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第二十部・同窓会 編

あなたの大切な婚約者です

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 確かに透子は佑にアプローチせず、友達として振る舞っていた。

 けれど香澄は、ここまで佑と親密な関係なら、好きになってもおかしくないと思っていた。

 花はカラリとした性格だし、家庭もあるので、佑に何らかの感情を抱く可能性はほぼないと感じた。

 だが透子が自己紹介した時に独身だと言った瞬間、ピンと女の勘が働いてしまった。

「もしかして……」と思ったが、あの時は飲み会の始まりだったしうやむやになり、香澄も言及するつもりはなかった。

 だが香澄の知らない場所で、透子は佑に想いを伝えていたのだ。

(外で羽原さんと話していた時かな)

 そう思った瞬間、またピンときて声を上げた。

「あ!」

(羽原さん、『ずっと片思いしている女性には好きな人がいる』って言ってた。あれって……、透子さん?)

 完全に理解した香澄は、佑を含めた三角関係を想像して「あー……」ともう一度声を出して何回も頷いた。

「……どうした?」

 香澄の様子を見て、佑が尋ねてくる。

「ん? や、何でもない。別の事を思い出しただけ」

 香澄は微笑んで誤魔化す。

(この様子だと、佑さんは羽原さんの気持ちも知らないだろうな。……さすがに黙っておこう。透子さんの気持ちを知っただけでもこんなに落ち込むなら、親友の思い人が透子さんだと知ったら、もっと落ち込んじゃうな)

 佑は香澄を抱き締めたまま溜め息をつき、抱き締めてくる。

「……駄目だな、俺。人の気持ちに鈍感で」

 その言葉を聞き、落ち込んでいる佑には悪いが、思わず笑ってしまった。

 彼はほぼパーフェクトなのに、恋愛については鈍感すぎ、そこに人間らしさを感じたからだ。

 その欠点を愛おしいと思った。

「たまにはいいんじゃない?」

 香澄はポンポンと佑の背中を叩き、髪を撫でて慰める。

「……〝たまに〟でも、やらかすと落ち込む。……大切な友達なのに……」

 佑は心の底から落ち込んでいるようだ。

「告白されたの?」

 尋ねると、佑は素直に頷いた。

「透子さん、怒ってた? 佑さんを恨んでた?」

「……いいや。『好きでいさせてくれて、ありがとう』って言われた。これで終わらせて『前に進む』って……」

「透子さんが前に進むって決めたなら、友達として応援しよう?」

 香澄はコツンと、彼の額に自分のそれをつける。

「〝今〟の彼女が佑さんを諦めて、前に進むって決めたなら、応援しないと」

 香澄は佑の顔を覗き込み、笑いかける。

「ん……」

「『気付けなかった』って思うの、ちょっと違うんじゃないかな? 透子さんはその気になれば、いつでも告白できたと思う。告白しなかったのは彼女の意志だよ。気付けなかった佑さんは鈍感かもしれないけど、『悪い』と感じるのは違うと思う」

 佑は香澄の言葉を聞き、泣きそうな顔で笑う。

「……ありがとう」

 彼の表情を見て、キュッと胸の奥が締め付けられた。

 佑が傷つく時は自分が関わった時だけだと、少し自惚れてしまっていた。

 けれど彼の心には、香澄の知らない友人知人が大勢住んでいる。

 少し寂しいけれど、自分だって麻衣にべったりだし、札幌時代の友人がいるので責める事はできない。

(佑さんが麻衣を大切にしてくれるように、私も佑さんの友達を大切にしたい)

 そう思うと同時に、佑の新しい一面を知って「可愛いな」とも思った。

 そして少しだけ彼を叱る事にした。

「でもね、何も言わずに私にぶつけるのは駄目だよ。つらい事があって打ち明けてくれたら、こうやって受け止める許容量はあるつもりなの。でも佑さんはそれを無視して、抱いて発散しようとした。それは駄目だよ。私の気持ちを無視する事になるもの」

「……本当にごめん」

 理路整然と説明されて、佑は自分のふがいなさに溜め息をついた。

「きつい事を言うけど、私はセフレじゃない。ちゃんと心のある、あなたの大切な婚約者です」

「ん……」

 佑は本当に落ち込んでいるようで、香澄は「仕方ないなぁ」と笑って彼を抱き締めた。

 落ち込んだ佑を見ると、母性が疼く。

 彼は今までひたすら仕事に打ち込んできたからこそ、少し感覚が他人とズレているのかもしれない。

 そんな彼が自分だけを愛してくれるのはとても嬉しいし、大切にしたいと思った。

 香澄はにっこり笑ったあと、自分でスカートを脱ぎ、ストッキングもクルクルと下ろす。

「佑さん、仰向けになって」

「え……」

 香澄は戸惑う佑の胸板をグイッと押し、彼のベルトを外してズボンと下着を引き下ろした。
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