで目の前に彼がいるような気持ちになる。

 想像の佑は香澄の肩に手を置き、落ち着かせるように目を合わせてくれている。

 想像の彼に勇気をもらった香澄は、自分を励ましてからメッセージを打った。

『先日、久住さんと佐野さんと出かけた時、カフェで窓際の席に座りました。私は通りに背中を向けて、お二人が通りを見ている並びでした。その時、佐野さんの額に、狙撃のものと思われる赤いレーザーポインターが映りました』

 一度そこで区切って送信し、次のメッセージを打とうとした時、ポンと佑から返事があった。

『俺は報告を聞いていない』

 彼が酷く驚愕しているのが、手に取るように分かった気がした。

『もし光が目に入れば、お二人も気付いたと思います。それをさせないほど、照準をしっかり合わせられる腕前なんだと思います。どうか久住さんと佐野さんを責めないで。お二人はちゃんと仕事をしてくれていました』

 少ししてから、佑が『分かった』と返事をよこした。

『そのあとコネクターナウで、バルセロナのホテルで会った、フェルナンドさんから連絡がありました』

 相手の名を明かしたあと、自分にも非があると思い、言い訳がましいと感じながらもすべて打ち明けた。

『……ごめんなさい。一度連絡先を交換してしまったのですが、佑さんに注意を受けたあとはブロックしました。本当です。なのでどうして連絡ができたのか、私にも分からないんです。電話番号やIDなどで、友達追加できない設定にしてあるはずなのに……』

 佑はすぐに反応すると思っていた。

 だが考えるように間を置いてから、慎重な反応を見せてくる。

『彼だと確定できる要素はあるか? 疑っているんじゃなくて、あらゆる方向からしっかり考えていきたい』

 佑がその気になれば、フェルナンドに制裁を与えられる。

 だからこそ、慎重になっているのだろう。

 理解した香澄は、カフェでの事をよく思いだし、事実に沿って返事をする。

『〝F〟というアイコン、アカウントでした。他に心当たりがないので、〝誰か分かるか〟と尋ねられた時に彼の名前を出しみたら、正解だと言われました。何が目的なのか尋ねても、明確な返事をくれません。そのあと言われた言葉を要約すると、私にコンタクトし、脅す事態にならないように試行錯誤したけれど、やむを得ず……と言っていました』

 また少し、間があった。

『彼は本当に目的を話さなかった?』

 尋ねられた香澄は、フェルナンドのメッセージを思いだした。

〝御劔佑の破滅〟という、ごくシンプルな言葉を――。

 香澄はそれを伝えるかどうか悩み、唇を噛む。

 本来ならパートナー、秘書として、彼に隠し事をせずすぐ報告するほうがいいのだろう。自分でも分かっている。

 だがフェルナンドの目的が佑だと知れば、彼は「自分のせいでつらい思いをさせた」と苦しむかもしれない。

 けれど佑は、その迷いすら見透かしたようだった。

『何でもいいから教えて。戦いの武器は情報だ。無知なままでは、奴の有利に働いてしまう』

 香澄は溜め息をついたあと、決心してメッセージを打っていく。

『〝御劔佑の破滅〟……と言っていました』

 とても悩んでから伝えたが、すぐに返事がきた。

『大丈夫だ。俺は破滅しない』

 佑がいつもの調子で返事をしたのを見て、香澄はようやく体から力を抜いた。

 フ……、と香澄の肩から力が抜ける。

『他に何か言っていた?』

『何を求めているのか尋ねましたが、今はまだ何も求めないと。必要に応じて連絡をすると言っていました』

『分かった。他は?』

『いつも使っている私用スマホで彼をブロック、アプリのアンインストール等、不審な動きをすれば〝アウト〟だと言っていました。多分、スマホそのものが乗っ取られているのではと思います。いつからかは分かりませんが、ずっと盗聴、監視されていたと思います。彼は、麻衣とマティアスさんの事も知っていました。……それで、麻衣を殺されたくなかったら、言う事を聞け……と』

 もし親友を殺されたらと思うと、恐ろしくてまた泣いてしまいそうになる。

『怖かったな。もう心配しなくて』

 メッセージを見て、佑が自分を抱き締め、トントンと背中を叩いてくれている気がした。
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