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第十九部・マティアスと麻衣 編
一生、離してあげられないよ?
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「……っ、か、香澄を……襲ったように見せかけたのも、エミリアさんに言われたから、……っなんでしょ?」
麻衣は洟を啜りながらも、きちんと確認しなければと思って尋ねた。
「そうだ。エミリアは手に入らない男の代わりに、ステータスの高い男を取り巻きにしようとしていた。カイもその中に含まれていたのだろう。長年連絡を取っていなかったくせに、婚約したと聞いてブチ切れていた。自分からは興味を示さないくせに、〝自分の物〟でなくなると知ると烈火のごとく怒る。昔から、人にも物にも同じ反応を示していた」
理解できない思考回路に、麻衣は溜め息をつく。
「あいつは〝仕置き〟として、俺にカスミを犯すよう命じてきた。……さすがにそれはできないから、知恵を絞ってカスミに『レイプされた』と思わせる手段を執った。結果的にカスミを酷く傷付けてしまった。……だから今後ずっと、罪を償っていくつもりだ」
罪を償うという言葉を聞いた瞬間、麻衣の中で何かが弾けた。
「…………っ、違う! 違う!!」
麻衣は首を横に振り、涙を纏った目でマティアスを見つめる。
「確かにマティアスさんは酷い事をした。それは事実だよ。でも、……っ、あの子は罪悪感を抱いてほしいなんて欠片も思ってない! 前に進んでほしいって思ってる。そう思える子だから自慢の親友なの! 私も……っ、親友が『許す』って言ったなら、香澄の気持ちを尊重したい。……っマティアスさんに、これ以上不幸に囚われていてほしくない! 幸せになってほしい!」
麻衣はマティアスの服をギュッと握り絞め、大粒の涙を零す。
「……なら、俺を愛してくれ」
青い瞳に見つめられ、真摯に愛を乞われる。
胸の奥でドクンッと心臓が跳ね、体温が微かに上がった。
「俺は人の愛を知らずに過ごしてきた。マイが他人のために怒り笑い、悲しむ姿を見て、とても惹かれた。マイの側にいれば、カスミのように愛してもらえるのかと期待している」
マティアスはまっすぐに見つめ、手を握ってくる。
「東京で一緒に過ごし、毎日マイの事ばかり考えていた。マイは以前の俺を知らないだろうが、これでもとても笑うようになったんだ。他の女性じゃ、俺をこんなふうに変えられない。俺にはマイしかいない」
目を潤ませた麻衣は、マティアスの告白を聞いて打ちのめされたように感動していた。
女性というカテゴリの中で底辺にいると思っていたのに、彼は「麻衣じゃないと駄目だ」と全身全霊で求めてくれる。
同時に、薄暗い、同情すべき過去を持つ彼を「幸せにしてあげたい」と強く願った。
この感情に、何と名前をつけたらいいのか分からない。
同情なのか、承認欲求なのか、もっと別の何かなのか。
分からないけれど、自分とマティアスという男がすべての面において、パズルのピースのようにカッチリと嵌まったのが分かった。
「……一生、離してあげられないよ? 私の事を愛してほしいって、ずっと思ってしまうよ?」
麻衣は震える手でマティアスの手を握り、最後の確認をする。
「それは俺のセリフだ。もうマイは俺のものだ。誰にも渡さない」
「…………っ、よろしく、――おねがい、……っします……っ」
コクッと頷き瞬きをすると、眦から大粒の涙が零れて頬を伝っていった。
マティアスはその雫を舐め、頬にキスをしてから、顔を傾けて唇に口づけてくる。
「…………っ」
一気にあらゆる感情がこみ上げ、麻衣は拙くマティアスの唇をついばみながら、両腕で力の限り彼を抱き締めた。
彼は何にも動じない岩のような印象ながら、その奥に大きな虚無を持っている。
これから一緒に過ごすなかで、たとえ長い時間が掛かったとしても、その穴を幸せで満たしてあげたい。
――きっと、幸せにしてみせる。
――いつか、満面の笑みで「幸せだ」って言わせてみせる。
麻衣は自分自身に誓い、涙の味がするキスにすべての気持ちを込めた。
「……は……」
唇が離れ、二人が同時に濡れた息を吐く。
マティアスはもう一度麻衣を抱き締め、謝罪してくる。
「同情を買うような事を言ってすまない」
「……ううん。人の愛し方が分からないっていうの、理解した。大丈夫。そういうふうに、自分を下げて言わなくても大丈夫」
自分よりもずっと体の大きなマティアスの髪を撫でると、まるで大型犬を撫でているような心地に陥った。
同時にすっぽりと包まれるように抱き締められると、「私、体が大きいはずなのにな」と不思議な心地になる。
麻衣は洟を啜りながらも、きちんと確認しなければと思って尋ねた。
「そうだ。エミリアは手に入らない男の代わりに、ステータスの高い男を取り巻きにしようとしていた。カイもその中に含まれていたのだろう。長年連絡を取っていなかったくせに、婚約したと聞いてブチ切れていた。自分からは興味を示さないくせに、〝自分の物〟でなくなると知ると烈火のごとく怒る。昔から、人にも物にも同じ反応を示していた」
理解できない思考回路に、麻衣は溜め息をつく。
「あいつは〝仕置き〟として、俺にカスミを犯すよう命じてきた。……さすがにそれはできないから、知恵を絞ってカスミに『レイプされた』と思わせる手段を執った。結果的にカスミを酷く傷付けてしまった。……だから今後ずっと、罪を償っていくつもりだ」
罪を償うという言葉を聞いた瞬間、麻衣の中で何かが弾けた。
「…………っ、違う! 違う!!」
麻衣は首を横に振り、涙を纏った目でマティアスを見つめる。
「確かにマティアスさんは酷い事をした。それは事実だよ。でも、……っ、あの子は罪悪感を抱いてほしいなんて欠片も思ってない! 前に進んでほしいって思ってる。そう思える子だから自慢の親友なの! 私も……っ、親友が『許す』って言ったなら、香澄の気持ちを尊重したい。……っマティアスさんに、これ以上不幸に囚われていてほしくない! 幸せになってほしい!」
麻衣はマティアスの服をギュッと握り絞め、大粒の涙を零す。
「……なら、俺を愛してくれ」
青い瞳に見つめられ、真摯に愛を乞われる。
胸の奥でドクンッと心臓が跳ね、体温が微かに上がった。
「俺は人の愛を知らずに過ごしてきた。マイが他人のために怒り笑い、悲しむ姿を見て、とても惹かれた。マイの側にいれば、カスミのように愛してもらえるのかと期待している」
マティアスはまっすぐに見つめ、手を握ってくる。
「東京で一緒に過ごし、毎日マイの事ばかり考えていた。マイは以前の俺を知らないだろうが、これでもとても笑うようになったんだ。他の女性じゃ、俺をこんなふうに変えられない。俺にはマイしかいない」
目を潤ませた麻衣は、マティアスの告白を聞いて打ちのめされたように感動していた。
女性というカテゴリの中で底辺にいると思っていたのに、彼は「麻衣じゃないと駄目だ」と全身全霊で求めてくれる。
同時に、薄暗い、同情すべき過去を持つ彼を「幸せにしてあげたい」と強く願った。
この感情に、何と名前をつけたらいいのか分からない。
同情なのか、承認欲求なのか、もっと別の何かなのか。
分からないけれど、自分とマティアスという男がすべての面において、パズルのピースのようにカッチリと嵌まったのが分かった。
「……一生、離してあげられないよ? 私の事を愛してほしいって、ずっと思ってしまうよ?」
麻衣は震える手でマティアスの手を握り、最後の確認をする。
「それは俺のセリフだ。もうマイは俺のものだ。誰にも渡さない」
「…………っ、よろしく、――おねがい、……っします……っ」
コクッと頷き瞬きをすると、眦から大粒の涙が零れて頬を伝っていった。
マティアスはその雫を舐め、頬にキスをしてから、顔を傾けて唇に口づけてくる。
「…………っ」
一気にあらゆる感情がこみ上げ、麻衣は拙くマティアスの唇をついばみながら、両腕で力の限り彼を抱き締めた。
彼は何にも動じない岩のような印象ながら、その奥に大きな虚無を持っている。
これから一緒に過ごすなかで、たとえ長い時間が掛かったとしても、その穴を幸せで満たしてあげたい。
――きっと、幸せにしてみせる。
――いつか、満面の笑みで「幸せだ」って言わせてみせる。
麻衣は自分自身に誓い、涙の味がするキスにすべての気持ちを込めた。
「……は……」
唇が離れ、二人が同時に濡れた息を吐く。
マティアスはもう一度麻衣を抱き締め、謝罪してくる。
「同情を買うような事を言ってすまない」
「……ううん。人の愛し方が分からないっていうの、理解した。大丈夫。そういうふうに、自分を下げて言わなくても大丈夫」
自分よりもずっと体の大きなマティアスの髪を撫でると、まるで大型犬を撫でているような心地に陥った。
同時にすっぽりと包まれるように抱き締められると、「私、体が大きいはずなのにな」と不思議な心地になる。
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