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第十九部・マティアスと麻衣 編
『F』 ★
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(ん?)
テーブルの上に置いてあるスマホが震え、通知を知らせる。
スマホを開くと、知らないアカウントからメッセージが入っていた。
アカウントの名前はただ一文字、『F』。
アイコンも同様に、白地に黒い文字で装飾のついたFがあるだけだ。
メッセージは日本語らしく、「こんにちは。久しぶり……」とトークルームの中身が少し見えている。
(何だろう? 詐欺かな? URLを踏まなかったら大丈夫なんだっけ。知り合いがアカウント名を変えただけなら困るし)
トン、と画面をタップしてトークルームを開いてメッセージを読む。
『こんにちは。久しぶりだね。ずっと君の行動を見守っていたけど、良いニューイヤーを迎えられたようで何よりだ。ところで向かいに座っている男性は護衛かな? 彼の額に赤い印を見つけたら、次のメッセージを待ってほしい』
(えっ?)
ギクッとして顔を上げると、佐野の額に赤い印があった。
印は微かに動いていて、レーザーポインターの光なのだと分かる。
(これって……!)
一気に血の気を引かせた香澄は、さり気なく後ろを向いて窓の外を見た。
香澄たちは通りに面した席にいて、彼女は通りを背にして座っていた。
もしこの赤い印が狙撃のためのものなら、とんでもない事になる。
「どうしました? 赤松さん」
久住に話し掛けられ、香澄はぎこちない笑みを浮かべる。
「い、いえ……」
その時、ピコンと音が鳴って新たなメッセージが入った。
ビクッとした香澄は顔を青ざめさせ、恐る恐るスマホを見る。
『君には馴染みがないかもしれないが、彼の額にあるのは狙撃用のレーザースコープだ。君がへたな行動を取ろうとすれば、彼の命はない。周りの無関係な人にも危害が加わる事も、考えたほうがいいだろう』
あまりの恐怖に、香澄の目に涙が浮かび上がる。
だが久住と佐野に気付かれてはいけないと思い、唇を震わせながら平静を装った。
メッセージはまだ続く。
『どこに盗聴器があるとかは教えられないが、今までの事ははすべて聞かせてもらっているし、監視カメラで見ている。護衛や御劔佑氏、警察、その他団体にこの事を伝えないように。私たちはいつでも君を見張っていて、へたな行動を取れば誰かが命を散らす。親友が札幌から東京に越してくるんだってね? 彼女の平和のためにも、黙っているのが賢明だと思わないか?』
メッセージの主は、へたをすれば麻衣をも殺すと言っている。
耐えきれず、香澄は震える指で返信した。
『お手洗いに行ってもいいですか?』
『いいとも。ただ、君の連れはターゲットになったままだと、失念してはいけない』
『はい』
香澄はぎこちなくスマホのアプリを閉じ、二人に告げた。
「ちょっとお手洗いに行ってきますね。お料理がきたら先に召し上がっていてください」
「大丈夫ですか? 顔色が良くないですよ?」
久住に言われ、香澄は懸命に笑ってみせる。
「すみません、ちょっと……女性のほうの体調で」
我ながらずるいと思うが、生理だと匂わせると、久住は察した顔になる。
そして少しばつが悪そうに「すみませんでした」と頭を下げた。
香澄はバッグを持って手洗いに向かい、個室に入って便器に座り、泣き始めた。
「うぅ……っ、う……っ、うぅーっ……」
何がどうなって、こうなったのか理解できない。
いつ盗聴器が付けられたのか、いつ監視カメラがついたのか、まったく分からず怖い。
何より、自分に恨みがあるのならともかく、関係ない人を危険に巻き込む事を心から恐れた。
その時、またピコンとスマホが鳴る。
――見たくない。
けれど見なければペナルティがある気がし、香澄はスマホを出した。
『泣かせてしまってすまないね。本来なら女性を泣かすなど本意ではないのだが』
その文面から、やっている事がどうであれ、相手が紳士的な人なのだと想像した。
(F……Fのつく人。多分男性。……誰……)
懸命に思考を巡らせ、ふ……と思い当たったのはバルセロナで出会ったフェルナンドだ。
彼にはバルセロナの観光に付き合ってもらって、〝いい人〟という印象しかない。
途中で佑に嫉妬されて「知らない人について行くな」と怒られ、それ以上関わらずに終わったはずだった。
恨みを買う間もなかったし、関わった時間はあまりに少なすぎる。
だが彼しか心当たりのない香澄は、意を決して相手の素性を探ろうとした。
『間違えていたらすみません。あなたはバルセロナでお会いしたフェルナンドさんですか?』
メッセージを打ったあと、香澄は呼吸を震わせて返事を待つ。
テーブルの上に置いてあるスマホが震え、通知を知らせる。
スマホを開くと、知らないアカウントからメッセージが入っていた。
アカウントの名前はただ一文字、『F』。
アイコンも同様に、白地に黒い文字で装飾のついたFがあるだけだ。
メッセージは日本語らしく、「こんにちは。久しぶり……」とトークルームの中身が少し見えている。
(何だろう? 詐欺かな? URLを踏まなかったら大丈夫なんだっけ。知り合いがアカウント名を変えただけなら困るし)
トン、と画面をタップしてトークルームを開いてメッセージを読む。
『こんにちは。久しぶりだね。ずっと君の行動を見守っていたけど、良いニューイヤーを迎えられたようで何よりだ。ところで向かいに座っている男性は護衛かな? 彼の額に赤い印を見つけたら、次のメッセージを待ってほしい』
(えっ?)
ギクッとして顔を上げると、佐野の額に赤い印があった。
印は微かに動いていて、レーザーポインターの光なのだと分かる。
(これって……!)
一気に血の気を引かせた香澄は、さり気なく後ろを向いて窓の外を見た。
香澄たちは通りに面した席にいて、彼女は通りを背にして座っていた。
もしこの赤い印が狙撃のためのものなら、とんでもない事になる。
「どうしました? 赤松さん」
久住に話し掛けられ、香澄はぎこちない笑みを浮かべる。
「い、いえ……」
その時、ピコンと音が鳴って新たなメッセージが入った。
ビクッとした香澄は顔を青ざめさせ、恐る恐るスマホを見る。
『君には馴染みがないかもしれないが、彼の額にあるのは狙撃用のレーザースコープだ。君がへたな行動を取ろうとすれば、彼の命はない。周りの無関係な人にも危害が加わる事も、考えたほうがいいだろう』
あまりの恐怖に、香澄の目に涙が浮かび上がる。
だが久住と佐野に気付かれてはいけないと思い、唇を震わせながら平静を装った。
メッセージはまだ続く。
『どこに盗聴器があるとかは教えられないが、今までの事ははすべて聞かせてもらっているし、監視カメラで見ている。護衛や御劔佑氏、警察、その他団体にこの事を伝えないように。私たちはいつでも君を見張っていて、へたな行動を取れば誰かが命を散らす。親友が札幌から東京に越してくるんだってね? 彼女の平和のためにも、黙っているのが賢明だと思わないか?』
メッセージの主は、へたをすれば麻衣をも殺すと言っている。
耐えきれず、香澄は震える指で返信した。
『お手洗いに行ってもいいですか?』
『いいとも。ただ、君の連れはターゲットになったままだと、失念してはいけない』
『はい』
香澄はぎこちなくスマホのアプリを閉じ、二人に告げた。
「ちょっとお手洗いに行ってきますね。お料理がきたら先に召し上がっていてください」
「大丈夫ですか? 顔色が良くないですよ?」
久住に言われ、香澄は懸命に笑ってみせる。
「すみません、ちょっと……女性のほうの体調で」
我ながらずるいと思うが、生理だと匂わせると、久住は察した顔になる。
そして少しばつが悪そうに「すみませんでした」と頭を下げた。
香澄はバッグを持って手洗いに向かい、個室に入って便器に座り、泣き始めた。
「うぅ……っ、う……っ、うぅーっ……」
何がどうなって、こうなったのか理解できない。
いつ盗聴器が付けられたのか、いつ監視カメラがついたのか、まったく分からず怖い。
何より、自分に恨みがあるのならともかく、関係ない人を危険に巻き込む事を心から恐れた。
その時、またピコンとスマホが鳴る。
――見たくない。
けれど見なければペナルティがある気がし、香澄はスマホを出した。
『泣かせてしまってすまないね。本来なら女性を泣かすなど本意ではないのだが』
その文面から、やっている事がどうであれ、相手が紳士的な人なのだと想像した。
(F……Fのつく人。多分男性。……誰……)
懸命に思考を巡らせ、ふ……と思い当たったのはバルセロナで出会ったフェルナンドだ。
彼にはバルセロナの観光に付き合ってもらって、〝いい人〟という印象しかない。
途中で佑に嫉妬されて「知らない人について行くな」と怒られ、それ以上関わらずに終わったはずだった。
恨みを買う間もなかったし、関わった時間はあまりに少なすぎる。
だが彼しか心当たりのない香澄は、意を決して相手の素性を探ろうとした。
『間違えていたらすみません。あなたはバルセロナでお会いしたフェルナンドさんですか?』
メッセージを打ったあと、香澄は呼吸を震わせて返事を待つ。
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