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第十九部・マティアスと麻衣 編

麻衣からのメッセージ

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「ん……っ。だ、駄目……」

「…………まだ、駄目、か」

 佑は溜め息をついてそう言ったが、手は香澄のお尻を撫で続けている。

 みんな外出中で、家に二人きりだ。

 だがいつ誰が帰ってくるか分からないので、セックスはできない。

 なのに佑はお尻を撫で続け、香澄はむずむずと腰を揺らす。

「本物のうさぎだったら、この辺りに尻尾があるのかな?」

「ひぁっ」

 尾てい骨の辺りをまさぐられ、香澄は小さな悲鳴を漏らした。

「ど、動物の尻尾は敏感だから、弄ったら駄目なんだよ」

「けど、犬とか猫とか、お尻を撫でられると喜ばないか?」

「た、確かに……」

 ペットの話をしていると、佑がアレックスというゴールデンレトリバーを飼っていた事を思いだした。

 どんな犬だったのか思い出話を聞きたいが、まだペットロスを引きずっているらしく悲しい顔をするので、掘り下げて聞けていない。

 そう考えていると、佑がポツリと呟いた。

「……そのうち落ち着いたら、また犬を飼おうかな」

「え?」

「いつまでも引きずっていても前に進めないし、同じ失敗を繰り返さなければいい。庭の中に柵を作れば、塀の近くには近付かないだろうし」

「……うん、……うん! いいと思う」

 頷くと、佑が微笑んだ。

「きっと子供の情操教育にもいいと思う。物心ついた時から〝友達〟がいれば、きっと愛情豊かな子になってくれる」

「……ん、うん……」

 子供の話になり、香澄は照れて佑の胸板に顔を埋めた。

 佑はその反応にクスッと笑い、ポンポンと背中を叩いた。

「まだ少し先の話だけどな。今はまだ、結婚して子供ができるまでイチャイチャしたい」

 と言っても結婚式は来年の予定で、あっという間に時間が過ぎるだろう。

「きっといい式になる。麻衣さんも呼ぼう」

「うん」

 頷いた香澄は、デート中の彼女を思った。

「麻衣、うまくいってるといいなぁ」

「この時間になっても帰ってこないところをみると、泊まりかな?」

「んーふふふふふ……」

 怪しく笑う香澄を見て、佑も笑う。

 そのタイミングで、香澄のスマホに通知が入った。

「んー? なになに……」

 香澄は腕を伸ばし、テーブルの上にあるスマホを取る。

「おっ、……んっふふふふふふ……」

 麻衣からメッセージがあり、『泊まりになります』とだけあった。

 そのあと『すみません』というスタンプが種類違いで三つ並び、彼女の心境が手に取るように分かる。

「麻衣、お泊まりだって」

 ぐっ、と親指を立てると佑が笑った。

「マティアス、真剣なんだな。麻衣さんが幸せならいいけど」

 佑はまだ彼を許していないだろうが、麻衣との付き合いに協力的になってくれているのはありがたい。

「明日帰ってきたら、お二人にいじられないようにしないと」

「そうだな。真剣に付き合おうとしているのに、あいつらに台無しにされたら可哀想だ。先に釘を刺しておかないと」

「宜しくお願いします」

「ん」

 そのあと、香澄は麻衣に『がんばってください!』とスタンプを送っておいた。

 これを見て麻衣がどう反応をするか想像するだけで、楽しくて仕方がない。

「早く報告を聞きたいなぁ。……って、明日には帰っちゃうんだ。早いな……」

 麻衣の仕事始めは月曜日で、前日の日曜日には帰りたいとの希望だ。

 あっという間に過ぎた、濃密な年末年始だった。

「マティアスが東京で働くつもりなら、住まいを探さないとな。明日帰ってきたら要望を聞いて、とっておきを紹介できるようにしておこう」

「宜しくお願い致します! 社長!」

 香澄は元気にお願いしたあと、麻衣が東京に来る事を想像し、嬉しくなってニヤニヤし始めた。



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