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第十九部・マティアスと麻衣 編
男性陣の話し合い
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ごつん、と鈍い音がして、麻衣が悲鳴を上げた。
「あたっ」
「んっふふー。石頭香澄です」
香澄はおどけて笑ったあと、麻衣の頬を両手で包んで視線を合わせる。
「いーい? 麻衣はマティアスさんの手を取って幸せになるって決めたんでしょう? ならよそ見しないで進まないと。もう〝決めちゃった〟なら、終わった事を気にしても意味がないの」
「香澄……」
潤んだ目で見つめる親友に、香澄はニコッと笑いかける。
「せっかく好きな人ができて、結婚したいって思ったなら、幸せになる事をためらわないで」
親友を励ます香澄の目にも、うっすら涙が浮かんでいる。
「私、嬉しいの。だいっすきな麻衣に好きな人ができたんだよ? 絶対に応援したい。それに、今までずっと会いたくて堪らなかった麻衣が、東京に来てくれるんだもん。嬉しくて嬉しくて、他の事なんて何も気にならないよ」
同意を求めるように笑いかけると、麻衣も困ったように微笑む。
「香澄って、他人の事になると男前になるんだから」
「ふふー。そんなもんです」
クスクス笑った香澄は麻衣の額に自分の額をつけ、目を閉じて微笑む。
「私、佑さんと家族以外に、麻衣が一番大事なの。だから謝らないでね」
「……分かった。……香澄、好きだなぁ!」
「おや? 私こそ麻衣の事が好きですが?」
好き好き言い合う二人は、冬の庭で朗らかに笑った。
**
一方マティアスは、これからの予定を話していた。
「明日、マイと一緒に札幌に向かう。一週間ほど準備期間をもうけてから、俺を家族に紹介してくれるそうだ。挨拶が済んだら一度ドイツに戻って引っ越しの準備をする。マイは離職するまで時間がかかるだろうし、俺もビザの問題がある。それまでに東京の住まいを整えられたらと思っている」
計画を聞いた佑は、できる限りの忠告をする。
「彼女のご家族に会う時、苦手かもしれないが愛想笑いをしておけ。それから一夜を共にした事は絶対に黙っておけ。彼女をどれだけ大切に想っているか強調して、同居と結婚の許可を得るんだ」
「分かった」
「不動産は良さそうな物件を探しておくが、予算や希望はあるか?」
「この辺りの一軒家はどれぐらいするだろうか? なるべくマイがカスミと頻繁に会える環境を整えたい」
「分かった。確認してみる」
佑はリビングのテーブルに置いてあった薄型パソコンを開き、操作して白金台の物件を確認する。
「二億円台だな。こぢんまりとした土地に建つデザイナーズハウスが多い。3LDKの中古マンションの空きなら八千万円弱」
「……適度な庭があり、ある程度の広さがある一軒家なら?」
「とっておきを出すなら十二億だ」
「そこを買おう」
即決したマティアスに、双子が尻上がりの口笛を吹いた。
「ひとまず物件は押さえておくが、麻衣さんと現場を見てから決めるんだな。……多分、普通の感覚の女性は、いきなり家を買ったら怒る」
「なるほど」
「金額の問題というより、スーパーで粉チーズ一つ買うにもまず相談だ。粉チーズ一つにしても、麻衣さんのこだわりがある。綿密にヒアリングした上で、住まいや内装を決めてたほうがいい」
言いながら、佑は特大ブーメランを投げている気持ちになり、頭痛を覚えた。
「東京に住むならいつでも話を聞く。日本の常識とそちらの常識は違うし、こまめに会議を開いていこう」
「ああ。感謝する」
マティアスの礼を聞き、佑は溜め息をつく。
「……言っておくがお前のためじゃない。香澄と麻衣さんのためだ」
「分かっている」
二人の会話を聞き、双子がケラケラと笑った。
「タスク、ツンデレ!」
「高低差の激しいやつな」
いつもの双子の茶々入れに溜め息をついた時、外から香澄と麻衣が戻ってきた。
**
「あたっ」
「んっふふー。石頭香澄です」
香澄はおどけて笑ったあと、麻衣の頬を両手で包んで視線を合わせる。
「いーい? 麻衣はマティアスさんの手を取って幸せになるって決めたんでしょう? ならよそ見しないで進まないと。もう〝決めちゃった〟なら、終わった事を気にしても意味がないの」
「香澄……」
潤んだ目で見つめる親友に、香澄はニコッと笑いかける。
「せっかく好きな人ができて、結婚したいって思ったなら、幸せになる事をためらわないで」
親友を励ます香澄の目にも、うっすら涙が浮かんでいる。
「私、嬉しいの。だいっすきな麻衣に好きな人ができたんだよ? 絶対に応援したい。それに、今までずっと会いたくて堪らなかった麻衣が、東京に来てくれるんだもん。嬉しくて嬉しくて、他の事なんて何も気にならないよ」
同意を求めるように笑いかけると、麻衣も困ったように微笑む。
「香澄って、他人の事になると男前になるんだから」
「ふふー。そんなもんです」
クスクス笑った香澄は麻衣の額に自分の額をつけ、目を閉じて微笑む。
「私、佑さんと家族以外に、麻衣が一番大事なの。だから謝らないでね」
「……分かった。……香澄、好きだなぁ!」
「おや? 私こそ麻衣の事が好きですが?」
好き好き言い合う二人は、冬の庭で朗らかに笑った。
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一方マティアスは、これからの予定を話していた。
「明日、マイと一緒に札幌に向かう。一週間ほど準備期間をもうけてから、俺を家族に紹介してくれるそうだ。挨拶が済んだら一度ドイツに戻って引っ越しの準備をする。マイは離職するまで時間がかかるだろうし、俺もビザの問題がある。それまでに東京の住まいを整えられたらと思っている」
計画を聞いた佑は、できる限りの忠告をする。
「彼女のご家族に会う時、苦手かもしれないが愛想笑いをしておけ。それから一夜を共にした事は絶対に黙っておけ。彼女をどれだけ大切に想っているか強調して、同居と結婚の許可を得るんだ」
「分かった」
「不動産は良さそうな物件を探しておくが、予算や希望はあるか?」
「この辺りの一軒家はどれぐらいするだろうか? なるべくマイがカスミと頻繁に会える環境を整えたい」
「分かった。確認してみる」
佑はリビングのテーブルに置いてあった薄型パソコンを開き、操作して白金台の物件を確認する。
「二億円台だな。こぢんまりとした土地に建つデザイナーズハウスが多い。3LDKの中古マンションの空きなら八千万円弱」
「……適度な庭があり、ある程度の広さがある一軒家なら?」
「とっておきを出すなら十二億だ」
「そこを買おう」
即決したマティアスに、双子が尻上がりの口笛を吹いた。
「ひとまず物件は押さえておくが、麻衣さんと現場を見てから決めるんだな。……多分、普通の感覚の女性は、いきなり家を買ったら怒る」
「なるほど」
「金額の問題というより、スーパーで粉チーズ一つ買うにもまず相談だ。粉チーズ一つにしても、麻衣さんのこだわりがある。綿密にヒアリングした上で、住まいや内装を決めてたほうがいい」
言いながら、佑は特大ブーメランを投げている気持ちになり、頭痛を覚えた。
「東京に住むならいつでも話を聞く。日本の常識とそちらの常識は違うし、こまめに会議を開いていこう」
「ああ。感謝する」
マティアスの礼を聞き、佑は溜め息をつく。
「……言っておくがお前のためじゃない。香澄と麻衣さんのためだ」
「分かっている」
二人の会話を聞き、双子がケラケラと笑った。
「タスク、ツンデレ!」
「高低差の激しいやつな」
いつもの双子の茶々入れに溜め息をついた時、外から香澄と麻衣が戻ってきた。
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