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第十九部・マティアスと麻衣 編
じゃんけんとコイントス
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「いや、ドイツでも井戸ルールはアリかナシか選べるんだ。井戸のルールは、石とハサミは井戸に落ちるから井戸の勝ちだが、紙は井戸の上を防げるから井戸の負けだ」
「えぇ……? その井戸ってどういう手するの?」
困惑した麻衣が尋ねると、マティアスは〝井戸〟の手つきをしてみせた。
親指と人差し指でリングを作って、片手を軽く握る形だ。
「へぇぇ……。そんなルールあるんだ……」
「そうか。日本にはないのか。俺は一生懸命じゃんけんを覚えたんだが」
「えっ? じゃんけんってわざわざ覚えるもん?」
「ドイツで何かを決める時はコインの裏表が多い。じゃんけんは、じゃんけんという遊びをする時しかやらない。日本で決め事をする時はじゃんけんが主流だというから、アロクラに教えてもらった。……覚えるまでよく馬鹿にされたが」
「ぶふっ」
マティアスが双子に「お前バカだなー」と言われている様子を思い浮かべ、麻衣は小さく噴き出した。
「しかもマティアスさん、パーの手が変だよね。こうじゃない?」
麻衣はそう言って〝パー〟の手をしてみる。
指と指の間を開いて手全体を広げるのだが、マティアスは四本の指を閉じている。
「ドイツ式のパーってそうなの?」
「ああ」
「ふぅーん」
麻衣は自分でも同じ手つきをしてみて、「慣れないな」と笑う。
「じゃあ、井戸なしでじゃんけんしようか。何ならコインでもいいんだけど」
「コインでもいいか?」
するとマティアスはパッと表情を明るくする。
(分かりやすいな……。コインのほうが嬉しいんだ)
「いいよ」
頷いてバッグを探ろうとしたが、マティアスがポケットに手を入れて小銭入れを出したほうが早かった。
「本当はまだじゃんけんが苦手なんだ」
「んふふ、分かった」
麻衣の目の前でマティアスはコインをピンッと弾き、割と高い場所まで飛んだそれを手の甲に載せると同時に、もう片方の手で蓋をした。
「表か裏か」
「じゃあ、表だったら今日は私ルールね」
「分かった。じゃあ俺は裏だ」
二人でどちらかを決めたあと、マティアスが蓋をしていた手をどける。
「裏だ。今日は俺のルールだな」
「あはは、外れちゃった」
マティアスがコインをしまったあと、また歩きだす。
「コイントスするの慣れてるんだね。格好いい」
「そうか? こんな事でマイに格好いいと言ってもらえるなら嬉しい」
「私だったらそんなふうに投げられないし、受けられないし、地面に転がして無くして終わりだな」
「慣れたら簡単だ。教えようか?」
「んーん、いいよ。そんなにしないもん。コイントスする時は、マティアスさんに任せるよ」
「そうか」
創成川近くから西に歩き、夕食をどうするか決めなくてはと考え始めた時、マティアスが提案した。
「どこかで食べないか? マイは疲れているだろうから、仕事始めを労りたい」
「ありがと。じゃあそうしよっか」
ルールを決めたあとならすんなり受け入れられるので、麻衣は快諾した。
「マイは何が食べたい?」
「んー……、肉っ」
「分かった。焼き肉? しゃぶしゃぶ、すき焼き、ジンギスカン、ステーキ……」
「どうせならステーキ」
「よし。もりもり食べよう。行きたい店はあるか?」
「『ビーフショック』がいい。あそこ、ガッツリ食べられる割に安いから」
「そうしよう」
行く先が決まり、間もなく二人は大通駅から徒歩一分のステーキ店に入った。
店内は肉が焼ける匂いと少しの煙たさがあり、ステーキ店に来たという感じがする。
「よーし、食べるぞ」
「マイは何肉にする? 俺は和牛が好きだから和牛にする」
「私は王道のビーフショックステーキで。350グラムね。中ライスとコーンスープ」
席に座ってそれぞれ注文する物が決まり、ホールスタッフにオーダーした。
「えぇ……? その井戸ってどういう手するの?」
困惑した麻衣が尋ねると、マティアスは〝井戸〟の手つきをしてみせた。
親指と人差し指でリングを作って、片手を軽く握る形だ。
「へぇぇ……。そんなルールあるんだ……」
「そうか。日本にはないのか。俺は一生懸命じゃんけんを覚えたんだが」
「えっ? じゃんけんってわざわざ覚えるもん?」
「ドイツで何かを決める時はコインの裏表が多い。じゃんけんは、じゃんけんという遊びをする時しかやらない。日本で決め事をする時はじゃんけんが主流だというから、アロクラに教えてもらった。……覚えるまでよく馬鹿にされたが」
「ぶふっ」
マティアスが双子に「お前バカだなー」と言われている様子を思い浮かべ、麻衣は小さく噴き出した。
「しかもマティアスさん、パーの手が変だよね。こうじゃない?」
麻衣はそう言って〝パー〟の手をしてみる。
指と指の間を開いて手全体を広げるのだが、マティアスは四本の指を閉じている。
「ドイツ式のパーってそうなの?」
「ああ」
「ふぅーん」
麻衣は自分でも同じ手つきをしてみて、「慣れないな」と笑う。
「じゃあ、井戸なしでじゃんけんしようか。何ならコインでもいいんだけど」
「コインでもいいか?」
するとマティアスはパッと表情を明るくする。
(分かりやすいな……。コインのほうが嬉しいんだ)
「いいよ」
頷いてバッグを探ろうとしたが、マティアスがポケットに手を入れて小銭入れを出したほうが早かった。
「本当はまだじゃんけんが苦手なんだ」
「んふふ、分かった」
麻衣の目の前でマティアスはコインをピンッと弾き、割と高い場所まで飛んだそれを手の甲に載せると同時に、もう片方の手で蓋をした。
「表か裏か」
「じゃあ、表だったら今日は私ルールね」
「分かった。じゃあ俺は裏だ」
二人でどちらかを決めたあと、マティアスが蓋をしていた手をどける。
「裏だ。今日は俺のルールだな」
「あはは、外れちゃった」
マティアスがコインをしまったあと、また歩きだす。
「コイントスするの慣れてるんだね。格好いい」
「そうか? こんな事でマイに格好いいと言ってもらえるなら嬉しい」
「私だったらそんなふうに投げられないし、受けられないし、地面に転がして無くして終わりだな」
「慣れたら簡単だ。教えようか?」
「んーん、いいよ。そんなにしないもん。コイントスする時は、マティアスさんに任せるよ」
「そうか」
創成川近くから西に歩き、夕食をどうするか決めなくてはと考え始めた時、マティアスが提案した。
「どこかで食べないか? マイは疲れているだろうから、仕事始めを労りたい」
「ありがと。じゃあそうしよっか」
ルールを決めたあとならすんなり受け入れられるので、麻衣は快諾した。
「マイは何が食べたい?」
「んー……、肉っ」
「分かった。焼き肉? しゃぶしゃぶ、すき焼き、ジンギスカン、ステーキ……」
「どうせならステーキ」
「よし。もりもり食べよう。行きたい店はあるか?」
「『ビーフショック』がいい。あそこ、ガッツリ食べられる割に安いから」
「そうしよう」
行く先が決まり、間もなく二人は大通駅から徒歩一分のステーキ店に入った。
店内は肉が焼ける匂いと少しの煙たさがあり、ステーキ店に来たという感じがする。
「よーし、食べるぞ」
「マイは何肉にする? 俺は和牛が好きだから和牛にする」
「私は王道のビーフショックステーキで。350グラムね。中ライスとコーンスープ」
席に座ってそれぞれ注文する物が決まり、ホールスタッフにオーダーした。
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