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第十九部・マティアスと麻衣 編
シンジキッチン
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「シンジと呼んでいいか?」
「あ、お好きにどうぞ! マティアスさんは幾つ?」
「三十歳だ」
「へぇ、年上なんだ。……っていうか、ホンット格好いいなぁ……。目が青い。……って、こういうの失礼だったらすみません! 間近でドイツ人見るの初めてで」
「いや、問題ない」
「ねーちゃん、とりまビール飲もっか。俺、つまみ作るわ」
「いいの? 作ってくれるならありがたいけど」
「喋りながらでもできるし、お任せあれ」
そう言って信司は手を洗ってから台所に立ち、手際よく作っていく。
「マティアスさん、ねーちゃんのどこが良かったんです?」
「すべてだ。強いて言うなら内面だ」
「ふぅーん……」
信司が納得したような、していないような声を出す。
今まで麻衣は〝モテ〟とまったく縁がなく、弟の目から見ても外見で褒められる要素はない。
もしもマティアスが信司の質問に「可愛い」と答えたなら、怪しまれたかもしれない。
とはいえ、マティアスは麻衣の外見もとても気に入っているのだが。
麻衣は、あまり説明が多くない彼の言葉を補足する。
「……まぁ、色々あるんだよ。深く話すと長いけど、ありがたい事に私の事がいいって言ってくれてる」
麻衣はうまく誤魔化そうとしたが、マティアスは真面目に反応する。
「俺の事ならすべて話しても構わない」
彼の提案に、麻衣は首を横に振る。
「ああいうのは、何回も話すもんじゃない。マティアスさんは平気でも、私はあんまり平気じゃない」
何やら訳ありな二人を、信司は少し心配そうに見ている。
「……えーと。俺は聞かないほうがいいやつ?」
「そのうちじっくり話せそうな時に、ちゃんと教えるよ。ざっくり言うと、マティアスさんの生い立ちや過去が、あまりいいものじゃないの。私の事を好きになってくれた理由も、それが関係してる」
理由を聞き、信司はある程度理解したようだ。
「深刻な話なら、話せる時でいいけど……。でも、ちゃんとねーちゃんの事は好き? 大丈夫?」
弟の心配をありがたく思っていた時、マティアスが頭を下げた。
「心配させてすまない。俺は本当にマイに惚れている。代償行為として好きになっているとか、自分の気持ちを誤魔化しているつもりはない。これからドイツから日本に本拠地を変えて、Chief Everyで働き、マイと東京で暮らしたいと思っている」
マティアスの言葉を聞き、信司がこちらを見た。
「えっ!? ねーちゃん東京行くの!?」
「あ、う、うん。ごめん、それ言ってなかったね」
「マジぃ……?」
岩本家は基本的に仲がいいので、引っ越すと言ったら揉めるだろう。
「ねーちゃん、東京でやってけるの? コンクリートジャングルだろ? 近所づき合いも冷たいんじゃないの? 偏見だけど」
「行ってみないと分からない。でも香澄の側に住ませてくれるって言ってるんだ」
「あー、香澄ちゃんが近くにいたら寂しくないかもだけど……。っていうか、地価高くね? 御劔邸の近くだろ?」
「問題ない。家を買う金ならある」
マティアスが答え、弟はやけに納得した顔で何度も頷いた。
「ここで財力が物を言うのか……。いいなー! マティアスさん、俺と結婚して!」
「すまない。先約がある」
信司の冗談にマティアスは真剣に答え、その生真面目さに弟は笑い転げる。
「あっはは! おっかしーね、マティアスさん。いやぁ、無口でクールそうな人っていう印象があったけど、なかなか面白い人だね」
「そうか? 『面白みがない人間』として定評があるが」
「そのくそまじめな所がいいんだって! きっとうちの両親も気に入るよ」
台所でつまみを作り終えた信司は、「どうぞー」とテーブルの上におつまみを並べていく。
「これはコンビーフとピクルスで作ったパテ! クラッカーに載せて食べて! で、こっちはオクラとチーズの生ハム巻き。こっちはサッと茹でたタコとアボカドをキムチで和えたやつ。これは餅と卵にピザソースとマヨネーズを掛けたグラタン。冷凍餃子も焼いたよ!」
「うわぁ、美味しそう! さすがシンジキッチン!」
「へっへ……。お代はあとから取るからね~」
「シンジは凄いな。俺は肉とウィンナーを焼いて、マッシュポテトとザワークラウトを作るしかできない」
「えー? 美味そうじゃん。今度ご馳走してよ」
いつの間にか口調がフランクになった信司は、全員の前に缶ビールを置いてさっそくプルリングを引いている。
「あ、お好きにどうぞ! マティアスさんは幾つ?」
「三十歳だ」
「へぇ、年上なんだ。……っていうか、ホンット格好いいなぁ……。目が青い。……って、こういうの失礼だったらすみません! 間近でドイツ人見るの初めてで」
「いや、問題ない」
「ねーちゃん、とりまビール飲もっか。俺、つまみ作るわ」
「いいの? 作ってくれるならありがたいけど」
「喋りながらでもできるし、お任せあれ」
そう言って信司は手を洗ってから台所に立ち、手際よく作っていく。
「マティアスさん、ねーちゃんのどこが良かったんです?」
「すべてだ。強いて言うなら内面だ」
「ふぅーん……」
信司が納得したような、していないような声を出す。
今まで麻衣は〝モテ〟とまったく縁がなく、弟の目から見ても外見で褒められる要素はない。
もしもマティアスが信司の質問に「可愛い」と答えたなら、怪しまれたかもしれない。
とはいえ、マティアスは麻衣の外見もとても気に入っているのだが。
麻衣は、あまり説明が多くない彼の言葉を補足する。
「……まぁ、色々あるんだよ。深く話すと長いけど、ありがたい事に私の事がいいって言ってくれてる」
麻衣はうまく誤魔化そうとしたが、マティアスは真面目に反応する。
「俺の事ならすべて話しても構わない」
彼の提案に、麻衣は首を横に振る。
「ああいうのは、何回も話すもんじゃない。マティアスさんは平気でも、私はあんまり平気じゃない」
何やら訳ありな二人を、信司は少し心配そうに見ている。
「……えーと。俺は聞かないほうがいいやつ?」
「そのうちじっくり話せそうな時に、ちゃんと教えるよ。ざっくり言うと、マティアスさんの生い立ちや過去が、あまりいいものじゃないの。私の事を好きになってくれた理由も、それが関係してる」
理由を聞き、信司はある程度理解したようだ。
「深刻な話なら、話せる時でいいけど……。でも、ちゃんとねーちゃんの事は好き? 大丈夫?」
弟の心配をありがたく思っていた時、マティアスが頭を下げた。
「心配させてすまない。俺は本当にマイに惚れている。代償行為として好きになっているとか、自分の気持ちを誤魔化しているつもりはない。これからドイツから日本に本拠地を変えて、Chief Everyで働き、マイと東京で暮らしたいと思っている」
マティアスの言葉を聞き、信司がこちらを見た。
「えっ!? ねーちゃん東京行くの!?」
「あ、う、うん。ごめん、それ言ってなかったね」
「マジぃ……?」
岩本家は基本的に仲がいいので、引っ越すと言ったら揉めるだろう。
「ねーちゃん、東京でやってけるの? コンクリートジャングルだろ? 近所づき合いも冷たいんじゃないの? 偏見だけど」
「行ってみないと分からない。でも香澄の側に住ませてくれるって言ってるんだ」
「あー、香澄ちゃんが近くにいたら寂しくないかもだけど……。っていうか、地価高くね? 御劔邸の近くだろ?」
「問題ない。家を買う金ならある」
マティアスが答え、弟はやけに納得した顔で何度も頷いた。
「ここで財力が物を言うのか……。いいなー! マティアスさん、俺と結婚して!」
「すまない。先約がある」
信司の冗談にマティアスは真剣に答え、その生真面目さに弟は笑い転げる。
「あっはは! おっかしーね、マティアスさん。いやぁ、無口でクールそうな人っていう印象があったけど、なかなか面白い人だね」
「そうか? 『面白みがない人間』として定評があるが」
「そのくそまじめな所がいいんだって! きっとうちの両親も気に入るよ」
台所でつまみを作り終えた信司は、「どうぞー」とテーブルの上におつまみを並べていく。
「これはコンビーフとピクルスで作ったパテ! クラッカーに載せて食べて! で、こっちはオクラとチーズの生ハム巻き。こっちはサッと茹でたタコとアボカドをキムチで和えたやつ。これは餅と卵にピザソースとマヨネーズを掛けたグラタン。冷凍餃子も焼いたよ!」
「うわぁ、美味しそう! さすがシンジキッチン!」
「へっへ……。お代はあとから取るからね~」
「シンジは凄いな。俺は肉とウィンナーを焼いて、マッシュポテトとザワークラウトを作るしかできない」
「えー? 美味そうじゃん。今度ご馳走してよ」
いつの間にか口調がフランクになった信司は、全員の前に缶ビールを置いてさっそくプルリングを引いている。
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