1,274 / 1,544
第十九部・マティアスと麻衣 編
マイ、勝負だ
しおりを挟む
(親友を売る訳ないでしょ。それになんでこの流れで、私が笠島さんと飲みに行くって思えるのかな。お洒落なバルはいいとして、太郎系マシマシを食べてるとか、決めつけるのやめてほしい)
麻衣は唐揚げを食べつつ、心の中で文句を言う。
「ごめんね。私これから当分忙しくなるから、飲みは行けないと思う」
そう言って麻衣は弁当に集中し、笠島が何を言っても適当にあしらって相手をしなかった。
**
仕事が終わってビルから出た瞬間、変な声が出た。
「っへぁっ!?」
いつからいたのか、会社の前にマティアスが立っていたのだ。
「どっ、どうっ、どうして!?」
慌ててマティアスに駆け寄ると、「お疲れ様」と抱き締めてくる。
「ちょっ……! 会社の前だから!!」
ぐいーっとマティアスを押し返して慌てて振り向くと、社員たちが立ち止まって目をまん丸にしていた。
(うっわぁあああぁああ…………)
麻衣は思わず夜空を仰いでから、冷静になってマティアスから一歩離れる。
「いい? ここは日本だから、過度なスキンシップは禁止」
「……寂しい。俺はマイに触れたい」
「うう……。家に帰ったあとならいいから」
「承知した」
「もー……。何か緊急の用事があった? 足りない物でもあった?」
ひとまず地下鉄駅のあるほうに歩き出すと、マティアスが手を繋いできた。
「いや、マイに会いたかった」
「うぐぅ……」
照れくさいのを我慢すると、変な呻き声が漏れた。
「夕ご飯どうする? 何か食べたい物ある?」
「マイは? 疲れていないか? 札幌グルメを教えてくれるというのもアリだ」
「あはは。それもいいけど、あんまり外食ばっかりすると生活きつくなるから」
「いや、俺が出すが」
「ううーん……」
申し出はありがたいが考えものだ。
外食できるのは嬉しいし、疲れて帰って自炊せずに済むのは楽だ。
それに外食は美味しいし、プロのご飯が食べられるのが嬉しい。
だが人間は弱いので〝楽〟を覚えると、どんどん堕落してしまう。
マティアスは金持ちなので、毎日のように外食をしても財布にダメージはないのだろう。
それでも彼に頼りっきりなのは、何か違う気がした。
「……これから先、こうやって甘やかされると、どんどんだらしなくなる気がして怖いな」
「どうしてだ? マイはだらしなくない」
「うーん、ありがとう。でもマティアスさんのお財布に頼っちゃう自分が嫌なの」
会社は大通り近くにあり、麻衣とマティアスは地下鉄大通駅に向かって歩いていた。
「じゃあ、一日ごとに希望を聞くのはどうだ?」
「ん?」
彼が提案した意味が分からず、麻衣は目を瞬かせる。
「一日ごとにお互いの希望を夕食に反映させる。マイが主導権を握る日は、自炊でも外食でも構わない。俺が主導権を握る日は、その日の気分で決める」
「ん……うん。それなら公平だね。採用」
「じゃあ、今日からそのルールを適用しよう。マイ、勝負だ」
急に「勝負だ」と言って立ち止まったマティアスは、麻衣に向かって手を軽く弾ませ、じゃんけんのジェスチャーを取る。
「わっ、と」
麻衣も手を構え、「ドイツでも『最初はグー』からでいくのかな?」と内心首を捻る。
「マイ、井戸を入れるか?」
「は? いど? いどってなに?」
「地面に穴を掘ると水が出てくる……」
「あぁ! 井戸! え? で、なんで井戸?」
頭の中で有名な邦画ホラーが思い浮かんだが、それは置いておく。
「えっ? 井戸なしか?」
「えっ?」
「え?」
二人して顔を見合わせて固まり、お互い手は中途半端に振りかざしたままだ。
しばらくして麻衣は「あ」と、なんとなく察した。
「えーっと、多分その〝井戸〟ってドイツのルールだと思うけど、説明を求む」
麻衣は両手を揃えてマティアスに「どうぞ」とジェスチャーする。
すると彼は不可解そうな顔で説明してくれた。
麻衣は唐揚げを食べつつ、心の中で文句を言う。
「ごめんね。私これから当分忙しくなるから、飲みは行けないと思う」
そう言って麻衣は弁当に集中し、笠島が何を言っても適当にあしらって相手をしなかった。
**
仕事が終わってビルから出た瞬間、変な声が出た。
「っへぁっ!?」
いつからいたのか、会社の前にマティアスが立っていたのだ。
「どっ、どうっ、どうして!?」
慌ててマティアスに駆け寄ると、「お疲れ様」と抱き締めてくる。
「ちょっ……! 会社の前だから!!」
ぐいーっとマティアスを押し返して慌てて振り向くと、社員たちが立ち止まって目をまん丸にしていた。
(うっわぁあああぁああ…………)
麻衣は思わず夜空を仰いでから、冷静になってマティアスから一歩離れる。
「いい? ここは日本だから、過度なスキンシップは禁止」
「……寂しい。俺はマイに触れたい」
「うう……。家に帰ったあとならいいから」
「承知した」
「もー……。何か緊急の用事があった? 足りない物でもあった?」
ひとまず地下鉄駅のあるほうに歩き出すと、マティアスが手を繋いできた。
「いや、マイに会いたかった」
「うぐぅ……」
照れくさいのを我慢すると、変な呻き声が漏れた。
「夕ご飯どうする? 何か食べたい物ある?」
「マイは? 疲れていないか? 札幌グルメを教えてくれるというのもアリだ」
「あはは。それもいいけど、あんまり外食ばっかりすると生活きつくなるから」
「いや、俺が出すが」
「ううーん……」
申し出はありがたいが考えものだ。
外食できるのは嬉しいし、疲れて帰って自炊せずに済むのは楽だ。
それに外食は美味しいし、プロのご飯が食べられるのが嬉しい。
だが人間は弱いので〝楽〟を覚えると、どんどん堕落してしまう。
マティアスは金持ちなので、毎日のように外食をしても財布にダメージはないのだろう。
それでも彼に頼りっきりなのは、何か違う気がした。
「……これから先、こうやって甘やかされると、どんどんだらしなくなる気がして怖いな」
「どうしてだ? マイはだらしなくない」
「うーん、ありがとう。でもマティアスさんのお財布に頼っちゃう自分が嫌なの」
会社は大通り近くにあり、麻衣とマティアスは地下鉄大通駅に向かって歩いていた。
「じゃあ、一日ごとに希望を聞くのはどうだ?」
「ん?」
彼が提案した意味が分からず、麻衣は目を瞬かせる。
「一日ごとにお互いの希望を夕食に反映させる。マイが主導権を握る日は、自炊でも外食でも構わない。俺が主導権を握る日は、その日の気分で決める」
「ん……うん。それなら公平だね。採用」
「じゃあ、今日からそのルールを適用しよう。マイ、勝負だ」
急に「勝負だ」と言って立ち止まったマティアスは、麻衣に向かって手を軽く弾ませ、じゃんけんのジェスチャーを取る。
「わっ、と」
麻衣も手を構え、「ドイツでも『最初はグー』からでいくのかな?」と内心首を捻る。
「マイ、井戸を入れるか?」
「は? いど? いどってなに?」
「地面に穴を掘ると水が出てくる……」
「あぁ! 井戸! え? で、なんで井戸?」
頭の中で有名な邦画ホラーが思い浮かんだが、それは置いておく。
「えっ? 井戸なしか?」
「えっ?」
「え?」
二人して顔を見合わせて固まり、お互い手は中途半端に振りかざしたままだ。
しばらくして麻衣は「あ」と、なんとなく察した。
「えーっと、多分その〝井戸〟ってドイツのルールだと思うけど、説明を求む」
麻衣は両手を揃えてマティアスに「どうぞ」とジェスチャーする。
すると彼は不可解そうな顔で説明してくれた。
13
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる