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第十九部・マティアスと麻衣 編

二人の帰宅

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 結局双子は深夜に帰ったらしく、その日に顔を合わせる事はなかった。

 翌日の朝食は、三が日を過ぎたので普通の食事となる。

 双子はまだ眠っているので、静かに二人で朝食をとる事にした。

「白米久しぶりだね」

 香澄は佑と向かい合い、白米、焼き魚、味噌汁、卵焼きというベーシックな和食をつつく。

「おせちや雑煮も美味いけど、やっぱり米を食べると安心するな」

「斉藤さんの仕事始めまであと二日あるけど、ゆるっと食事で大丈夫?」

「ああ。俺も一緒に作るから、気負わず過ごそう」

 彼と穏やかな会話をし、〝日常〟に戻っていくのもまた嬉しかった。




 そして九時半になって双子が起きてきた。

「おはよー」

「おはよ、カスミ」

「お前ら、飲み歩くのも大概にしろよ」

 まず佑に注意され、双子はぶーたれる。

「いーじゃん。タスク、おかんみたい」

「おかんってなぁ……」

「おはようございます。ご飯は温かいですけど、お魚とか焼きます?」

 双子が佑に絡むのはいつもの事なので、香澄は今までの会話を無視して尋ねる。

「あー。今から用意してもらうの悪いから、自分たちでテキトーにやるよ」

「コメ食っていいなら、自分でおにぎり作る!」

 そう言ったあと、アロイスは炊飯器を開け、クラウスは冷蔵庫を開けて飲み物の準備をする。

(ブルーメンブラットヴィルでも二人暮らしをしているみたいだけど、普段もこうやって役割分担をしてるのかな)

 そう思うと何だか微笑ましい。

 アロイスはドイツ語の歌を歌いながらおにぎりを作り、クラウスはコップにオレンジジュースを注いで味噌汁を温めている。

「具になる物、あります?」

「塩むすびでもいいよ」

「塩むすびも美味しいですが、何かあったほうが……。あっ、そうだ! お肉類の残りがあったら、細かく切ってみたらどうです? マヨネーズとか、わさびマヨとかで和えてみたら美味しいかも」

「それいいね!」

 アロイスは指を鳴らして冷蔵庫をあさり、保存容器からローストビーフの残りを取りだす。
 クラウスは小さなボウルにマヨネーズとわさびを出し、スプーンで混ぜ始めた。

「アロ、クラ。話があるんだけど」

「んー、なに?」

 佑に話しかけられ、彼らが返事をする。

「マティアスと麻衣さんの事だが、帰ってきてもいじるなよ? あの二人、真剣に付き合うみたいだから、真面目に応援したい」

 そう言われ、アロイスとクラウスは顔を見合わせる。

「あー、あいつね。急に狙いを定めたよな」

「多分、男の本能なんだろうねー」

 返事をしつつアロイスはギュッギュッとおにぎりを握り始める。
 慣れていないからか、彼の手の中ではボールのようにまん丸な物体ができあがりつつある。

「それは心得ておくよ。俺たちだってミサトの事でいじられるのやだし」

「マティアスが今まで、本気で女を好きになれなかった理由は痛いほど分かるしね」

 双子の答えを聞き、香澄はホッと胸を撫で下ろす。

「あいつはいつも通りシレッとしてるだろうけど、マイは真っ赤になって帰ってくるに十ドル」

「あっは! それ、勝負になんないじゃん」

 アロイスの賭けに、クラウスはパンパンと手を打ち鳴らして笑う。

「幸せになってほしいですね」

 しみじみと言うと、アロイスもクラウスも「そーだね」と同意してくれる。

 やがて昼前になって麻衣とマティアスが帰宅してきた。



**



 玄関でフェリシアが「おかえりなさい、タスクさん」と反応したのが聞こえ、リビングにいた四人が「おっ」となる。

 ワクワクする気持ちを抑えていると、リビングにマティアスが顔を出した。

「「おかえりー」」

 アロイスとクラウスが明るく言い、香澄は期待して麻衣が入ってくるのを待った。

(ん?)

 だが親友は姿を現わさず、不審に思った香澄は立ちあがって玄関ホールに向かった。

 しかし彼女はそこにもいない。

「あれっ? マティアスさん、麻衣は?」
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