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第十九部・マティアスと麻衣 編
岩本信司
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「ピアノ、このまま弾いてみて」
「えっ!?」
訳の分からない事を言われ、香澄は驚いて目を剥く。
「中級ぐらいでペースの速い曲……ショパンのポロネーズとか、『幻想即興曲』いける?」
「ひ……弾けるけど……」
答えてから、香澄はこの姿でピアノを弾く事を想像して赤面する。
佑と過ごすようになってからやけに胸が育ってしまい、ブラジャーの支えがなければ些細な衝撃でたぷんと弾んでしまう。
まじめな顔でピアノを弾いている自分の胸が、たぷんたぷん揺れている様を想像し……。
「だっ、駄目! やらしいの持ち込むの、駄目」
「ふぅん? じゃあ、どっちか片方ならいい?」
「もっ……、もぉぉぉ……」
香澄はがっくりと項垂れるついでに佑に寄りかかり、深い溜め息をついた。
**
場所が変わって札幌。
十時過ぎまで寝ていた麻衣は、マティアスと一緒にコンビニに行った。
温かい肉まんやあんまん、ピザまん、おでんを買って、昨晩買った物と一緒にブランチをした。
「手料理とか期待してたらごめんね」
大好きなピザまんに齧り付き、謝る。
「いや、疲れているのは分かるから求めない。お互い、できる時にやるスタイルを大切にするといいと思う。俺はマイに家政婦になってほしい訳ではない。凝った物はできないが、俺だって料理はできる」
そう言った彼を、やはり「好きだなぁ」と感じる。
「ありがと。そう言ってもらえて嬉しい。料理や食べる事は好きなんだけどね。やっぱり疲れてる時とか、気分が乗らない時は作りたくない。それに一週間に一回は外食して、自分を甘やかしてるんだ。外食をする事によって、逆に『自分で作りたい』って刺激にもなるし」
確かに外食は美味しいが、最終的に「自分の舌に合うご飯が一番美味しい」となる。
楽をするため、かつ、新規開発のために食べ歩き、自分で作っては安心するの繰り返しだ。
「そうか。俺は毎日自炊する必要を感じない。だが一緒に外食して、美味い店を見つけるのも楽しみだな。それはそうと、コンビニおでんはとても味がいい」
マティアスはあつあつ大根と格闘していたが、いたくお気に召したようだ。
「やった。私、コンビニ大好きだから褒めてもらえると嬉しい」
そんな会話をしている間も、洗濯機は回り続けている。
食べ終わったあとは、衣類の他の細々とした物も片付ける。
マティアスは邪魔にならないように、ソファに座ってテレビを見ていてくれた。
時々「何か手伝うか?」と言ってくれるが、特にないので気持ちだけありがたく受け取っておいた。
十四時近くになり、信司が来た。
「ねーちゃんおかえり。……って、わっ! でっけぇ!」
両手にエコバッグを持った信司は、出迎えた麻衣に挨拶をし、その後ろからノソッと現れたマティアスを見て声を上げた。
「初めまして、こんにちは。マティアス・シュナイダーだ」
「しかも日本語めっちゃうまい! 助かった~! ねーちゃんがドイツ語話せるなんて聞いてないし、英語とボディーランゲージで何とかしてるのかな? って、昨日あのあとめっちゃ考えて眠れなかった」
「あはは、んな訳ないじゃーん。まぁ、上がって上がって」
麻衣は信司からエコバッグを受け取り、家の中に入る。
そしてすぐに食材を冷蔵庫と冷凍庫に入れ始めた。
「冷蔵庫からっぽにしてったって言ったから、適当に買ってきたよ。もちろんあとで請求するけど」
「ありがと! 買い物行くの面倒だったんだ」
岩本家は基本的に身長が高めの家系だ。
信司は百七十九センチメートルあり、いつも「あと一センチほしい」と言っている。
柔道をやっていたため、体つきはがっしりしているが、重量級というほどでもない。
女性からは「ガタイが良くて格好いい」と言われる体型だ。
顔立ちは格好いいというよりは、愛嬌があって可愛い感じだが、イケメンではないと麻衣は思っている。
料理好きの姉に似たのか家庭的で、一人暮らしをしている今も自炊率が高い。
姉弟仲がいいので、お互いオススメレシピを紹介し合っていた。
「初めまして! 岩本信司です! 二十五歳! 札幌で会社員してます」
信司はきちっと頭を下げ、マティアスに挨拶をする。
「えっ!?」
訳の分からない事を言われ、香澄は驚いて目を剥く。
「中級ぐらいでペースの速い曲……ショパンのポロネーズとか、『幻想即興曲』いける?」
「ひ……弾けるけど……」
答えてから、香澄はこの姿でピアノを弾く事を想像して赤面する。
佑と過ごすようになってからやけに胸が育ってしまい、ブラジャーの支えがなければ些細な衝撃でたぷんと弾んでしまう。
まじめな顔でピアノを弾いている自分の胸が、たぷんたぷん揺れている様を想像し……。
「だっ、駄目! やらしいの持ち込むの、駄目」
「ふぅん? じゃあ、どっちか片方ならいい?」
「もっ……、もぉぉぉ……」
香澄はがっくりと項垂れるついでに佑に寄りかかり、深い溜め息をついた。
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場所が変わって札幌。
十時過ぎまで寝ていた麻衣は、マティアスと一緒にコンビニに行った。
温かい肉まんやあんまん、ピザまん、おでんを買って、昨晩買った物と一緒にブランチをした。
「手料理とか期待してたらごめんね」
大好きなピザまんに齧り付き、謝る。
「いや、疲れているのは分かるから求めない。お互い、できる時にやるスタイルを大切にするといいと思う。俺はマイに家政婦になってほしい訳ではない。凝った物はできないが、俺だって料理はできる」
そう言った彼を、やはり「好きだなぁ」と感じる。
「ありがと。そう言ってもらえて嬉しい。料理や食べる事は好きなんだけどね。やっぱり疲れてる時とか、気分が乗らない時は作りたくない。それに一週間に一回は外食して、自分を甘やかしてるんだ。外食をする事によって、逆に『自分で作りたい』って刺激にもなるし」
確かに外食は美味しいが、最終的に「自分の舌に合うご飯が一番美味しい」となる。
楽をするため、かつ、新規開発のために食べ歩き、自分で作っては安心するの繰り返しだ。
「そうか。俺は毎日自炊する必要を感じない。だが一緒に外食して、美味い店を見つけるのも楽しみだな。それはそうと、コンビニおでんはとても味がいい」
マティアスはあつあつ大根と格闘していたが、いたくお気に召したようだ。
「やった。私、コンビニ大好きだから褒めてもらえると嬉しい」
そんな会話をしている間も、洗濯機は回り続けている。
食べ終わったあとは、衣類の他の細々とした物も片付ける。
マティアスは邪魔にならないように、ソファに座ってテレビを見ていてくれた。
時々「何か手伝うか?」と言ってくれるが、特にないので気持ちだけありがたく受け取っておいた。
十四時近くになり、信司が来た。
「ねーちゃんおかえり。……って、わっ! でっけぇ!」
両手にエコバッグを持った信司は、出迎えた麻衣に挨拶をし、その後ろからノソッと現れたマティアスを見て声を上げた。
「初めまして、こんにちは。マティアス・シュナイダーだ」
「しかも日本語めっちゃうまい! 助かった~! ねーちゃんがドイツ語話せるなんて聞いてないし、英語とボディーランゲージで何とかしてるのかな? って、昨日あのあとめっちゃ考えて眠れなかった」
「あはは、んな訳ないじゃーん。まぁ、上がって上がって」
麻衣は信司からエコバッグを受け取り、家の中に入る。
そしてすぐに食材を冷蔵庫と冷凍庫に入れ始めた。
「冷蔵庫からっぽにしてったって言ったから、適当に買ってきたよ。もちろんあとで請求するけど」
「ありがと! 買い物行くの面倒だったんだ」
岩本家は基本的に身長が高めの家系だ。
信司は百七十九センチメートルあり、いつも「あと一センチほしい」と言っている。
柔道をやっていたため、体つきはがっしりしているが、重量級というほどでもない。
女性からは「ガタイが良くて格好いい」と言われる体型だ。
顔立ちは格好いいというよりは、愛嬌があって可愛い感じだが、イケメンではないと麻衣は思っている。
料理好きの姉に似たのか家庭的で、一人暮らしをしている今も自炊率が高い。
姉弟仲がいいので、お互いオススメレシピを紹介し合っていた。
「初めまして! 岩本信司です! 二十五歳! 札幌で会社員してます」
信司はきちっと頭を下げ、マティアスに挨拶をする。
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