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第二十部・同窓会 編
二次会のバー
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佑は一人だけシラフで、変わらずワイングラスを傾けている。
香澄は甘いカクテルやサワーを数杯頼んだあと、目をショボショボさせていた。
途中で佑がウーロン茶を頼んで飲ませてくれたのだが、体が熱くてニヤつきが止まらない。
二時間経ちそうになったので、清算して二軒目に向かう事にした。
花は「夫に一次会だけって言ったから」と名残惜しそうに帰り、人数は六人になる。
二軒目は徒歩数分にあるバーだ。
同じ店の中にはフレンチレストランもあり、ラウンジバーではジャズバンドを楽しみながら酒を飲めるようになっている。
シガレットバーもあり、しっかり分煙された上でシガーを楽しめるようになっていた。
「凄い……。大人の世界」
香澄は二十八歳で十分大人なのに、そう言うものだから佑がクスクス笑った。
店内は薄暗く、バーテンダーがいるカウンターの奥は酒瓶がびっしり並んで照明を反射していた。
ソファはチェスターフィールドソファで、壁際には洋書が本棚に並んでいる。
スタンディングマイクの後ろには、グランピアノやギターやフルート、サックスにコントラバス奏者が立って演奏していた。
フレンチレストランの系列店なので、もちろん高級さが売りだ。
抜かりなく予約していたようで、六人席に案内された。
「シガーって煙草とどう違うの?」
「煙草の葉を、煙草の葉で巻いた物だよ。普通の煙草の事を、紙巻き煙草って言う人もいるだろ?」
「あっ、なるほど」
「プレミアムシガーとドライシガー、リトルシガーに分けられていて、プレミアムは管理が大変だから、こういう店で提供して愛好家が来店している感じかな」
そのあと、真澄が付け加える。
「普通の煙草は肺まで吸うけど、シガーは構造上肺まで吸い込むのは難しいから、口元で香りを楽しむ感じだよ。でもシガーのほうが圧倒的にニコチンが多いし、吸わないから大丈夫と言い切れないけど。ま、たまに嗜みとして楽しむぐらいならいいんじゃないか?」
「そうなんですね。教えてくださってありがとうございます」
お礼を言った香澄に、佑が囁いてくる。
「匂いが嫌なら、シガレットバーは行かないから」
気遣ってくれる彼を「佑さんだなぁ」と思いつつ、香澄は緩く首を横に振る。
「誰かがシガレットバーに行きたいから、このお店に来たんでしょう? お付き合いがあるなら構わないよ。毎日吸うなら話はちょっと別だけど、一回ならそんなにうるさく言いたくない」
小声で言うと彼は微笑み、ポンポンと頭を撫でてきた。
席に座ると佑がメニューを広げてきたので、香澄は飲める物があるか覗き込む。
「つまみにチョコレートを頼むか? そろそろ甘いの欲しいだろ」
佑にチョコレートと言われ、香澄の表情が緩む。
「いいの?」
「いいよ。他にもフードメニューを頼むから、皆で好きなようにつまもう」
「やったー」
まず喜んだのは透子だ。
香澄と透子はカクテルを頼んだ。
佑がワインのフルボトルを頼み、それを全員で飲む事にする。
別途ウィスキーを頼む者もいて、一軒目の「とりあえず生」とは違ったスタンスだ。
さっきの佑と香澄の会話を気にしてか、真澄が謝ってきた。
「香澄ちゃんごめんね! 俺がシガー嗜む人だから、この店は俺のリクエストなんだ」
真澄が手を合わせて謝り、香澄は「いいえ」と首を横に振る。
「こういうお店があると知らなかったので、勉強になります」
微笑んで返事をしてから、香澄は改めて店内を見回す。
「……素敵な空間」
詳しくは知らないが、アメリカの禁酒法時代を思わせる空間だと思った。
ドレスコードがある訳ではないようだが、カジュアル過ぎる格好をしている人はいない。
(ギリギリセーフかな。最初は居酒屋って聞いてたけど、このレベルのお店に来るなら、もう少し綺麗めの格好で来れば良かった)
その時、テーブルにスーツを着た男性が近付いてきた。
「御劔様、真澄様、いらっしゃいませ」
口ひげを蓄えた四十後半ほどの男性は、支配人だろうか。
「どうも、お世話になってます」
真澄は常連らしく、少し砕けた様子で挨拶をする。
香澄は甘いカクテルやサワーを数杯頼んだあと、目をショボショボさせていた。
途中で佑がウーロン茶を頼んで飲ませてくれたのだが、体が熱くてニヤつきが止まらない。
二時間経ちそうになったので、清算して二軒目に向かう事にした。
花は「夫に一次会だけって言ったから」と名残惜しそうに帰り、人数は六人になる。
二軒目は徒歩数分にあるバーだ。
同じ店の中にはフレンチレストランもあり、ラウンジバーではジャズバンドを楽しみながら酒を飲めるようになっている。
シガレットバーもあり、しっかり分煙された上でシガーを楽しめるようになっていた。
「凄い……。大人の世界」
香澄は二十八歳で十分大人なのに、そう言うものだから佑がクスクス笑った。
店内は薄暗く、バーテンダーがいるカウンターの奥は酒瓶がびっしり並んで照明を反射していた。
ソファはチェスターフィールドソファで、壁際には洋書が本棚に並んでいる。
スタンディングマイクの後ろには、グランピアノやギターやフルート、サックスにコントラバス奏者が立って演奏していた。
フレンチレストランの系列店なので、もちろん高級さが売りだ。
抜かりなく予約していたようで、六人席に案内された。
「シガーって煙草とどう違うの?」
「煙草の葉を、煙草の葉で巻いた物だよ。普通の煙草の事を、紙巻き煙草って言う人もいるだろ?」
「あっ、なるほど」
「プレミアムシガーとドライシガー、リトルシガーに分けられていて、プレミアムは管理が大変だから、こういう店で提供して愛好家が来店している感じかな」
そのあと、真澄が付け加える。
「普通の煙草は肺まで吸うけど、シガーは構造上肺まで吸い込むのは難しいから、口元で香りを楽しむ感じだよ。でもシガーのほうが圧倒的にニコチンが多いし、吸わないから大丈夫と言い切れないけど。ま、たまに嗜みとして楽しむぐらいならいいんじゃないか?」
「そうなんですね。教えてくださってありがとうございます」
お礼を言った香澄に、佑が囁いてくる。
「匂いが嫌なら、シガレットバーは行かないから」
気遣ってくれる彼を「佑さんだなぁ」と思いつつ、香澄は緩く首を横に振る。
「誰かがシガレットバーに行きたいから、このお店に来たんでしょう? お付き合いがあるなら構わないよ。毎日吸うなら話はちょっと別だけど、一回ならそんなにうるさく言いたくない」
小声で言うと彼は微笑み、ポンポンと頭を撫でてきた。
席に座ると佑がメニューを広げてきたので、香澄は飲める物があるか覗き込む。
「つまみにチョコレートを頼むか? そろそろ甘いの欲しいだろ」
佑にチョコレートと言われ、香澄の表情が緩む。
「いいの?」
「いいよ。他にもフードメニューを頼むから、皆で好きなようにつまもう」
「やったー」
まず喜んだのは透子だ。
香澄と透子はカクテルを頼んだ。
佑がワインのフルボトルを頼み、それを全員で飲む事にする。
別途ウィスキーを頼む者もいて、一軒目の「とりあえず生」とは違ったスタンスだ。
さっきの佑と香澄の会話を気にしてか、真澄が謝ってきた。
「香澄ちゃんごめんね! 俺がシガー嗜む人だから、この店は俺のリクエストなんだ」
真澄が手を合わせて謝り、香澄は「いいえ」と首を横に振る。
「こういうお店があると知らなかったので、勉強になります」
微笑んで返事をしてから、香澄は改めて店内を見回す。
「……素敵な空間」
詳しくは知らないが、アメリカの禁酒法時代を思わせる空間だと思った。
ドレスコードがある訳ではないようだが、カジュアル過ぎる格好をしている人はいない。
(ギリギリセーフかな。最初は居酒屋って聞いてたけど、このレベルのお店に来るなら、もう少し綺麗めの格好で来れば良かった)
その時、テーブルにスーツを着た男性が近付いてきた。
「御劔様、真澄様、いらっしゃいませ」
口ひげを蓄えた四十後半ほどの男性は、支配人だろうか。
「どうも、お世話になってます」
真澄は常連らしく、少し砕けた様子で挨拶をする。
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