1,282 / 1,548
第二十部・同窓会 編
避けられない話題
しおりを挟む
「秘書業と一緒にボディーガードも兼任していましたので、マイさんの事を守り通すと誓います」
「へぇ、ボディガードもしていたの! どうりで体つきがいい訳ね!」
母がキラキラとした目で、マティアスのがっしりとした肩幅や厚い胸板を見る。
「Chief Every本社という事は、東京に行くのか?」
だが父が話題を戻し、マティアスが「はい」と頷く。
「マイさんが寂しくないように、カスミさんの近くに家を構えたいと思っています」
「その気遣いは嬉しいけど、香澄ちゃんって御劔さんと一緒に暮らしているんでしょう? 御劔さんが住んでいる所って、高級住宅地に決まっているし……」
母が心配するが、やはりマティアスは淡々と言う。
「資金なら問題ありません。マイさんがのびのび暮らせる家を買う金はあります」
家の話が出て麻衣は「大きすぎる家はいいからね」とマティアスを肘でつつく。
「下世話な話だが秘書というのはそんなに儲かるのか? ローンを払えず家を手放す事があっては本末転倒だから、多少遠くても関東近郊の安めの家を買って通勤するとか、一戸建てを買うのは将来の夢にして、今は賃貸に住むとか……」
父の現実的な話を聞いて、マティアスは「失礼します」と言ってポケットからスマホを取りだした。
マティアスはスマホを操作し、顔認証で開いた銀行口座を仁志と早苗に見せた。
「…………え……?」
「ゼロが……一、二、三……」
二人とも見た事のない数字を見て目がまん丸になっている。
「これはドル口座ですが、ざっくり日本円に換算して五十億円はあります。別途、運用している証券口座や預金もあります」
「マッ、マティアスさん、何してる人!? ひ、秘書って言ったわよね!?」
母が動揺し、父も顔色を変えて表情を強張らせている。
その脇で、信司は五十億という数字を聞いてガッツポーズを取っていた。
「秘書でした。今の金額になった元金は、宝くじの一等です。趣味が金儲けだったので、投資、投棄でそれを膨らませました」
「宝くじパネェ! って、投資でそんなに儲かるの!?」
信司が食いつき、麻衣はギロリと弟を睨む。
「軍資金と銘柄を見極め、先を読む目、世界情勢を逐一チェックしてそれに伴う企業の金の動きを読む力、精神的タフさなど色々条件が揃えば」
「なるほど……! 今度色々教えて!」
「承知した」
マティアスと信司のやり取りを聞きながら、両親は溜め息をついている。
そして麻衣に「どこでこんな男を見つけたんだ」という目をしていた。
(私もびっくりしてるんだってば!)
麻衣はクワッと目を見開いて両親を見つめ返し、プルプルと首を左右に振る。
父は巨額の金を見て、二人は不釣り合いでいずれ破綻するのではと、不安を抱いたようだ。
そして非情に居心地の悪い表情になり、申し訳なさそうに言う。
「マティアスさん。うちの娘は一般人です。一か月の稼ぎはあなたの足元に及ばないでしょうし、親が言う言葉ではありませんが容姿も普通です。あなたのような大富豪が娘と結婚したいと思う理由が分かりません」
今までより丁寧な口調になったのは、金額を見てビビったのだろう。
マティアスは仁志と早苗を見て、表情を変えずに言う。
「僕はマイさんの外見に惚れた訳ではありません。彼女が働いていようがいまいが関係ありません。僕はドイツで、外見の美しい女性のもとで働いていました。元上司とは幼馴染みに似た関係にありましたが、僕はずっと彼女の下僕でした。平和に暮らしている人には想像できない事を、遊び半分や気晴らしにされました」
静かに語り出したマティアスの話を、岩本家の三人は真面目な表情で聞く。
麻衣は唇を噛む。
できるならこの話題に触れず、結婚の許可を得たいと思っていた。
だがやはり避けられないのだと察し、彼の気の済むようにさせてやりたいと覚悟した。
「僕は見ての通り、感情豊かな男ではありません。元上司に非人道的な事をされ続け、我慢するうちに感情が凍りつきました。何にも心を動かされず、女性を好きになる事もありませんでした。この年末年始に東京に行ったのは、元上司関係のしがらみから解き放たれて、友人であるタスク・ミツルギと、恩人であるカスミさんに招待されたからです。そこでマイさんと出会いました」
両親も信司も、思っていたよりもディープな話を黙って聞いてくれる。
「そこで約十日間マイさんと一緒に過ごしました。彼女は僕に人の温かさや優しさを教えてくれました。何の見返りを求めない女性が、僕のために泣いて怒ってくれて感動しました。マイさんはヒトシさんが仰る通り、普通の女性です。でも僕にとって〝普通〟はかけがえのないものです。僕はあなた達のような温かな家庭を知らないし、無償で褒め、ねぎらってくれる相手もいませんでした」
「……マティアスさんは、今まで彼女はいなかったの?」
母の問いに彼は首を横に振る。
「へぇ、ボディガードもしていたの! どうりで体つきがいい訳ね!」
母がキラキラとした目で、マティアスのがっしりとした肩幅や厚い胸板を見る。
「Chief Every本社という事は、東京に行くのか?」
だが父が話題を戻し、マティアスが「はい」と頷く。
「マイさんが寂しくないように、カスミさんの近くに家を構えたいと思っています」
「その気遣いは嬉しいけど、香澄ちゃんって御劔さんと一緒に暮らしているんでしょう? 御劔さんが住んでいる所って、高級住宅地に決まっているし……」
母が心配するが、やはりマティアスは淡々と言う。
「資金なら問題ありません。マイさんがのびのび暮らせる家を買う金はあります」
家の話が出て麻衣は「大きすぎる家はいいからね」とマティアスを肘でつつく。
「下世話な話だが秘書というのはそんなに儲かるのか? ローンを払えず家を手放す事があっては本末転倒だから、多少遠くても関東近郊の安めの家を買って通勤するとか、一戸建てを買うのは将来の夢にして、今は賃貸に住むとか……」
父の現実的な話を聞いて、マティアスは「失礼します」と言ってポケットからスマホを取りだした。
マティアスはスマホを操作し、顔認証で開いた銀行口座を仁志と早苗に見せた。
「…………え……?」
「ゼロが……一、二、三……」
二人とも見た事のない数字を見て目がまん丸になっている。
「これはドル口座ですが、ざっくり日本円に換算して五十億円はあります。別途、運用している証券口座や預金もあります」
「マッ、マティアスさん、何してる人!? ひ、秘書って言ったわよね!?」
母が動揺し、父も顔色を変えて表情を強張らせている。
その脇で、信司は五十億という数字を聞いてガッツポーズを取っていた。
「秘書でした。今の金額になった元金は、宝くじの一等です。趣味が金儲けだったので、投資、投棄でそれを膨らませました」
「宝くじパネェ! って、投資でそんなに儲かるの!?」
信司が食いつき、麻衣はギロリと弟を睨む。
「軍資金と銘柄を見極め、先を読む目、世界情勢を逐一チェックしてそれに伴う企業の金の動きを読む力、精神的タフさなど色々条件が揃えば」
「なるほど……! 今度色々教えて!」
「承知した」
マティアスと信司のやり取りを聞きながら、両親は溜め息をついている。
そして麻衣に「どこでこんな男を見つけたんだ」という目をしていた。
(私もびっくりしてるんだってば!)
麻衣はクワッと目を見開いて両親を見つめ返し、プルプルと首を左右に振る。
父は巨額の金を見て、二人は不釣り合いでいずれ破綻するのではと、不安を抱いたようだ。
そして非情に居心地の悪い表情になり、申し訳なさそうに言う。
「マティアスさん。うちの娘は一般人です。一か月の稼ぎはあなたの足元に及ばないでしょうし、親が言う言葉ではありませんが容姿も普通です。あなたのような大富豪が娘と結婚したいと思う理由が分かりません」
今までより丁寧な口調になったのは、金額を見てビビったのだろう。
マティアスは仁志と早苗を見て、表情を変えずに言う。
「僕はマイさんの外見に惚れた訳ではありません。彼女が働いていようがいまいが関係ありません。僕はドイツで、外見の美しい女性のもとで働いていました。元上司とは幼馴染みに似た関係にありましたが、僕はずっと彼女の下僕でした。平和に暮らしている人には想像できない事を、遊び半分や気晴らしにされました」
静かに語り出したマティアスの話を、岩本家の三人は真面目な表情で聞く。
麻衣は唇を噛む。
できるならこの話題に触れず、結婚の許可を得たいと思っていた。
だがやはり避けられないのだと察し、彼の気の済むようにさせてやりたいと覚悟した。
「僕は見ての通り、感情豊かな男ではありません。元上司に非人道的な事をされ続け、我慢するうちに感情が凍りつきました。何にも心を動かされず、女性を好きになる事もありませんでした。この年末年始に東京に行ったのは、元上司関係のしがらみから解き放たれて、友人であるタスク・ミツルギと、恩人であるカスミさんに招待されたからです。そこでマイさんと出会いました」
両親も信司も、思っていたよりもディープな話を黙って聞いてくれる。
「そこで約十日間マイさんと一緒に過ごしました。彼女は僕に人の温かさや優しさを教えてくれました。何の見返りを求めない女性が、僕のために泣いて怒ってくれて感動しました。マイさんはヒトシさんが仰る通り、普通の女性です。でも僕にとって〝普通〟はかけがえのないものです。僕はあなた達のような温かな家庭を知らないし、無償で褒め、ねぎらってくれる相手もいませんでした」
「……マティアスさんは、今まで彼女はいなかったの?」
母の問いに彼は首を横に振る。
13
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる