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第十九部・マティアスと麻衣 編
どうして御劔佑と一緒にいるんです?
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昼休みになって休憩室で弁当を広げると、あまり快く思っていない女性社員の笠島が話し掛けてきた。
「私、年末年始にバリ島に行ってきたんです。あっちにクッキー置きましたので、ご自由にどうぞ~」
「ありがとう」
朝、目立つ所に、シーサーのような絵が描かれたクッキーが置かれてあるのを見た。
その前に社員たちが集まって「お土産だって」と言い、麻衣も一枚もらったのを、笠島も見ていたはずだ。
(私がもらったの、見てたでしょ。お礼も言ったのに何で話しかけてくるの。めんど……)
「どうして」と疑問に思うが、尋ねなくても分かっている。自慢したいだけだ。
笠島は麻衣には彼氏がおらず、一緒に旅行に行く相手もいないと思っている。
なので長期休みがあると、どこかに行った〝証〟をひっさげて、必ず麻衣にマウントをとってくるのだ。
「日焼けしたくないのに、日焼けしちゃったんです~。彼は色白のほうが好きって言ってくれてるのにぃ~。岩本さんは元から色白だからいいですよね。お餅みたい」
〝お餅〟という単語の裏で、「デブ」と言われているのは分かっている。
笠島は麻衣の一年後輩で、かれこれ六年近くの付き合いだ。
我ながらよくこの女の嫌みに耐えてきたと思うが、こういう手合いは無視するに限る。
へたにやり返したら騒ぎ立て、こちらが悪者にされかねない。
麻衣は信司が作ってくれた料理の残りを詰めたお弁当を食べ、気のない返事をする。
「どうも。大変だね」
「岩本さんはどこに行きました? 家で読書とかしてました? やっぱり初詣に北海道神宮行っちゃいます?」
笠島はバリ島に行った自分と麻衣を比較し、楽しそうに笑う。
(ああ、くそ。腹立つな。御劔さんの家に行ったって言ってやりたいけど……)
だが言っていいのか分からない。
恐らく佑は構わないと言うかもしれない。
だが言えば〝友達の彼氏の自慢する女〟になりそうで嫌だ。
確かに御劔佑という存在は凄いし、彼と付き合っている香澄も凄い。
けれど自分が佑の友達になれたのかは分からないし、他人の褌で相撲を取るような真似をしたくない。
だが腹が立つのは確かなので、少しだけ自慢する事にした。
「私は東京に行ったよ。うなぎとか、ザ・エリュシオン東京でアフターヌーンティーとかレストランで鉄板ステーキとか、美味しかった。ドイツ人のイケメンとも友達になれて、なかなか有意義だったと思う」
思いも寄らない反撃があり、笠島は表情を固まらせる。
「へ、へぇ……。良かったですね。まぁ、外国人なんて言ったら、皆美形に見えますよね。っていうかそれ、初夢じゃないです?」
現実ではないと言われ、さすがに腹が立った麻衣は、笠島をチラッと見てからスマホをだした。
「結構イケメンだと思うよ。見る?」
そしてアロクラ、マティアスと四人で写した写真を見せる。
「っすご……っ」
笠島は、圧倒的な美貌を誇る双子と、誠実そうな正統派ドイツイケメンのマティアスを見て顔色を変える。
「ちょっと見せてください」
彼女は麻衣からスマホを奪い、穴が開くほど写真を見てから、やにわに他の写真も見ようとスワイプしだした。
「ちょっ……」
普通なら、スマホの写真を見せられても勝手にスワイプしない
笠島の異常な行動に慌てた麻衣は、すぐにスマホを取り返そうとした。
……が、少し遅かった。
「えっ……!? 御劔佑!?」
佑と香澄、麻衣の写真が表示され、東京の景色やラグジュアリーなホテル、観光した場所、御劔邸の中、佑の私服姿や、佑が香澄と笑ってる写真が次々にめくられていく。
「いい加減返して! 他の写真まで見ていいなんて言ってないよ。常識知らずだから、こういうのやめたほうがいいよ」
麻衣は笠島の手からスマホを取り上げ、自分の席に座る。
「なっ……なんで? 岩本さん、どうして御劔佑と一緒にいるんです?」
笠島の声の大きさに、休憩所にいる他の人までがこちらに注目し始めた。
(はぁーっ、めんどくさ!)
対抗してやろうと思って、軽はずみな行動を取ってしまったのが原因だ。
麻衣は深く後悔しながら、渋々と説明する。
「札幌出身の親友が、御劔さんの婚約者なの」
「えぇぇ……?」
女性社員は驚いたあとに羨ましそうな顔をし、おもねる表情になった。
(わっ、この表情の変化。あからさまだなぁ)
麻衣の嫌そうな表情にも構わず、笠島は猫撫で声で話し掛けてきた。
「今度その親友さん、紹介してくれません? っていうか、岩本さん今度一緒に飲みにいきましょうよ~! 私、お洒落なバル知ってるんです。っていうか岩本さんだったらシメのラーメンとか好きです? もしかして太郎系ラーメンとかガッツリマシマシで食べます? ご馳走しますよ? 夜パフェもしましょうか!」
一人で盛り上がる笠島を脇に、麻衣は溜め息をついて唐揚げを口に入れる。
「私、年末年始にバリ島に行ってきたんです。あっちにクッキー置きましたので、ご自由にどうぞ~」
「ありがとう」
朝、目立つ所に、シーサーのような絵が描かれたクッキーが置かれてあるのを見た。
その前に社員たちが集まって「お土産だって」と言い、麻衣も一枚もらったのを、笠島も見ていたはずだ。
(私がもらったの、見てたでしょ。お礼も言ったのに何で話しかけてくるの。めんど……)
「どうして」と疑問に思うが、尋ねなくても分かっている。自慢したいだけだ。
笠島は麻衣には彼氏がおらず、一緒に旅行に行く相手もいないと思っている。
なので長期休みがあると、どこかに行った〝証〟をひっさげて、必ず麻衣にマウントをとってくるのだ。
「日焼けしたくないのに、日焼けしちゃったんです~。彼は色白のほうが好きって言ってくれてるのにぃ~。岩本さんは元から色白だからいいですよね。お餅みたい」
〝お餅〟という単語の裏で、「デブ」と言われているのは分かっている。
笠島は麻衣の一年後輩で、かれこれ六年近くの付き合いだ。
我ながらよくこの女の嫌みに耐えてきたと思うが、こういう手合いは無視するに限る。
へたにやり返したら騒ぎ立て、こちらが悪者にされかねない。
麻衣は信司が作ってくれた料理の残りを詰めたお弁当を食べ、気のない返事をする。
「どうも。大変だね」
「岩本さんはどこに行きました? 家で読書とかしてました? やっぱり初詣に北海道神宮行っちゃいます?」
笠島はバリ島に行った自分と麻衣を比較し、楽しそうに笑う。
(ああ、くそ。腹立つな。御劔さんの家に行ったって言ってやりたいけど……)
だが言っていいのか分からない。
恐らく佑は構わないと言うかもしれない。
だが言えば〝友達の彼氏の自慢する女〟になりそうで嫌だ。
確かに御劔佑という存在は凄いし、彼と付き合っている香澄も凄い。
けれど自分が佑の友達になれたのかは分からないし、他人の褌で相撲を取るような真似をしたくない。
だが腹が立つのは確かなので、少しだけ自慢する事にした。
「私は東京に行ったよ。うなぎとか、ザ・エリュシオン東京でアフターヌーンティーとかレストランで鉄板ステーキとか、美味しかった。ドイツ人のイケメンとも友達になれて、なかなか有意義だったと思う」
思いも寄らない反撃があり、笠島は表情を固まらせる。
「へ、へぇ……。良かったですね。まぁ、外国人なんて言ったら、皆美形に見えますよね。っていうかそれ、初夢じゃないです?」
現実ではないと言われ、さすがに腹が立った麻衣は、笠島をチラッと見てからスマホをだした。
「結構イケメンだと思うよ。見る?」
そしてアロクラ、マティアスと四人で写した写真を見せる。
「っすご……っ」
笠島は、圧倒的な美貌を誇る双子と、誠実そうな正統派ドイツイケメンのマティアスを見て顔色を変える。
「ちょっと見せてください」
彼女は麻衣からスマホを奪い、穴が開くほど写真を見てから、やにわに他の写真も見ようとスワイプしだした。
「ちょっ……」
普通なら、スマホの写真を見せられても勝手にスワイプしない
笠島の異常な行動に慌てた麻衣は、すぐにスマホを取り返そうとした。
……が、少し遅かった。
「えっ……!? 御劔佑!?」
佑と香澄、麻衣の写真が表示され、東京の景色やラグジュアリーなホテル、観光した場所、御劔邸の中、佑の私服姿や、佑が香澄と笑ってる写真が次々にめくられていく。
「いい加減返して! 他の写真まで見ていいなんて言ってないよ。常識知らずだから、こういうのやめたほうがいいよ」
麻衣は笠島の手からスマホを取り上げ、自分の席に座る。
「なっ……なんで? 岩本さん、どうして御劔佑と一緒にいるんです?」
笠島の声の大きさに、休憩所にいる他の人までがこちらに注目し始めた。
(はぁーっ、めんどくさ!)
対抗してやろうと思って、軽はずみな行動を取ってしまったのが原因だ。
麻衣は深く後悔しながら、渋々と説明する。
「札幌出身の親友が、御劔さんの婚約者なの」
「えぇぇ……?」
女性社員は驚いたあとに羨ましそうな顔をし、おもねる表情になった。
(わっ、この表情の変化。あからさまだなぁ)
麻衣の嫌そうな表情にも構わず、笠島は猫撫で声で話し掛けてきた。
「今度その親友さん、紹介してくれません? っていうか、岩本さん今度一緒に飲みにいきましょうよ~! 私、お洒落なバル知ってるんです。っていうか岩本さんだったらシメのラーメンとか好きです? もしかして太郎系ラーメンとかガッツリマシマシで食べます? ご馳走しますよ? 夜パフェもしましょうか!」
一人で盛り上がる笠島を脇に、麻衣は溜め息をついて唐揚げを口に入れる。
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