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第二十部・同窓会 編

美智瑠の事

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「あいつの母さんってかなり気が強いだろ。自分の意見を堂々と言って、男並みに強いとか……うーん、こういう言い方って物議を醸すのかな。……とりあえず、香澄ちゃんもよく分かってると思うけど、御劔の母さんすげー強いんだよ」

「そうですね。私も最初は驚きました。でも今は、息子思いのいいお母さんだと思っています」

 香澄は美しいアンネを思い出し、深く頷く。

「美智瑠ちゃんは合わなかったんだろうなー。香澄ちゃんに実際会ってみて感じたけど、うーん……悪く思わないでほしいんだけど、香澄ちゃんってプライドそんなに高くないだろ?」

「えっ? プ、プライド? ……どうでしょう。……えっと……」

 ささやかなプライドはあるつもりだし、仕事に関しては誇りを持って取り組んでいる。

 佑の隣に立つ女性として、常に良くありたいという思いも強い。

 けれど仕事や佑のため以外のプライド……と考えると、高いのか低いのかよく分からない。

「悪いけど、そうやって迷うっていう事は、そう高くないんじゃないかな。美智瑠ちゃんは、御劔の母さんに一般家庭の生まれかって尋ねられて、凄く傷ついたって言ってた」

「はぁ……。いえ、でもほとんどの人は一般家庭の生まれですしね? 社長令嬢ならアンネさんも喜ぶかもですが、一般人って言われて怒るとは……?」

 アンネにそう言われて美智瑠がどう傷ついたのか、香澄はよく理解できない。

「美智瑠ちゃん、一度御劔の母さんに呼ばれて二人で食事したらしいけど、『尋問されてるみたいだった』って言ってたな。クラウザー家の血縁になる自覚はあるのかとか、フレンチを食べている時もマナーをチェックされたり、凄い重圧だったみたいだ」

「はぁー……なるほど」

(そういえば、私もそういう事を聞かれたな……。アンネさんと食事をする事も何回かあったけど、『美味しいです!』しか言ってなかった気がする。高級レストランだしアンネさん相手に緊張はしていたけど、美味しいものは美味しく食べたかったしなぁ……)

 そこまで考え、自分の図太さに少し落ち込んでしまう。

(アンネさん……。呆れてたかもしれない……)

 今になって物凄く恥ずかしくなり、香澄は俯いて赤面した。

 そんな香澄を見て勇斗は微笑み、また前を向く。

「香澄ちゃんは大丈夫かもしれないけど、美智瑠ちゃんは細かくチェックされるのが嫌だったみたいだ。『お義母さんと気が合いそうにない』って漏らしてたな。他にも御劔がオーバーワークなのを心配してたけど、『私の言葉を聞き入れてくれない』って、随分愚痴を言ってたよ。その点については御劔に非があると思うけど」

 それは理解できるので、香澄はコクリと頷く。

「……けど、男目線で考えると、自分の会社が軌道に乗って仕事がどんどん舞い込むと、すんごい楽しくて堪らないんだよな。俺もそういう時期があって、じっくり恋人と付き合おうと思えなくて、パーッと遊んで後腐れのない付き合い方をしてた」

 勇斗の言葉を聞き、香澄は理解を示す。

「女性にもそういう時はあります。私も札幌にいた時、飲食店のエリアマネージャーの仕事が凄く楽しかったんです。彼氏は欲しかったけど、自分から合コンや街コンに行くほどではありませんでした。友達と遊ぶだけで十分だったし、趣味はお一人様映画や読書で済んじゃうから、かなり自家発電でしたね」

「だよなぁ……」

 勇斗は頷いて立ち上がった。

「ちょっと自販機まで歩こうか。俺、コーヒー飲みたくなっちゃった」

「はい」

 香澄も立ち上がり、二人でブラブラ歩き出す。

「香澄ちゃんはきっと、キャパの大きい子なんだろうね。御劔は人当たりが良さそうに見えて、一度拒絶すると本当に冷たい奴だよ。……いや、冷たいっていうのは語弊があるかな。角が立たないようにニコニコしてるけど、絶対自分のテリトリーに入れないの。すっげぇ怖いったら」

「え? い、いえ。私、本当にキャパシティはお猪口並みで」

「あはは! お猪口! いや、いいと思うよ。自分の心に関しては、過小評価しておいたほうが、いざという時に困らなくて済むと思う。俺、外資系で働いてて、仕事は競争、競争なわけ。ガツガツやり合って『大丈夫』って言ってる奴のほうが、気が付いたら潰れてたな」

「確かに……。自分の疲弊具合に気付けないのは怖いです」

「加えて、御劔も香澄ちゃんも内向的だろ?」

「えっ?」

 内向的と言われて自分に対しては頷けるものの、佑はどうだろう? と思い、香澄は首を傾げる。

「いや、悪い意味じゃないよ。内向的だから性格が内気とかじゃないんだ。疲れた時に人と会って発散して回復するのが外交的、リラックスできる所で本読んだり静かにして回復するのが内向的なんだって。俺から見て二人ともそう感じるから、多分気が合うんだろうなーって思った」

「そうなんですね」

 詳細な意味を知らなかった香澄は、「なるほど……」と頷く。

 二人は通り沿いにブラブラ歩き、信号に差し掛かっていた。
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