1,269 / 1,549
第十九部・マティアスと麻衣 編
たまに本屋さん覗こうかな
しおりを挟む
もう一人、紙の本にすると鈍器ができあがるほど分厚い作品を書く、京月冬也も好きだ。
「ミステリー小説が好き」と公言できるほど、マニアではないと思っている。
アガサ・クリスティーの作品も、『そして誰もいなくなった』ぐらいしか読んだ事がない。
有名なシャーロック・ホームズも一冊も読んだ事がないし、日本の作家に至ってはその二人以外あまり知らない。
けれど好きなものは好きなのだ。
ネットなどで熱狂的なファンを見ると、「中途半端なファンですみません」と思ってしまうが、大勢いるだろう読書人口の片隅でこっそり楽しみたいと思っていた。
(たまに本屋さん覗こうかな。ついでに、面白そうな本があったら買っちゃおう)
そう思うと急にワクワクしてきた。
実店舗に行くとパラパラ捲って「面白そう」と思える本に出会ったり、書店スタッフが作ったコーナーでいい作品と出会えるのも確かだ。
「よし、十時過ぎたら家を出よう。本屋さん行って、ちょっとプラプラしてランチ食べて帰るプラン」
決めたあと、内線で離れに連絡をした。
**
十時になり、香澄は斎藤に挨拶して家を出た。
デートではないので、スキニーにセーター、ダッフルコートにマフラーを巻いただけのカジュアルな格好だ。足元も、歩きやすいようにスニーカーを履いた。
メイクも特に気合いを入れず、ベースメイクの他は眉毛を描いただけだ。
「じゃあ、宜しくお願いします」
香澄は離れの前で、久住と佐野に挨拶する。
わざわざ車で出かける用事ではないので、交通機関と徒歩にした。
護衛二人は私服を着ている。
運転手の瀬尾は同行しないが、いつでも車を出せるようにスタンバイしているらしい。
「本屋さんに行くのは久しぶりです。お二人は読書好きですか?」
雑談したいと思い、香澄は彼らに話しかける。
「私は〝本屋が選んだ大賞〟とかなら読みます。純文学は、少し難しそうで敬遠していますね。あとはレシピ本やグルメ漫画でしょうか」
黒いパンツにシャツ、ピーコ―トを着た久住が言い、「佐野は?」と話を振る。
「僕は小説は読まないですね。もっぱら漫画ばっかりです」
そう答えた佐野も、黒いパンツにブルゾンとカジュアルな格好だ。
三人は十五分ほど歩いた場所にあるバス停に向かっていた。
「何の漫画です?」
香澄はさらに尋ねる。
「あ~、赤松さんは読まないかもですが、ガッツリバトルな、画面の濃い男性向け漫画です。『バーサーカー』とか『嘘喰らい』とか、『テッペンアシュラ』とか知ってます?」
「あ! 知ってます! 好きです! 読んでます!」
自分が追いかけて読んでいる漫画のタイトルが出て、香澄の目の色が変わった。
「えぇ!? マジですか? 赤松さんってキラキラした少女漫画のイメージあったのに……」
「マジです! いや、漫画大好きなんで、雑多に読みますよ」
それからすっかり漫画の話題になり、バスに乗ったあとも話し続ける。
「いやー、赤松さんの印象が変わりました」
久住の言葉に、香澄は首を傾げる。
「今までどう思ってたんです?」
「何か……。吹けば飛ぶような小動物?」
久住が佐野に疑問形で言い、彼も頷く。
「ですね。何かあったら壊れそうな、メレンゲみたいな存在だと思っていました」
「あはは、そんなのないですよ。雪で鍛えられた道産子ですから」
「そう言えば道産子ですよねぇ。今度札幌に同行した時に、美味いラーメンの店を教えて頂きたいです」
「勿論です。知ってる範囲でなら」
「ありがとうございます」
バスは渋谷駅前に着き、そこから大きな書店に向かった。
たっぷり一時間かけて書店を楽しんだあと、渋谷駅から徒歩すぐにあるイタリアンレストランでランチにした。
三人ともフォカッチャ、サラダ、パスタ、コーヒー、デザートのあるセットを頼んだ。
案内された席は窓側で、天気が良くていい気分だ。
レストランに入ると注意する事はないからか、二人も穏やかな表情になった。
「ミステリー小説が好き」と公言できるほど、マニアではないと思っている。
アガサ・クリスティーの作品も、『そして誰もいなくなった』ぐらいしか読んだ事がない。
有名なシャーロック・ホームズも一冊も読んだ事がないし、日本の作家に至ってはその二人以外あまり知らない。
けれど好きなものは好きなのだ。
ネットなどで熱狂的なファンを見ると、「中途半端なファンですみません」と思ってしまうが、大勢いるだろう読書人口の片隅でこっそり楽しみたいと思っていた。
(たまに本屋さん覗こうかな。ついでに、面白そうな本があったら買っちゃおう)
そう思うと急にワクワクしてきた。
実店舗に行くとパラパラ捲って「面白そう」と思える本に出会ったり、書店スタッフが作ったコーナーでいい作品と出会えるのも確かだ。
「よし、十時過ぎたら家を出よう。本屋さん行って、ちょっとプラプラしてランチ食べて帰るプラン」
決めたあと、内線で離れに連絡をした。
**
十時になり、香澄は斎藤に挨拶して家を出た。
デートではないので、スキニーにセーター、ダッフルコートにマフラーを巻いただけのカジュアルな格好だ。足元も、歩きやすいようにスニーカーを履いた。
メイクも特に気合いを入れず、ベースメイクの他は眉毛を描いただけだ。
「じゃあ、宜しくお願いします」
香澄は離れの前で、久住と佐野に挨拶する。
わざわざ車で出かける用事ではないので、交通機関と徒歩にした。
護衛二人は私服を着ている。
運転手の瀬尾は同行しないが、いつでも車を出せるようにスタンバイしているらしい。
「本屋さんに行くのは久しぶりです。お二人は読書好きですか?」
雑談したいと思い、香澄は彼らに話しかける。
「私は〝本屋が選んだ大賞〟とかなら読みます。純文学は、少し難しそうで敬遠していますね。あとはレシピ本やグルメ漫画でしょうか」
黒いパンツにシャツ、ピーコ―トを着た久住が言い、「佐野は?」と話を振る。
「僕は小説は読まないですね。もっぱら漫画ばっかりです」
そう答えた佐野も、黒いパンツにブルゾンとカジュアルな格好だ。
三人は十五分ほど歩いた場所にあるバス停に向かっていた。
「何の漫画です?」
香澄はさらに尋ねる。
「あ~、赤松さんは読まないかもですが、ガッツリバトルな、画面の濃い男性向け漫画です。『バーサーカー』とか『嘘喰らい』とか、『テッペンアシュラ』とか知ってます?」
「あ! 知ってます! 好きです! 読んでます!」
自分が追いかけて読んでいる漫画のタイトルが出て、香澄の目の色が変わった。
「えぇ!? マジですか? 赤松さんってキラキラした少女漫画のイメージあったのに……」
「マジです! いや、漫画大好きなんで、雑多に読みますよ」
それからすっかり漫画の話題になり、バスに乗ったあとも話し続ける。
「いやー、赤松さんの印象が変わりました」
久住の言葉に、香澄は首を傾げる。
「今までどう思ってたんです?」
「何か……。吹けば飛ぶような小動物?」
久住が佐野に疑問形で言い、彼も頷く。
「ですね。何かあったら壊れそうな、メレンゲみたいな存在だと思っていました」
「あはは、そんなのないですよ。雪で鍛えられた道産子ですから」
「そう言えば道産子ですよねぇ。今度札幌に同行した時に、美味いラーメンの店を教えて頂きたいです」
「勿論です。知ってる範囲でなら」
「ありがとうございます」
バスは渋谷駅前に着き、そこから大きな書店に向かった。
たっぷり一時間かけて書店を楽しんだあと、渋谷駅から徒歩すぐにあるイタリアンレストランでランチにした。
三人ともフォカッチャ、サラダ、パスタ、コーヒー、デザートのあるセットを頼んだ。
案内された席は窓側で、天気が良くていい気分だ。
レストランに入ると注意する事はないからか、二人も穏やかな表情になった。
13
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる