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第十九部・マティアスと麻衣 編

一旦のお別れ

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 香澄は、リビングの前でモジモジしている麻衣の背中をトントンと叩く。

「……た、ただいまです」

 麻衣がペコリと頭を下げてリビングに入り、佑は何事もなかったかのように「おかえり」と微笑む。

 特にはやし立てられないと判断した麻衣は、安堵して話を切りだした。

「今日の十九時フライトの飛行機だから、荷物を纏めますね。空港でお土産を買う時間を確保しておきたいので」

 それを聞き、全員がハッとした。

 香澄は一旦のお別れを言われ、ぶわっと寂しい感情に襲われる。

 だが「すぐ毎日のように会えるから、我慢しないと」と自分に言い聞かせた。

「僕らもとりあえず今日でラストだし、荷物まとめるかー」

「ういー」

 双子の会話を聞き、一気にこの長く濃密な年末年始の終わりを感じた香澄は、気持ちを切り替えた。

「佑さん、ランチお任せしてもいい? 私、麻衣の手伝いをする」

「分かった」

 香澄は佑に昼食を頼んだあと、マティアスに尋ねる。

「マティアスさん、飛行機のチケットは取れましたか?」

「ああ。マイと同じ便のチケットを予約した」

「なら良かったです」

 微笑んだ香澄は、麻衣に「行こ」と人差し指で階上を示す。

「立つ鳥あとを濁さないようにしないと」

 麻衣の言葉を聞いて、香澄は「らしいなぁ」と思わず笑う。

 それから彼女の部屋に行き、パッキングの手伝いをした。



**



 十六時には羽田空港に着き、荷物を預けたあとにお土産を求めて空港内を歩いた。

 麻衣はバナナのお菓子を何箱も買い、さらに美味しそうな物を手当たり次第カゴに入れている。

 その側で、マティアスも麻衣の両親に渡すお土産を物色していた。

 マティアスが札幌に行くと聞いて、佑はすぐに贔屓にしている和菓子店に連絡をして、日持ちのする高級菓子を手配した。

 何だかんだ言いながらも面倒見のいい彼に、香澄は感謝しきりだ。

 お土産を買ったあと、全員で第二ターミナルにある天ぷらの店に入った。

 東京に来た当初はご馳走されて恐縮していた麻衣だったが、今は開き直って「美味しいです」と笑顔でサクサクの天ぷらを食べている。

 やがて十八時すぎになり、麻衣とマティアスは出発ゲートに向かった。

 手荷物検査場の前で、香澄は麻衣に抱きつく。

「麻衣、元気でね」

「あはは、二週間後には香澄が札幌に来て同窓会するんだから」

「それはそうなんだけどー」

 双子はプライベートジェットで来ているので、護衛に荷物を運ばせていつでも出発できる状態だ。

「新千歳に着いたら連絡してね」

「分かった」

 香澄はようやく体を離し、それでも名残惜しく何回も握手する。

 と、双子が挨拶してきた。

「マイ、またね!」

「東京の住まい決まったら教えて。遊びに行くから」

「 まだ何か月もあとの事ですけど、その時は連絡しますね」

 双子とハイタッチしている麻衣は、香澄以上に順応力があるかもしれない。

 ――と、マティアスがぎゅう、と麻衣を抱き締めた。

「どっ、どうしたんですか!」

 慌てた麻衣がマティアスの体を押し返して尋ねると、彼は甘えた事を言う。

「いや、カスミとハグをしていたから、俺も参加したかった」

「いつでもできるでしょう!」

 すかさず突っ込んだ麻衣を見て、香澄は破顔した。



**



 麻衣とマティアスを見送ったあとは、双子の見送りだ。

「あ、僕らの事は気にしなくていいよ」

「そうそう。俺たちに決まった離陸時間はないし、直接飛行機に向かえばいいだけだから」

 言ったあと、双子はチラッと目配せする。

 直後、アロイスがサッと佑の肩を抱いた。

「タスク、アレなーに?」

「え?」

 アロイスにつられて佑が気を逸らした瞬間、クラウスがガバッと香澄を抱き締めてきた。
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