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第二十部・同窓会 編

いっその事男性になれたらいいのに

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「顔、やるよ」

「うん」

 返事をすると、佑が手を顔に滑らせてくる。

「香澄の毛穴に詰まったファンデーションを、ぜーんぶとっていくからな」

「んふふ、やだその言い方」

「綺麗になーれ」

 佑はふざけながら言い、指先でクルクルと香澄の顔をマッサージしていく。

 汚れの溜まりやすい小鼻もよくマッサージされ、最後にまた蒸しタオルでクレンジングバームが拭き取られていく。

「んー……、ありがと。すっきりした」

 それでも洗顔はきちんとしなければいけないので、観念して起き上がった。

 幸い、佑が休ませてくれたお陰で、なんとか立てるまで回復している。

 香澄はお尻を引きずるようにして大きなベッドから下りたあと、ペタペタと裸足で洗面所に入りバスローブを羽織った。

 ヘアゴムで髪を結んでヘアターバンで前髪を留め、無心で顔を洗っていると、佑が洗面所に来た。

 彼はスツールに腰掛け、話し掛けてきた。

「疲れてるのに、我が儘で求めてごめんな」

「ん? ううん?」

 香澄はクレンジングタオルで顔を拭きながら、内心「謝らなくていいのに」と呟いた。

 そのあと拭き取り化粧水で顔を拭い始めたが、佑に言われてギクリと体を強張らせた。

「香澄に『自分本位』って言われたばかりなのに、学習能力がないよな」

 彼を〝傷付けるための言葉〟が、佑の口から出てくる。

 本当は、自分本位なんて欠片も思っていない。

 幸せ一杯で愛し合ったはずなのに、こんな時になってフェルナンドの事を思い出した。

(…………っ、自業自得だ……)

 佑はいつも通りのように見えて、香澄に言われた言葉を引きずっている。

 傷つけてしまったと思い、フォローの言葉を口にしかけたが、急にあのレーザースコープを思い出した。

「…………っ」

 冷水を浴びせられたような恐怖を思い出し、言葉が出てこなくなる。

 佑は洗面台の上に置かれた使用済みコットンを捨て、気まずそうに笑う。

「ごめん。気にさせるつもりはなかった。続きをどうぞ。保湿しないと、香澄のもちぷるフェイスが意地できなくなるんだよな?」

 冗談めかして言われたからか、余計に居たたまれない気持ちになった。

「ん……」

 香澄はぎこちなく微笑み、基礎化粧品で肌を整えていく。

 そのあとも佑と話したが、内容をほとんど覚えていなかった。

 またベッドに戻ったあとも、気持ちはフェルナンドに支配されている。

 佑の寝息が聞こえる頃になっても、香澄は暗闇の中をジッと見つめていた。



**



 月曜日になってまた仕事が始まり、香澄はフェルナンドの影に怯え、神経質に日々を過ごした。

 秘書課から転送されるメールの中に怪しいものが紛れていないか気にし、佑宛ての郵便物も気にしてしまう。

 社長室で佑は窓ガラスを背にしているので、事あるごとに社長室に入っては彼にお茶やコーヒーを勧め、異変がないか気にしていた。

 テレビ局に向かう車の中でも窓の外を気にし、「赤松さん?」と佑に声を掛けられる始末だ。

 彼が出張に行くと聞いた時は、同行しようか迷ったが、河野に「私の役目ですので」と言われて引かざるを得なかった。

 河野に「くれぐれも社長をお願い致します」と頭を下げたが、恐らく彼は香澄の言う事の半分も理解していないだろう。

 それでも河野は護身術を身につけているので、足手まといの香澄よりずっと頼りになる。

(私が一緒に行っても、足手まといにしかならない……)

 こんな時「佑さんを守れる強さがあれば……」と思うし、「いっそ男性になれたらいいのに」と願ってしまう。

 そんな「もしも」を思っても、現実を変えられる訳ではない。

 佑が一泊二日の出張で大阪に向かった夜、香澄は斎藤が作ってくれた食事をとり、一人でベッドに入った。

 あっという間に木曜日になり、週末は札幌で同窓会だ。

(盗聴器、どこについているんだろう。スマホが一番怪しいとして、家や敷地内にもあるのかな。宅配の人に紛れているとしても、取り次ぐのは円山さんで、母屋には入らないはず。……母屋に入るのはお掃除関係の人、一か月に一回の各種設備のメンテナンス業者……。考えたらキリがない)

 テレビ番組に出た専門家は、コンセントの中に盗聴器が入っている事が多いと言っていた。

 盗聴器を見つけるための、専用の機械もあるらしいが……。
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