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第十九部・マティアスと麻衣 編

麻衣の家

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「こっちですよ」

「ああ」

 快速エアポートに乗って札幌駅まで着いたあと、麻衣は下りエスカレーターに向かう。

「割と大きな駅だな」

「ホームは十個ありますよ。今は新幹線のためにホーム増設中です。直通している商業施設も沢山あって、遊ぶには駅だけで済みますね。映画館もホテルもあるし」

 地元の事を話す麻衣は、少し誇らしげな気持ちになっている。

 好きになった人に自分の街を紹介できるのが、こんなに嬉しいとは思わなかった。

「ちょっと歩きますよ」

 麻衣はそう言って西改札口から出ると、地下に続くエスカレーターに乗る。

 地下一階に着くとまっすぐ進み、地下にある商業施設アッピアを通過していく。

 まっすぐ歩いて行くと、下り階段の向こうに地下鉄の改札口が見えた。

「ここか?」

「ううん。あれは南北線の改札。切符はここで買うけど、東豊線の改札口はもっと向こうです」

 そう言って麻衣はまたマティアスの切符を買い、「あっち」と歩く。

「この地下歩行空間をまっすぐ進むと、大通り、すすきのまで行けます。冬は雪道を歩かなくて済むから便利ですよ。夏も暑くなくていいですけど」

「そうか。便利だな」

 さらに進んだ所に東豊線の改札口があり、そこを通って地下鉄のホームに下りた。

 ホームに並んでいると、若い女性がチラチラとマティアスを気にしたのが分かった。

(彼に似合わないって思われてるんだろうな。格好いいもんね)

 何度目になるか分からない感情に囚われた時、マティアスが口を開く。

「札幌にはあまり欧米人がいないな」

「そうですね。観光客は割といますが、東京よりずっと少ないと思います」

 答えながら、麻衣はマティアスの立場になって考えてみた。

 ドイツから日本に来て、さらに札幌となると、周りにいる白人は当然少なくなる。

 仮に自分がドイツに行ったとして、日本人が少ない環境に住むなら、多少怖くなるかもしれない。

 言葉を話せたとしても、同郷の知り合いがいるいないでは心理的な負担が異なる。

 きっと白人だから分かり合える事があると思うし、似た価値観で愚痴を言い、ストレス発散できるのでは……と思う。

 いくら彼が日本語を流暢に話せて、日本人が白人を迫害する事はほぼないとしても、欧米圏と同じ感覚ではいられないだろう。

(東京行きを決めて良かった。札幌より住みやすいと思うし)

 自分の故郷をそう思ってしまうのは寂しいが、やはり東京にいれば佑がいるし、双子も来日しやすいだろう。

 加えてドイツ人が集まるバーなども、探せばあるかもしれない。

 考えていると地下鉄が着き、マティアスと一緒に乗る。

「二駅だからすぐですよ」

「分かった」

 御劔邸では高級ホテルのような部屋に泊めてもらったとはいえ、札幌に帰ってくるとドッと疲れが出た気がする。

 やがて地下鉄は豊水すすきの駅に着き、麻衣は安堵感を覚えつつ歩き始めた。

「五番出口ね」

「分かった」

 地上に上がると目の前には寺がある。

 さらに東に歩くと五分ほどで麻衣の住む賃貸マンションについた。

「お疲れ様。荷物、ありがとうございます」

「いや、構わない」

 雪道なのでスーツケースを引きずるのは難しく、マティアスはスーツケースを持ってくれていた。

 階段を上がり、鍵を開けるとドアを開いた。

 異性を部屋に上げるのは恥ずかしいが、もう決めてしまったので仕方がない。

「どうぞ」

「お邪魔します」

 マティアスはワクワクした表情で玄関にスーツケースを置いた。

 靴を脱いで部屋に上がると、足の裏がヒヤッとする。

「わぁ~……。めっちゃ冷えてる……! ストーブつけますけど、部屋が暖まるまで時間がかかりますから、コートを着たままのほうがいいですよ」

 麻衣は石油ストーブのスイッチを入れて最大にする。

「荷物はどこに置けばいい?」

「あ、適当で。いまお風呂と布団の準備をしますね」

 マティアスへの言葉遣いはいまだ定まらず、どうしたらいいか分からないままだ。

(匂ったらやだから、私もお風呂入ろう)

 冬場でも、歩けばコートの中が蒸れて汗を掻く。

 疲れていてすぐ寝たいが、マティアスがいるなら汗を流したい。

 バスルームに行ってお湯を溜め始めると、水を飲む。
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