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第二十部・同窓会 編

避けられない話題

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「秘書業と一緒にボディーガードも兼任していましたので、マイさんの事を守り通すと誓います」

「へぇ、ボディガードもしていたの! どうりで体つきがいい訳ね!」

 母がキラキラとした目で、マティアスのがっしりとした肩幅や厚い胸板を見る。

「Chief Every本社という事は、東京に行くのか?」

 だが父が話題を戻し、マティアスが「はい」と頷く。

「マイさんが寂しくないように、カスミさんの近くに家を構えたいと思っています」

「その気遣いは嬉しいけど、香澄ちゃんって御劔さんと一緒に暮らしているんでしょう? 御劔さんが住んでいる所って、高級住宅地に決まっているし……」

 母が心配するが、やはりマティアスは淡々と言う。

「資金なら問題ありません。マイさんがのびのび暮らせる家を買う金はあります」

 家の話が出て麻衣は「大きすぎる家はいいからね」とマティアスを肘でつつく。

「下世話な話だが秘書というのはそんなに儲かるのか? ローンを払えず家を手放す事があっては本末転倒だから、多少遠くても関東近郊の安めの家を買って通勤するとか、一戸建てを買うのは将来の夢にして、今は賃貸に住むとか……」

 父の現実的な話を聞いて、マティアスは「失礼します」と言ってポケットからスマホを取りだした。

 マティアスはスマホを操作し、顔認証で開いた銀行口座を仁志と早苗に見せた。

「…………え……?」

「ゼロが……一、二、三……」

 二人とも見た事のない数字を見て目がまん丸になっている。

「これはドル口座ですが、ざっくり日本円に換算して五十億円はあります。別途、運用している証券口座や預金もあります」

「マッ、マティアスさん、何してる人!? ひ、秘書って言ったわよね!?」

 母が動揺し、父も顔色を変えて表情を強張らせている。

 その脇で、信司は五十億という数字を聞いてガッツポーズを取っていた。

「秘書でした。今の金額になった元金は、宝くじの一等です。趣味が金儲けだったので、投資、投棄でそれを膨らませました」

「宝くじパネェ! って、投資でそんなに儲かるの!?」

 信司が食いつき、麻衣はギロリと弟を睨む。

「軍資金と銘柄を見極め、先を読む目、世界情勢を逐一チェックしてそれに伴う企業の金の動きを読む力、精神的タフさなど色々条件が揃えば」

「なるほど……! 今度色々教えて!」

「承知した」

 マティアスと信司のやり取りを聞きながら、両親は溜め息をついている。

 そして麻衣に「どこでこんな男を見つけたんだ」という目をしていた。

(私もびっくりしてるんだってば!)

 麻衣はクワッと目を見開いて両親を見つめ返し、プルプルと首を左右に振る。

 父は巨額の金を見て、二人は不釣り合いでいずれ破綻するのではと、不安を抱いたようだ。

 そして非情に居心地の悪い表情になり、申し訳なさそうに言う。

「マティアスさん。うちの娘は一般人です。一か月の稼ぎはあなたの足元に及ばないでしょうし、親が言う言葉ではありませんが容姿も普通です。あなたのような大富豪が娘と結婚したいと思う理由が分かりません」

 今までより丁寧な口調になったのは、金額を見てビビったのだろう。

 マティアスは仁志と早苗を見て、表情を変えずに言う。

「僕はマイさんの外見に惚れた訳ではありません。彼女が働いていようがいまいが関係ありません。僕はドイツで、外見の美しい女性のもとで働いていました。元上司とは幼馴染みに似た関係にありましたが、僕はずっと彼女の下僕でした。平和に暮らしている人には想像できない事を、遊び半分や気晴らしにされました」

 静かに語り出したマティアスの話を、岩本家の三人は真面目な表情で聞く。

 麻衣は唇を噛む。

 できるならこの話題に触れず、結婚の許可を得たいと思っていた。

 だがやはり避けられないのだと察し、彼の気の済むようにさせてやりたいと覚悟した。

「僕は見ての通り、感情豊かな男ではありません。元上司に非人道的な事をされ続け、我慢するうちに感情が凍りつきました。何にも心を動かされず、女性を好きになる事もありませんでした。この年末年始に東京に行ったのは、元上司関係のしがらみから解き放たれて、友人であるタスク・ミツルギと、恩人であるカスミさんに招待されたからです。そこでマイさんと出会いました」

 両親も信司も、思っていたよりもディープな話を黙って聞いてくれる。

「そこで約十日間マイさんと一緒に過ごしました。彼女は僕に人の温かさや優しさを教えてくれました。何の見返りを求めない女性が、僕のために泣いて怒ってくれて感動しました。マイさんはヒトシさんが仰る通り、普通の女性です。でも僕にとって〝普通〟はかけがえのないものです。僕はあなた達のような温かな家庭を知らないし、無償で褒め、ねぎらってくれる相手もいませんでした」

「……マティアスさんは、今まで彼女はいなかったの?」

 母の問いに彼は首を横に振る。
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