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第二十部・同窓会 編

御劔伝説

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「ここ、チーズリゾットが看板メニューなんだって。リゾットは飯物だから、シメにするか」

 勇斗が言い、佑が「そうだな」と頷く。
 それぞれ食べたい物を注文する方式にし、佑は寒ブリの塩焼きを頼んでいた。

「香澄? 椎茸好きだろ。焼くのもアリだし、天ぷらもアリだって。どうする?」

 この店は一つの料理でも調理法が複数あり、メニューは無限大だ。

「う、うー……」

「両方食べる?」

「いいの?」

「いいよ」

 頷いて佑は店員に椎茸を両方の調理法でオーダーし、ついでに自分も銀杏を頼む。

 他の五人も口々にオーダーし、一応この辺りで……という事にしてお通しを食べる事にした。

(『月見茶屋』を思い出すなぁ)

 香澄は八谷グループを思いだし、自然と微笑みながらお通しを口にした

「ん!」

(美味しい!)

 出汁のきいた蕎麦を啜って香澄は食欲に目覚め、カッと目を見開いてから真剣に食べ始める。

「それでさっきの話だけど、こいつはまぁ学生時代にすっげぇモテた訳よ」

 勇斗が語りだし、香澄はモグモグ口を動かしながら頷く。

「その前に、香澄ちゃん、御劔くんの女関係とか聞いても嫌じゃない?」

 透子に気遣われ、香澄は「あ、はい」と頷く。

「多分大きなヤマは超えたと思うので、学生時代の事はさすがに大丈夫……だと思います」

「そっか。ならいいけど」

 透子の確認が済んだあと、勇斗がまた口を開く。

「もう母校は御劔伝説だよな。『御劔様』って呼ぶ後輩までいたね」

「そうだよなぁ。バレンタインになったらクラスの前に行列ができたよな。幸いにも下駄箱がロッカー式じゃなくてオープンだったから、表立った所にチョコを置く女子はそんなにいなかったけど」

 洸が同意し、香澄は目をまん丸にする。

「それでも少しはいたんですか?」

「まぁね。どこにも例外はいるもんだよ。御劔だって今こそこんなナリだけど、学生時代は普通の高校生だったから、上靴も割と汚かったんだけどな……」

「おい」

 佑が突っ込み、香澄は笑う。

「朝に休み時間に放課後、ひっきりなしに呼び出しがあったけど、こいつは応じなかったよなぁ。当時は『勿体ない』って思ったし『モテる奴がカッコつけてる』って思ったけど、今思うとあの人数にいちいち対応して告白されて断って……ってやってたら、そりゃあ消耗するよな、って思う」

 真澄の言葉を聞いて、香澄は目をまん丸に見開いた。

「佑さん、全部断ったの?」

「んー、一応……その、隠れ蓑の彼女役を作って、受け取らないようにしてた」

「はぁ? 何それ」

 彼女〝役〟を〝隠れ蓑〟にするという言葉が聞き捨てならず、香澄は目を剥く。

 その時、透子がばつの悪い顔をして挙手した。

「ご、ごめんね? 私、当時御劔くんに勉強教わるのを引き換えに、他の女子への抑止力のために彼女役してて……」

「あ、あー……」

 まさかの本人が目の前にいて、香澄は気まずさを覚える。

「いや、でも付き合ってないから安心して? 夏休みは御劔くん、いつも忙しそうだったし、たまに遊びに行くって言ってもこのメンツだったし」

 花が言い、香澄を励ますようにポンポンと背中を叩いてくる。

(気を遣ってくれてるのかな。いい人だな)

 香澄は面倒見の良さそうな彼女に、内心感謝した。

 すると勇斗が笑いながら言った。

「御劔は高一の半ばくらいまでは告白に応じてたけど、その辺りから吹っ切れたのかガン無視してたよな。そのうち〝御劔くん不可侵協定〟とかできて、おっかしかったよなぁ。そのくせ、誕生日とバレンタインだけは解禁になるから笑っちまう」

 真澄が言い、途方もない佑のモテ具合を思い出して笑っている。

「えぇ……。その協定を破ったら制裁とかあったんですか?」

 ドン引きした香澄が、向かいにいる佑をチラッと見ながら尋ねる。

「香澄。そういう事に興味を持つんじゃない。もっと他に話題があるだろう」

「えー? 御劔くん、隠すのは良くないんじゃないかな? 透明性が大切でしょう?」

 早くもビールでいい気分になった花が、Chief Everyの社訓をいじる。

「……神谷……」

 佑は花を睨むふりをしたあと、溜め息をついた。
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