【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十九部・マティアスと麻衣 編

抱え込む

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(じゃあ、私や佑さん、この家に出入りしている人が、すれ違いざまに盗聴器をつけられた可能性は? スリの人って気付かないように物を盗るし、訓練された人の技術を使えば可能かもしれない)

 自分に盗聴機がつけられたとして、何についているか考える。

(通勤用のバッグ、普段使いのコートが一番怪しい。出掛けた時用のバッグとコートも疑うべきかもしれないけど……。でも……)

 自分たちの周りには護衛がいて、雑踏でもみくちゃにされるのは想定できない。

 今日のように街中を歩く事はあっても、完全に一人で歩く事はなかった気がする。

(私がフリーだったのはニセコの時だけど、あの段階では考えられない)

 やはりフェルナンドと出会ったあとと思うのが自然だ。

(バルセロナで声を掛けてきたのは意図的? 佑さんがスペインに行くと知っていて事前にあのホテルに泊まっていた?)

 香澄は布団を被ったまま、思考が焼き切れそうになるほど、あらゆる可能性を考える。

(日本の協力者がいるかもしれない。佑さんの出張スケジュールは会社の人しか知らないはずだけど、松井さんや河野さんが裏切るなんてあり得ない。秘書課の人が、お酒の席で話していたのを聞かれた可能性はある?)

 人が誰かを裏切るのは、強い恨みを持っているか、メリットがある場合だと思っている。

 佑は松井を〝恩人〟と公言している。

 松井は佑を息子のように感じつつも側で支え続け、河野も前職で散々な目に遭ったあと、成長有望なChief Everyならと思って入社した。

 幾ら香澄が迷惑を掛け、彼の前でバカップルぶりを発揮したとしても、河野の性格を考えると、彼がそれで嫌気を差して裏切るとは考えられない。

 だから、二人が佑に強い恨みを抱く可能性は低い。

(あの二人は除外。社内の人も多分関係ない。……バルセロナで同じホテルになったのは、事前に知っていたと考えられるし、ラグジュアリーホテルに出入りする人だから、たまたまだったかもしれない)

 そこまで考えて、いや……と小さく首を振る。

(起こってしまった事を考えても仕方がない。今後フェルナンドさんは、私や佑さんにどんな要求をしてくるか分からない。最悪な結果にならないように、今できる事を考えないと)

 考えながら、香澄は知らずと歯を食いしばっていた。

 強いストレスが掛かると、食いしばりの癖が出てしまう。

 佑もイギリスの一件で奥歯を割ったが、香澄は知らない。

 佑も香澄も、お互いを守ろうとして、一人で抱え込もうとしている。

(こんなんじゃ駄目だ……。何でも佑さんに相談するって決めたのに)

 一人で悩めば、ニセコに行く前と同じになってしまう。

(でも、どこから見張られているか分からない。誰かの命がかかっているなら、ミスがあっちゃいけない)

 昼間、佐野の額に赤い光があったのを見た時、腹の底が酷く冷えた。

 胸の奥に黒くて重たい石を投げ込まれたようで、「ヒヤッとした」という可愛い言葉では済まない感覚に陥った。

 自分の一挙手一投足で、誰かの命が奪われるかもしれない。

 その〝誰か〟は護衛かもしれないし、親友かもしれないし、佑かもしれない。

 考えるだけで気がおかしくなりそうで、一生このまま布団から出ずに過ごしたい。

 どこかに盗聴器とカメラがあるなら、安易に佑に相談する事もできない。

 彼は聡い人だからこそ、何か行動を起こした瞬間、誰かが頭を撃ち抜かれるかもしれない。

 そうなったらすべて自分の責任だ。

 自分の言葉、動作、目の動き、振る舞い、感情の表し方……。

 その一つ一つが見張られ、フェルナンドに「助けを求めている」と判断されたらアウトになる。

(……気持ち悪い……)

 また吐きそうになり、香澄は布団から顔を出して新鮮な空気を吸った。

 もっと新鮮な空気が吸いたいと思い、起き上がって階下に向かった。

「貴恵さん、少し外の空気を吸ってきます。庭にいるので心配しないでください」

「分かりました」

 斎藤に声を掛け、香澄は玄関クローゼットから適当なジャンパーを選んで袖を通し、外に出る。

 まだ一月なので、当然寒い。

「さむ……」

 フェルナンドに水を差されるのは嫌なので、スマホは持ってこなかった。

 今は水を抜かれているプール前のベンチに座ると、溜め息をついて空を見上げた。

(星……札幌みたいには見られないのかな)

 札幌ならオリオン座や、季節を問わず北斗七星に北極星、カシオペア座も分かるはずなのに、東京はあまり星が分からない。

「たすくさん……」

 香澄はくちびるだけで彼の名前を呼び、彼の笑顔や声、優しく触れる手の感触を思い出し、微笑んだ。

 そしてほんの少し、目の端に涙を滲ませる。
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