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第二十部・同窓会 編
告白
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(香澄がいない時で良かったな。香澄は普段、煙草とは無縁で生きてるから、俺が煙草っぽい物を吸ってる姿を見て、幻滅……はしないだろうけど、驚かせてしまうかもしれない)
佑はそんな事を思いつつ、ウィスキーを口に含む。
「御劔くん、こういう場所にいると、やっぱりさまになるね」
「普通に店で酒を飲んでるだけだよ」
「そうだけど」
透子はピンク色のカクテルを傾け、少し目を伏せて飲む。
「……香澄ちゃん、いい子だね」
「ありがとう。本当にいい子だと思う」
香澄の事を話題に出され、佑は自然と微笑んだ。
「そういうふうに優しく笑えるようになったんだね。今まで愛想笑いしか見なかったから。勿論、この集まりでは別だけど」
「愛想笑いとは酷いな。努めて好意的に笑ってたつもりだけど」
「その〝努めて〟がくせ者なんだって」
「そうか」
佑は突っ込みを入れる友人の言葉に笑う。「
少しの沈黙のあと、透子は潤んだ目で佑を見つめてきた。
「学生時代〝彼女役〟の事、どう思ってた?」
「え? どうって……。ギブアンドテイクはしてたけど、もしかして嫌だったか? 陰で何かされてたか?」
ファンを自称する女子集団が、陰で問題を起こしていたのは知っている。
業を煮やした佑は、一度だけ公衆の面前で彼女たちを拒絶した事があった。
それ以降〝協定〟ができて、表向き平和な学校生活が送れていたが、バレンタインや誕生日など特別な日には、全員目の色を変えて挑んでくる。
『もしかしたら付き合えるかもしれない』と、一縷の望みを託して告白イベントが発生するのだ。
真澄たちからは『モテ期』と冷やかされたが、誰とも付き合う気のなかった佑には、面倒な事この上ない時期だった。
悩んでいたら、透子が『条件ありで女避けの役をやってあげようか?』と持ちかけてきたのだ。
『側に女子がいたら、付き合ってると思って諦めるかもしれないでしょ?』
そう言われ、この上なく困っていた佑は差し伸べられた透子の手を取った。
透子は学年の中でもトップクラスの美人で、彼女が佑と共に行動していると『やっぱり付き合ってたんだ』と諦める女子が続出した。
透子は決して佑に本気の恋愛を求めず、付き合っている〝ふり〟を続けてくれた。
その対価として、佑は彼女に勉強を教え、たまに甘い物をご馳走していた。
なので透子には救われていたのだ。
同時に『陰で彼女が嫌な思いをしていなければいいが……』と不安にもなっていた。
だから当時の事を言われ、本当は嫌だったとか、陰でいじめられていたと言われるのかと思ったのだ。
佑が不安げな表情になったので、透子は明るく笑う。
「嫌だったなんてとんでもない。うーん、こう言ったら裏切りになるかもだけど……。……時候って事にしておこうか。……私、御劔くんの事ずっと好きだったんだ」
透子が普通にサラリと言ったので、佑ははじめ自然に笑って何かを言おうとした。
だが笑おうとして口角を上げかけ、表情を固めてしまう。
佑の表情を見て、透子は切なげに微笑み謝った。
「……ごめん。そういう顔をさせるつもりじゃなかったの。……困らせてごめん」
透子は気まずそうに言ったあと、苦く笑って視線を落とす。
返す言葉を思いつかない佑は、手持ち無沙汰にロックグラスに唇をつけた。
(こういう時、飲み物や煙草って口が塞がるから便利だな)
そう思いながら、佑は透子に何と答えるべきなのか考えた。
だが佑が何か言うより先に、透子が続きを口にした。
「初めて見た時から好きだった。同じクラスになって仲良くなれて、本当に嬉しかった。でも御劔くんは恋愛に興味がなさそうだったから、周りの女の子と〝同じ〟になったらいけないって思った。……そうやって我慢していたら、いつか自分にもチャンス訪れるんじゃ……と機会を窺っていたんだ。でも御劔くんは『誰とも付き合う気はない』って言った。それを聞いて、ガッカリしたけど安心した。『私以外の誰かが彼と付き合う事は、きっとないんだ』って」
佑は透子をチラッと見て様子を伺うが、彼女は〝今〟の佑と付き合う事を望んではいなかった。
きっと封じたままだった想いを、先ほども言った通り〝時候〟だと思って伝えておきたかったのだろう。
(なら透子の言葉をきちんと聞こう。困ったからって、〝彼女役〟なんて失礼な役目を押しつけたのは俺だ。透子が俺を好きだったなら、とても残酷な事をした。なら恨み言でも何でも、聞く義務がある)
佑はそう自分に言い聞かせた。
「だから私は御劔くんの側にいられるなら、友達でもいいから〝特別〟になりたかった。告白して〝その他大勢の女子〟になるより、自分の想いを犠牲にしてでも近くにいたかったの」
切なく笑った透子は、カクテルグラスに残った酒を回す。
佑はそんな事を思いつつ、ウィスキーを口に含む。
「御劔くん、こういう場所にいると、やっぱりさまになるね」
「普通に店で酒を飲んでるだけだよ」
「そうだけど」
透子はピンク色のカクテルを傾け、少し目を伏せて飲む。
「……香澄ちゃん、いい子だね」
「ありがとう。本当にいい子だと思う」
香澄の事を話題に出され、佑は自然と微笑んだ。
「そういうふうに優しく笑えるようになったんだね。今まで愛想笑いしか見なかったから。勿論、この集まりでは別だけど」
「愛想笑いとは酷いな。努めて好意的に笑ってたつもりだけど」
「その〝努めて〟がくせ者なんだって」
「そうか」
佑は突っ込みを入れる友人の言葉に笑う。「
少しの沈黙のあと、透子は潤んだ目で佑を見つめてきた。
「学生時代〝彼女役〟の事、どう思ってた?」
「え? どうって……。ギブアンドテイクはしてたけど、もしかして嫌だったか? 陰で何かされてたか?」
ファンを自称する女子集団が、陰で問題を起こしていたのは知っている。
業を煮やした佑は、一度だけ公衆の面前で彼女たちを拒絶した事があった。
それ以降〝協定〟ができて、表向き平和な学校生活が送れていたが、バレンタインや誕生日など特別な日には、全員目の色を変えて挑んでくる。
『もしかしたら付き合えるかもしれない』と、一縷の望みを託して告白イベントが発生するのだ。
真澄たちからは『モテ期』と冷やかされたが、誰とも付き合う気のなかった佑には、面倒な事この上ない時期だった。
悩んでいたら、透子が『条件ありで女避けの役をやってあげようか?』と持ちかけてきたのだ。
『側に女子がいたら、付き合ってると思って諦めるかもしれないでしょ?』
そう言われ、この上なく困っていた佑は差し伸べられた透子の手を取った。
透子は学年の中でもトップクラスの美人で、彼女が佑と共に行動していると『やっぱり付き合ってたんだ』と諦める女子が続出した。
透子は決して佑に本気の恋愛を求めず、付き合っている〝ふり〟を続けてくれた。
その対価として、佑は彼女に勉強を教え、たまに甘い物をご馳走していた。
なので透子には救われていたのだ。
同時に『陰で彼女が嫌な思いをしていなければいいが……』と不安にもなっていた。
だから当時の事を言われ、本当は嫌だったとか、陰でいじめられていたと言われるのかと思ったのだ。
佑が不安げな表情になったので、透子は明るく笑う。
「嫌だったなんてとんでもない。うーん、こう言ったら裏切りになるかもだけど……。……時候って事にしておこうか。……私、御劔くんの事ずっと好きだったんだ」
透子が普通にサラリと言ったので、佑ははじめ自然に笑って何かを言おうとした。
だが笑おうとして口角を上げかけ、表情を固めてしまう。
佑の表情を見て、透子は切なげに微笑み謝った。
「……ごめん。そういう顔をさせるつもりじゃなかったの。……困らせてごめん」
透子は気まずそうに言ったあと、苦く笑って視線を落とす。
返す言葉を思いつかない佑は、手持ち無沙汰にロックグラスに唇をつけた。
(こういう時、飲み物や煙草って口が塞がるから便利だな)
そう思いながら、佑は透子に何と答えるべきなのか考えた。
だが佑が何か言うより先に、透子が続きを口にした。
「初めて見た時から好きだった。同じクラスになって仲良くなれて、本当に嬉しかった。でも御劔くんは恋愛に興味がなさそうだったから、周りの女の子と〝同じ〟になったらいけないって思った。……そうやって我慢していたら、いつか自分にもチャンス訪れるんじゃ……と機会を窺っていたんだ。でも御劔くんは『誰とも付き合う気はない』って言った。それを聞いて、ガッカリしたけど安心した。『私以外の誰かが彼と付き合う事は、きっとないんだ』って」
佑は透子をチラッと見て様子を伺うが、彼女は〝今〟の佑と付き合う事を望んではいなかった。
きっと封じたままだった想いを、先ほども言った通り〝時候〟だと思って伝えておきたかったのだろう。
(なら透子の言葉をきちんと聞こう。困ったからって、〝彼女役〟なんて失礼な役目を押しつけたのは俺だ。透子が俺を好きだったなら、とても残酷な事をした。なら恨み言でも何でも、聞く義務がある)
佑はそう自分に言い聞かせた。
「だから私は御劔くんの側にいられるなら、友達でもいいから〝特別〟になりたかった。告白して〝その他大勢の女子〟になるより、自分の想いを犠牲にしてでも近くにいたかったの」
切なく笑った透子は、カクテルグラスに残った酒を回す。
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